
第9期翔龍戦
初日:1〜4回戦 | 2日目:5〜8回戦 | 3日目:9〜12回戦 | 成績表 | システム
観戦記:小宮山 勤
GWの5月3・4・5日、東京対局室にて第9期翔龍戦が行われた。
出場選手は、昨期の優勝者である成岡明彦名翔位に、小川隆・平井淳、そして新A級の田中実、ここまでがA卓スタート。そして田中と同じく新A級の安田健次郎に、村田光陽・堀川隆司、唯一B級から山内啓介の以上8名。
まずシステムを簡単に説明すると、A卓は303評価、B卓は202評価で行われ、A卓のラスとB卓のトップを入れ替えて次戦が行われる。これを2日間で8回戦まで繰り返し行い、その時点での成績上位4名が最終日である3日目に駒を進めることができる。そして3日目は404評価で4回戦を戦い、優勝者を決める。なお、同スコアの場合はあとから追いついた方が成績上位となる。
最も注目を集めるのは何といっても成岡二冠であろう。そして新A級の田中・安田にとってもここでの戦いが今期の試金石にもなるはず。活躍に期待したい。
激闘の3日の観戦記は私、小宮山がお送りする(文中敬称略)。
A卓では、まず東2局に成岡が5巡目に並びのないところからこのリーチ。

















































B卓は微差の戦いになったが、先行していた村田を安田が南4局に13・26で捲って好スタート。新A級の二人にとっては、明暗の分かれた立ち上がりとなった。
A卓(平井±0・成岡±0・小川+3・安田+2)は、細かいながらもチョーマが激しく卓上を飛び交う展開となり、南4局を迎えた。
点差は、平井04→小川05→安田22→成岡で、唯一人アガリのない成岡がラスめ。3着めの安田でさえ12の出アガリでOKというミクロの争いは、小川がフリテンながらしぶとく4・8をひいて連勝を決めた。
B卓(堀川±0・山内△2・村田±0・田中△3)では、東1局に田中が3・6をひきアガるも、すぐに堀川が山内から40を出アガってトップめに。その後は流局が続いたが、南入してからは目まぐるしくラスめが入れ替わる。
まず南1局に山内が10・20を決めると、南2局は村田が20・40。そして南4局は、再度ラスめに落とされていた山内が流局寸前の16巡目にこのひきアガリ。


















A卓(小川+6・安田+2・平井±0・村田+2)、東場は安田7・14、村田16(←平井)で終えて、戦いは南場へ。その南1局に村田がつまずいた。ピンフ・ドラ1のテンパイから

B卓(成岡△3・田中△5・山内△2・堀川±0)では、連敗スタートとなった田中が奮起。東2局、7巡目に成岡が河に放った


















南場に入って堀川が田中を逆転し、南4局を迎えて点差は、堀川22→田中30→山内130→成岡。
終盤の14巡目、ようやくテンパイの入った成岡が、渾身のこのリーチ。

















そして17巡目、田中が成岡の


気分よく2日目を迎えるためには踏ん張りどころとなる初日の最終戦。A卓(平井±0・堀川+2・安田+5・小川+6)は、東場は平井ペースで進行した。開局に3・6で先制した堀川から東3局に52を打ち取った平井は、東4局にも2フーロのホンイチで5・10。
そして、南1局に小川が20・40をひきアガって迎えた南2局、南家・安田と西家・小川にほぼ同時にテンパイが入った(ドラ






























B卓(山内△2・田中△5・成岡△5・村田△1)。大きな負債を背負った田中・成岡はこれ以上マイナスは増やしたくないところであろう。が、田中への逆風がどうにも止まらない。成岡へ64、山内にはリーチ棒付きで80、さらに村田にも52と東場から火ダルマに。
南4局を迎えての点差は、山内38→村田37→成岡266→田中。その1は村田が田中から18を打ち取り、その2は村田・山内・成岡の三者による激しい仕掛け合いとなった。
序盤から一気に3フーロし、ドラ



















成岡はまたもやギリギリのところでトップを逃し、マイナスのまま初日を終えることとなった。
A卓(山内±0・小川+6・平井±0・堀川+5)、東1局にオヤの山内が10巡目に原点リーチ。



















すると続く東2局、今度は平井からリーチがかかった。

















その後は細かいチョーマのやり取りがあったが、南2局に小川が20オールをひき、南4局を迎えての点差は、平井16→小川55→堀川28→山内。
その南4局、テンパイ一番乗りはオヤの堀川。11巡目に、

































B卓(安田+2・田中△7・成岡△5・村田△1)では、東2局に安田が原点リーチを放つも流局。その後、田中16(←成岡)、成岡7・14(オヤ・田中)とアガリが出て迎えた南4局、3着めの村田まで10差のラスめ・安田が2フーロと攻め立てるも、ここは成岡が踏ん張って10オール。その2は村田がトップ狙いのリーチをかけたが流局し、ラスなしで終了した。
A卓(平井+3・小川+6・山内±0・成岡△3)、まずは平井が東2局に山内の打牌を捕らえて40の先制点。





































B卓(安田+2・堀川+2・田中△7・村田△1)。田中にとっては、残り全てトップでないと最終日に駒を進めることがほぼできない厳しい状況。が、このゲームは村田が大暴れ。東1局に田中からリーチ棒付きで40を打ち取ると、次局も田中から64。さらに東3局にはスーアンコをツモって(オヤ・田中)早々とトップを決めた。
窮地に追い込まれた田中は東場でのビハインドがあまりにも大きく、結局このまま終了。これで事実上、田中の敗退が決まった。
A卓(成岡△3・村田+1・山内+3・平井+3)は、東1局から流局が続く重苦しい展開。初めてチョーマが動いたのは東4局、オヤの平井が3巡目に打牌を横に向けた。


















これに対して村田がすぐに




























































B卓(小川+3・田中△9・安田+2・堀川+2)では、東1局にいきなり小川が安田から120を打ち取るが、東2局にオヤの田中がチートイツ・ドラ2をひきアガって小川を逆転。その後堀川が20・40をひいて反撃するも、南3局に田中が安田から52を出アガってトップ。
ここまでずっとプラススコアで好位置につけていた安田にとっては、大きな1敗となった。
いよいよ2日目の最終戦を迎えた。ここで「同スコアは追いつき有利」というルールを念頭に、各々の勝ち残り条件を見てみよう。
まず、現在+6で首位の山内(A卓)はすでに3日目に進むことが確定している。同時に△7の田中(A卓)も敗退が決定。次位は+3の平井(A卓)だが、バー以上なら文句なし。しかし、もしラスをひくとかなり勝ち残りが厳しくなる。一方で、平井と同じく+3の小川(B卓)はたとえラスでも+1となるだけなので可能性はある。
そして+2の堀川(B卓)だが、こちらはトップなら無条件、バーでも同卓の±0の安田にトップを奪われなければまず大丈夫。その安田は、自身がトップを取れば堀川に追いつくのでOK。
現在△1の村田(B卓)は、堀川もしくは小川とのトップ−ラスを決めることが条件。最後に△3の成岡(A卓)だが、こちらは自力での可能性はなく、平井とのトップ−ラスを果たした上でB卓の結果次第となっている。
それぞれの思惑が交錯する中、静かに8回戦が始まった。
A卓では、成岡が3・6で先行するも、直後に田中が山内に60を打ち上げる。このまま山内にトップをさらわれると明日の戦いが苦しくなる平井がここから踏ん張って、まずは5・10。さらに南2・3局と連続してリーチで10・20、40オールを成就させて一気に勝負を決め、山内と同スコアの首位で3日目に駒を進めた。
B卓(堀川+2・安田±0・村田△1・小川+3)では、東1局に堀川が勝ち残りに向けて実に大きな120をモノにした(放銃・村田)。


















東場はこのあと安田が小川に28を打ち込んだだけで終了し、以降は流局が続く。そして動きがあったのが南3局、安田が遅ればせながら堀川追撃の20・40。


















かくして3日目に勝ち残ったのは、成績上位から平井+6・山内+6・堀川+4・小川+3の4名となった。ここからは404評価での戦いなので、実質的な差は順位ほどといったところ。翔龍戦始まって以来の僅差での最終日となったが、延長戦のない4戦という超短期決戦においては、これは決して小さな差ではないとも言える。
果たして最後にこのスプリントを制するのは誰か。その答えは24時間後に出される。
(平井+6・小川+3・堀川+4・山内+6)
最終日を迎えた。泣いても笑ってもあと4戦である。
いつもにもまして張りつめた空気の中で開始されたこの日の初戦。東1局は流局し、迎えた東2局で平井が先行した(牌譜A)。
平井にテンパイが入ったのが9巡目。






























確かに小川も高目ひきアガリなら40オールのテンパイ。が、残り巡目を考えると、ここで駒を下げるという選択肢も十分あると思われる局面だっただけに、ノータイムでのツモ切りが淡泊に感じられたのも事実。あるいは、直前の平井の

しかし、これが小川の持ち味とも言えよう。実際、ここ数年のA級戦での小川の活躍はこの「攻め姿勢」によるものと言えるかもしれない。昨期のA級戦の最終戦でも、2度目の名翔位を手中にしたかと思われた瞬間もあった。
ともあれ、現在首位の平井が気分よく先行を果たした。
さてその平井だが、次局(牌譜B)の捌きには少々驚かされた。
4巡目にしてこのイーシャンテンの平井。




















で、この後どうなったかというと、次のツモがドラの



続く東4局は小川が3メンチャンのピンフをヤミテンのままひきアガり4・8。そして次局は最終手番でロン牌をひき寄せ、20・40で小川がラス抜けを果たす。















































































確かに実戦心理というものもあるので何とも言えない部分もあるのだが、こういった場面でキツい踏み込みを見せてアガリを得る小川の姿もこれまで何度も見ているだけに、もったいなかった気がしたのは事実である。一方の平井、もちろん本人は知る由もなかっただろうが、ここは大いに助かった。
南3局は、平井が配牌には手の内に1枚もなかったドラを序盤から立て続けに3枚ひき込み、ダメ押しともいうべき20・40をひきアガる。



















確かにラスオヤなので安手での連荘にはさほど意味はないかもしれないが、持ち点状況を考えると多少強引な選択にも思える。とにもかくにも山内の思惑は絵に描いた餅に終わり、堀川がギリギリのところでラス抜けを果たした。
(平井+10・堀川+4・山内+2・小川+3)
東1局、小川が10巡目に軽やかに先制点を挙げる。

















その平井、いきなりラスめに落とされて焦ったわけでもなかろうが、次局の放銃は少々淡泊に見えた(牌譜E)。
ただ、この堀川の3巡目からの仕掛けも、微妙と言えば微妙か。

















一方、放銃した平井だが、いかにドラを3枚抱えていたとはいえ、こんな仕掛けから入った堀川に対して


続くその2でも平井の打牌が捕まった。



















その山内は、東4局も積極的に仕掛けて5・10。これで堀川をわずかながらかわして、戦いは南場へ突入した。
そして、堀川が再逆転したのが南1局(牌譜F)。
イーシャンテン一番乗りは小川。











































そして迎えた南4局(牌譜G)。点差は、堀川10→山内15→小川102→平井(供託10)。ラスめの平井はもちろんのこと、ツモに好感触を得たのか、トップめの堀川も真っ直ぐに手を進める。点差が点差だけに、小川・山内ももちろんここは簡単には譲れない。かくして、通常の101ではそうそう見られない四者の激突が繰り広げられた。
まずは10巡目に堀川が役なしながらテンパイ。そして、ここからが何とも目まぐるしい。













































が、手に汗を握ったのも一瞬、決着はあっという間についた。堀川、首位の平井をラスにして大きな+4である。
(山内+2・平井+6・堀川+8・小川+3)
小休止を挟んで再開された11回戦。もし「◎堀川−●平井」なら堀川のコールド勝ちでの優勝である。一方、山内・小川にとっては、自身がラスなら優勝の可能性はほぼなくなる。
そんな条件もあってか、ゲームは開局から重苦しい流局が続き、初めてチョーマが移動したのが東4局8巡目のこと。

















ここからは小川・山内も必死になって堀川を締め付けにかかってくることが十分予想されるだけに、たとえ16差とはいえ堀川のラス抜けはそう簡単にはかなわないのではと思われたのだが、南1局、こともあろうにその堀川のリーチにオヤの山内が捕まってしまった(牌譜H)。
実は、この山内の放銃に対しても平井が対局終了後に突っ込んでいたのだが、ここは読者諸兄もぜひとも山内の立場に立って、何を打つべきか考えてみて欲しい。
当然だが、ここは絶対に放銃だけは避けたい場面である。が、これが実戦心理か。「7巡目に平井さんがツモ切った


とにかく、ドラを打ってリーチだけにそのマタギはまず打てない。そして、残った手牌は全て無スジという手詰まりからの放銃。が、決して山内をかばうわけではないのだが、ここまで追い詰められた局面でなければ

山内「そもそもこんな手格好にしていることに問題がある。ただ、配牌でドラが2枚、オヤ番のここはとにかくアガりにいくと決めたはずやったのに…結局、ハラの括り方が中途半端なんよ」
この局、山内の背後に陣取っていた観戦子は、

















ともあれ、大変なことになった。もしこのまま堀川のトップで終われば小川・山内には優勝の可能性はなくなり、最終戦は「◎平井−●堀川」の場合のみ平井の逆転優勝となる(ちなみに平井がラスならその次戦すらないのは冒頭に記したとおり)。
決して打ってはならない相手に放銃してしまった山内。この後は、果たして山内が精神的なダメージを引きずることなく戦えるかどうかが重要なカギを握っているな、と観戦子は感じていた。
ところが、それが杞憂に過ぎないことがすぐにわかったのが次局(牌譜I)。実は観戦子が、山内の「隠れたファインプレー」だと勝手に決めつけた局でもある。
序盤から積極的に仕掛ける山内。少々時間がかかり、ヤキモキしただろうが何とか3・6を得た。

















山内「あの放銃の直後の洗牌の時に、もう頭は切り替えた。このあとは、とにかく堀川さんとの点差を段階を踏んで詰めていこう、と。もちろん大きなアガリをモノにできればそれに越したことはないけど、次局、最低でも3・6で堀川さんと49差。こうしておけば、もしその次の堀川さんのオヤ番でどうにもできんでも、最終局は10・20条件になるから」
この日立会人を務めていた愛澤圭次理事長も、対局後大いに感心していたこの冷静な判断。そして事実、この3・6が最後に大きくモノを言ったのである。
続く南3局、オヤの堀川は序盤でファン牌を4種も抱えさせられ、流局狙いへ。未だラスめの山内はもちろんのこと、堀川を追撃したい平井・小川も手が重く全員がノーテンで流れ、ついに南4局(牌譜J)を迎えた。
点差は、堀川10→平井13→小川25→山内。山内と小川は堀川トップで「ジ・エンド」となるためアタマ狙いあるのみ。平井も最終戦の条件を考えれば、ここは当然真っ直ぐアガリに向かうだろう。
まず、先手を奪ったのは平井。堀川から2つ三元牌をポンポンと鳴けて、7巡目にこのテンパイ。

















テンパイ後、連綿とツモ切りを続ける平井。すると12巡目、ようやく山内が追いついた。そして、ひときわ大きな発声とともに山内が打牌を横に曲げる。
















山内の出アガリ条件は52以上。それ未満であれば、堀川以外からの出アガリはない。それを見越した上で平井も真っ直ぐに突っ込むが、なかなか決着がつかないままどんどん巡目が進んでいく。ここに至っては両者の摸打を見守るしかない堀川と、何とか活路を見出さねば敗退が決まってしまうため必死にツモと格闘する小川。四者が四者とも何とも言えない形相で河を睨みつけている。
そして残りのヤマもわずかという17巡目、この時点で平井の



(◎山内+2→+6/堀川+8/平井+6/●小川+3→△1)
(山内+6・小川△1・平井+6・堀川+8)
3日間にわたる翔龍戦もついに最終戦を迎えた。改めて、優勝の可能性のある三者のスコアとその条件を確認しておこう。
まずは+8の堀川は、「トップ」もしくは「小川単独トップの時のみ自身バー」で優勝。次に山内は平井と同じ+6だが、「同スコアの時は後から追いついた方が上位」というルールによって「トップ」もしくは「小川単独トップかつ堀川ラス」なら勝ち。最後に平井だが、こちらは「トップ(ただし、堀川及び山内との同点トップは不可)」以外に優勝はない。
開局はオヤの山内が主導権を取るべくファン牌を叩いて攻めるも、ロン牌には巡り合えず流局。
局面が動き出したのは東2局の小川のオヤ番から。13巡目にその小川がドラの


















配牌にはわずかにトイツが2組というものだったが、ツモが生きていた。
運命の分かれ道は11巡目。



























さて、実戦では平井にご覧のとおりのフリテンリーチがかかり、マンガンのポンテンだった堀川もさすがにここは撤退。そして、平井が大きな40オールを得て、小川に並びかけた。
これで勢いづいたか、東4局には平井が単独トップめに躍り出る。































その後は膠着状態が続き、大きくゲームが動いたのが南3局のこと(牌譜L)。最初にテンパイが入ったのは9巡目の平井。





























一方、山内のこの仕掛けは、たったの12とはいえあわよくば平井直撃、次善でもツモアガリで何とか小川と平井の点差を詰めようと画策してのもの。平井の攻勢にこのまま手をこまねいているわけにはいかないということだろうが、いかんせん13巡目に出たロン牌は小川から。もちろんロンをかけるわけにはいかない。アガったところで自分の首を絞めるだけである。
ところが、この見逃しが思いもよらぬ急展開を産んだ。終盤に一気に小川が追いついたのだ。



















が、局面は超終盤。残りヤマはほとんどなく、流局かと思われたその時、最終手番の堀川が小さな嘆息とともに、あたかもそれが共通安全牌であるかのごとく

ところで、小川に

ともあれここは、溜めに溜め、最後の最後できっちりと差し込んだ堀川の決断に感服するほかない。小川の河には

しかし、堀川はあえて「茨の道」を選択した。優勝するために、ここは一旦山内の下に大きく潜ろうとも、自身の運命を最後のオヤ番に託したのである。
ついに南4局(牌譜M)を迎えた。山内は、このままの並びを維持できできれば優勝。平井は小川との55差を捲ればいい。そして、堀川はラス抜けに全てを賭けることとなった。
その堀川が得たのが、この配牌である。
















4巡目に堀川の手からドラの


ところで、譜をご覧になればおわかりのように、堀川は8巡目に40オールを逃している。堀川は対局後、「山内さんからの直撃がベストなので、(山内さんから)確実にこぼれる牌で待ちたかった」とコメントしており、このマチを維持したようだ。もしここで40オールを成就できても、山内との点差は75。これは、次局80出アガリか13・26でかわされる点差であり、平井も小川との点差は55のまま。一方、もし山内を直撃できていれば、点差107となる山内のラスは濃厚となり、あとは平井が小川を捲ることを阻止できさえすれば、堀川の優勝である。もちろん可能性という点では、まだ20・40でOKの山内のそれが潰えるわけではないが、あくまで現実的に考えた場合、堀川にとって優勝へのハードルが低いのは間違いなく後者だろう。
あえて山内を直撃しようとして40オールを逃し、結果は平井からの出アガリ。それでも、この96に何一つ不満のあろうはずはない。何より、これで平井はハネマンツモアガリでも小川に届かなくなってしまったのである。
さあ、これで今度は堀川が栄冠に手をかけるところまできた。しかし、そのためには堀川は全力でもう1局凌がなければならない。
堀川と山内の差はわずかに11。ということは、山内は「ロン」と言えさえすればよい。逆に平井が優勝するためには、小川と点差151を捲らなければならない。かくして激闘3日間の集大成ともいうべき最終局が開始された(牌譜N)。
前局とは打って変わって手の内にバラバラの字牌を4枚の配牌を手にした堀川は、テンから流局策に出た。小川は、この期に及んでは自分の出番は終わったとばかりに、三者に勝負の趨勢を預ける。そして山内・平井はそれぞれの条件に従ってストレートにアガリに向かうが、平井には黒棒1本が重くのしかかる。
迎えた13巡目、何とかメンゼンで手をまとめた山内にテンパイが入った。



















一方の平井、最後の運命の分かれ道は山内テンパイの3巡後の16巡目、














しかし、平井は「他力での勝ちなど眼中にはない」とばかりに正々堂々と不動の構えを貫いた。そして、もしここで平井がポンテンを取っていれば、4枚目の

迎えた17巡目、ドスの効いた「ロン」の声とともに山内の手元で


場所は変わって、対局室の最寄り駅であるJR御徒町駅近くの居酒屋での打ち上げの席でのこと。
優勝した山内の正面には堀川が座している。もっともこれは別に意図的なことではなく、かといって全くの偶然というわけでもない。多分に洩れず、昨今は我が101競技連盟にも世間並みに禁煙志向の波が押し寄せ(かく言う観戦子もその一人。一方、山内・堀川はいずれもスモーカーである)、喫煙者が少なくなってきただけの話である。
ほどなくして愛澤理事長の音頭で乾杯となり、山内の席まで皆がグラスを合わせにやってくる。そして、いつものようにあちらこちらのテーブルで歓談が始まった。
ふと気付くと、山内と堀川の周囲では、先刻からマージャンの話題が出ない(もっとも向こうの席では、成岡が大きな声でマージャンの話しかしていないが…)。というか、乾杯の直後にほんの少し対局内容について触れられただけで、その後は一向に話題に上らない。
これはひょっとすると、さすがの山内も遠慮しているのかとも思ったが、ただ、これは無理もないことかもしれない。確かに結果的に優勝したのは山内だが、そのお膳立てを全てしたのは堀川だったと言っても過言ではないのだ。見方によっては、最後の美味しいところだけ山内がさらっていったようにも見えるのも、また事実ではある。
もちろん、そこは山内も大人なので、堀川に対して同情したり「すまなかった」などと声をかけたりはしない。ただ、勝ったはずの山内の表情が微妙なものであったのを観戦子は見逃さなかった。が、堀川に目をやると、終始笑みを浮かべながら会話を楽しんでいる。確かに結果こそ残せはしなかったが、持てる力は十二分に出し切った。だからこそ悔いはあまりないのかもしれない。
そういえば、以前、観戦子の敬愛する有馬理(数年前に引退、現在は特別会員)がこんなことを言っていたのを思い出した。「結果も大事だが、それ以上にいい牌譜を残す、それが重要な仕事なんだ」。堀川は、その点に関して言えば自分らしさを発揮し、結果は別にして満足できる仕事ができたのではなかろうか。
一方、これが連盟入り23年目の初タイトル獲得となった山内だが、最後の最後できっちりと結果を出したのだから、堂々と胸を張ってもらいたいと思う。
気が付くと、成岡が山内の隣にやって来て、盛んに祝福の言葉をかけている。名翔位であり、昨年のこの翔龍位を含め数多のタイトルを獲得してきた年下の兄弟子(ともに僧根幸男門下)である成岡。これまで幾度も山内から祝福されてきたことだろう。今夜はそのお返しである。
実はこの日成岡は、現在101競技連盟で試験的に行っている対局中継のストリーミング配信の映像を自宅で観ていて、11回戦の最終局で山内が逆転トップをモノにするや、いても立ってもいられずに対局室に駆けつけたのだという。そして、勝った山内本人よりもうれしそうな様子に、成岡のまた違った一面を垣間見たような気がして微笑ましく感じられたことも書き添えておきたい。
山内は最近酔うとしきりにこう言う。「オレには時間がないんや」(決して不治の病いで余命幾年というわけではない、念のため)。古くからの101ファンの方々ならご存知であろうが、山内はこれまでに3度A級に昇級している。 それは同時に、3度A級から陥落したということでもあるのだ。「もう一度やらんとアカンのや」。恐らく幾夜も眠れぬ夜を過ごしたに違いない。山内の挑戦はまだ終わってはいないのだ。が、今しばらくは今日の勝利の美酒に酔いしれてもいいではないかと、観戦子は勝手に思うのである。
山内さん、本当におめでとうございました。そして最後に、拙文にお付き合い頂きました読者諸兄の方々に感謝の意を表しつつ、筆をおかせて頂きます。ありがとうございました。
第9期翔龍戦 成績表
初日・2日目 (5月3・4日/東京対局室)
A卓:303評価(トップ◎/ラス●) B卓:202評価(トップ○/ラス▲)
選手名 |
1回戦 |
2回戦 |
3回戦 |
4回戦 |
5回戦 |
6回戦 |
7回戦 |
8回戦 |
終了時 |
順位 |
成岡 明彦 |
A − |
A ● |
B ▲ |
B − |
B ○ |
A − |
A − |
A − |
△3 | 6 |
小川 隆 |
A ◎ |
A ◎ |
A − |
A − |
A − |
A ● |
B − |
B − |
+3 | 4 |
平井 淳 |
A − |
A − |
A − |
A − |
A ◎ |
A − |
A − |
A ◎ |
+6 | 1 |
田中 実 |
A ● |
B ▲ |
B − |
B ▲ |
B − |
B ▲ |
B ○ |
A ● |
△10 | 8 |
安田健次郎 |
B ○ |
A − |
A ◎ |
A ● |
B − |
B − |
B ▲ |
B − |
±0 | 5 |
村田 光陽 |
B − |
B ○ |
A ● |
B − |
B − |
B ○ |
A ● |
B ▲ |
△4 | 7 |
堀川 隆司 |
B − |
B − |
B ○ |
A ◎ |
A ● |
B − |
B − |
B ○ |
+4 | 3 |
山内 啓介 |
B ▲ |
B − |
B − |
B ○ |
A − |
A ◎ |
A ◎ |
A − |
+6 | 2 |
3日目 (5月5日/東京対局室)
404評価(スコア持ち越し)
選手名 |
開始前 |
9回戦 |
10回戦 |
11回戦 |
12回戦 |
終了時 |
結果 |
平井 淳 | +6 | ◎ | ● | − | − | +6 | |
山内 啓介 | +6 | ● | − | ◎ | − | +6 | 優勝 |
堀川 隆司 | +4 | − | ◎ | − | ● | +4 | |
小川 隆 | +3 | − | − | ● | ◎ | +3 |
第9期翔龍戦 システム
【出場資格】
前期の翔龍及び順位戦各クラス上位選手合計8名
【システム】
・初日・2日目
1回戦は、前期の翔龍位をA卓シードとし、出場資格取得順にA・B卓を決定する。
A卓が303評価、B卓が202評価で行われ、各回のA卓の4位者とB卓の1位者が昇降 する。
なお、同点1位または4位なしの場合は、「起家に近い方を下位」とし、昇降者を決定する。
8戦を行い、上位4名が3日目の決定戦に進出する。
・3日目(決定戦)
404評価による4戦を行い、最上位者を「翔龍」とする。
4戦を行う前に最上位者が確定した場合は、その時点でコールドゲームとする。
※本戦・決定戦とも、同スコアの場合は、追いついた方を上位とする。