第34期順位戦A級 第1節

 観戦記自戦記その1/安田健次郎自戦記その2/田中 実星取表

第1節観戦記:大貝 博美

 安田・田中と2名の初参戦組を加え、幕が開いた第34期のA級戦。前日の初日に4回戦まで消化したわけだが、スコアは思いがけず大きく動いた。「安定感では随一」と観戦子が考える堀川のこのつまずきは意外としか言いようがないが、はたして立て直しはなるか。逆に2回戦からの3連勝とロケットスタートを決めた小川は、出来の良さに乗じて首位固めを図りたいところ。また新A級の二人、初日は極度の緊張状態にあったに違いないが、とりあえずの無難な立ち上がりにひとまずはホッとしているか。次節までの期間を心穏やかに過ごせるかどうかはこの二日目次第。熱戦の模様をお届けしていこう。

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◆◆◆ 5回戦B卓 ◆◆◆

〈田中△1・安田0・小川3昇・愛澤1昇〉

 開局のオヤ・田中、とひいた4巡目の手牌はこんなもの。

 これが15巡目のツモまでテンパらず、流局となっていささか鼻白んだ様子。「やはりB級までとはツモの利き方が違う」と思ったかどうか。
 この半荘の先手は安田、田中のドラアンコ・片アガリのテンパイ打を叩いてアンコの8オール。前日最終の4回戦で、この舞台での初対戦を経験した新A級の両者だが、そこでラスに甘んじた安田には期するものがあるだろう。
 安田は続く東2局その2でも5巡目テンパイ、小川から24の追加点。
 ノーメンツから打ち込みに回った小川に変調の兆しあり、か。

  この後3局続けてチョーマが動くめまぐるしい展開。愛澤→田中、愛澤→田中、安田→小川といずれも打点16。
アガリ多発の東場を終えて安田08→田中40→小川24→愛澤という並びだが、南場になるや一転風が凪ぎ、3局が静かに流れていった。
 この間に目をひいたのは愛澤の落ち着きぶり。南2局13巡目のテンパイはチートイツのマチだが、このはすでに仕掛けている田中のロン牌。ここにドラのをひいて考えるまでもなくテンパイを崩したわけだが、ラス抜けまで24差・トップまで72差でこんなにもノータイムで打てるものなのか。
 こうして迎えた南4局その1、小川の摸打が興味深い【牌譜1】
ツモときた6巡目の打。打でも打でもないこの選択は、3着めでありながらも明らかにトップ獲りに比重を置いている。さらに次巡にサンショクへのチャンスが増し、手応え十分ではなかったか。小川にとっては肩すかしを喰ったようなこの局の結末。
 一方、アガった愛澤の5巡目は形だけなら打がよさそうだが、直前に2枚目のを見せてもらったのが幸いした。もしもソーズに2メンツを見込んだら、このラス抜けはなかったかもしれない。
 続く南4局その2が決着局【牌譜2】。観戦子のポジションは田中と安田の間だったが、安田にポンテンを入れさせた小川のがトイツ落としだったとわかった時、『これは安田の逃げ切りだな』と思った。ところが山ザクのロン牌がなかなか訪れない13巡目、もたつき感のあった田中にもテンパイが。ただし直前にたくさん打たれたばかりのマチではいかにも心許なく(現に純カラ)、大した希望は抱けなかったに違いない。なので2巡後、マチカエの直後に小川のリーチを受けた時は半ば諦めの気持ちが生じたかもしれないが、すぐにひけたのはこれもリン牌の。記念すべき田中のA級戦初トップが、汗みどろの形で訪れた。
 時間はかかってもトップまであるテンパイに行き着いた小川、逆転のイメージはかなり強かったことと思う。もしも田中がどこか一つ間違えていれば、もしも小川にあと1回のツモ番があったならば、安田の渋面を横目に同テンをひき寄せる小川の姿があったかも。順位戦の勝ち負けはいつでも紙一重。

(◎田中 ●小川)

◆◆◆ 5回戦A卓 ◆◆◆

〈堀川△3・平井0・成岡△1・村田2昇〉

 2局流れた後の東3局、ドラトイツの平井が原点リーチに踏み切った。すると直後のオヤ・成岡にテンパイが入り、押し出されたのがまさに平井のロン牌で52の失点。攻め返して放銃となる分には悔いるものでもないが、この間の悪さはやや気になるところ。前日に黒星が先行した名翔位・成岡、小首をひとつかしげた。
 流局を挟んだ南1局、成岡の5巡目。

 たとえ本調子でなかろうと、手順には焦りも狂いもない。ドラではなくにくっつくという仕上がりに不満もあったことだろうが、村田からこの16を打ちとってラス抜けの足掛かりを掴んだ。
 迎えた南3局は成岡のオヤ番。ここは力も入るところだが、テンパイにさえ至らぬうちにトップめ平井がタンピンツモ7・14の中押し点。オヤが落ちた成岡はむろん痛いが、タンヤオ含みのピンフ・イーペイコーのテンパイで息をひそめていた村田も少々イヤな予感がしたか。
 南4局、オヤ・村田との点差27を追う成岡の12巡目がこう。
迷うことなく打としたが、次巡のツモは裏目もどきの。観戦子であればピンフと3メンチャンを逃した形に『アガれそうもないな』と思ってしまうところだが、成岡はここも考え込むことなくあっさりと打のリーチ宣言。場況的にこのマチが優位とは観戦子には見えなかったが、最終ヅモで手繰り寄せたのは注文通りの。リーチ後のツモ牌にこの以外のソーズは1枚たりともなかったわけだから、見事と言うほかない。△2寸前のピンチを救ったのは、成岡の勝負勘かそれとも論理立った思考か。

(◎平井 ●村田)

◆◆◆ 6回戦A卓 ◆◆◆

平井1昇・成岡△1・愛澤0・安田0

 今期の成岡にとって、おそらく最も気持ちよく運べた半荘であったろう。平井から安田へチートイツの16が動いた後の東2局のオヤ番で、まずは26オール。

 この3巡目リーチ、最終ヅモで高めの方をひき当てた。の方がこぼれることもある巡目だけに、ヤミテンを選択する選手も少なくないと思う。元々引き出しの数はめっぽう多い成岡だが、長い目で見た場合の損得もあるいは考えているか。
 次局も成岡は2フーロのタンヤオドラ2を仕上げて20オール、天上天下唯我独尊(本人がそう言ったわけではありません、念のため)。
 成岡は続くその3でも緩みを見せずに攻め立てるが、ここは安田がギリギリかわして10・20、ダメ押し打の炸裂だけは免れた。
 ここまで出番ない愛澤、オヤを迎えたところで平井のピンフ・イッツーの40に捕まりラスめ転落。ラスめへの放銃はたいてい致命傷になるものだが、愛澤の場合ははたして。
 この後東4局に成岡が12、南3局には安田が5・10とそれぞれ喰いテンをアガリに結びつけ、レースはいよいよ一騎討ちの雰囲気になってきた。
 成岡+12.5・安田+3.0・平井△3.7・愛澤△11.8の状況で迎えた南4局、オヤ・安田が17巡目のツモ切り打牌を横に曲げた。9巡目テンパイの役もドラもない手牌だが、手変わりの余地がなくなった時点で万一ひけた場合の打点を上げておくのは常套手段。とりあえずは点差詰めであっても、これを一発でツモれるようなら弾みもつくはず。しかしうまい話はそうそうあるものではなく、空振りの最終ヅモを空しく河に置く安田。ところがこれに愛澤からロンの声がかかった。愛澤がアガるからにはラス抜け可能な手に相違なく、その手が開く前から安田は自分が平井の下に行ったことを悟ったに違いない。それ自体は確かにその通りだったが、愛澤が心持ち震える手で倒した手牌がこれ。

 の配牌にとひき込んだ、わずか6巡目のテンパイだった。愛澤はテンパイ直前に成岡に切られたばかりのをとりあえずのマチにしたわけだが、その後不可解なほどに待ち頃の牌が訪れなかったのが安田にとっての不運。上も下もガラリと変わるこの一撃で、目前にしていた今期初トップが指の間をすり抜けていった成岡も思わず苦笑い。どう見ても成岡・安田のマッチレースと思えた展開が、わずか1牌でまるで別の結末を迎えるとは。「劇的」という表現はあまりに陳腐にすぎるだろうか。

(◎愛澤 ●安田)

◆◆◆ 6回戦B卓 ◆◆◆

堀川△3・村田1昇・小川2昇・田中0

 先行したのは村田、東2局のオヤ番で26オールのひきアガリ。

 堀川のチーテン(シャンポン、ドラ1枚使い)で流れてきた牌でのテンパイ→ツモアガリに気分の悪かろうはずがない。
 その村田、続くその2では堀川2巡目のをいきなり叩いた。チャンタの影はあってもドラ待ちのカンチャンが残ったリャンシャンテン、100%以上威嚇目的に違いない。そして村田の思惑通り、全員が字牌を抱えての流局に。
 続く東3局【牌譜3】、村田の鳴きはまた同じ意図。中身はご覧の通りだが牌の切り順や打牌のリズムが緻密に計算されており、言ってみれば全身全霊を注いだブラフなので、仮に疑ったとしてもなかなか前に出づらいところ。「そういや大昔、『オヤマンより大きい26オール』って戦術論を著した名選手がいたなあ」などとボンヤリ考えていた11巡目、堀川の打牌で事態が一変した。あたかも安全牌を切るような様子でが打ち出された時、村田は堀川のアガリを悟ったと思う。
 また一見フリテンが痛恨と見える小川はずいぶんと贅沢な手格好だが、多少ラフに打ったとしてもアガリまで結びつけるのはかなり難しそう。どうせアガれない局ならばこんな最終形が残ることは逆にストレス要因になりかねないので、『いっそ形にならないまま終わってくれた方がよかった』と観戦子なら思うところだが、小川の場合はどうなのか。
 なおこれは全くの余談だが、小川と堀川の手に現れたピンズ・ソーズの見事なまでのタテ傾向。『ことによると、この譜の中にトイツ場解明の鍵が!』と色めきたった観戦子の調査研究は、完全なる徒労に終わったことをお伝えしておく(笑)。

  さて南場に入り堀川のオヤ番、まずはツモのみ6オール。これで村田との点差は30、ヒタヒタと足音が聞こえる距離にまで。
 そして連チャンのその2、村田が5巡目に切ったに堀川からロンの声がかかった。ピンフサンショクの高め、60はなんとも大きなデバサイ。『これは早すぎて止めようがないか』と見ていたが、対局終了後に自分をなじる村田を目にした観戦子。「堀川さんにテンパイ気配があったのについ『1牌だけ』と甘えてしまった。何をやってんだか」と。「しかたない」と簡単にかたづける者と自分に厳しくあろうとする者の差で、打つ立場と書く立場に分かれているのかも。観戦子、内心で赤面のシーン。

 対局に戻ろう。南3局は村田が仕掛けて20のアガリ【牌譜4】。とりわけ派手ではないが、見ようによってはおもしろい局なので譜を掲載することにした。
 まずは村田の仕掛け。堀川との点差90を考えれば、1枚目のはフカしてみたくなる手格好ではないだろうか。
 
 2枚出のに、サンショクのチャンスは少ないと見たか。トップめの堀川がこう露骨に切り出すのは配牌オリが濃厚だが、オヤの現物のはすでに手にあるかもしれない。あるいは『2昇持ちの小川がラスめなら局を進める方が先決』と考えた可能性も。さらには『数字的には可能でも、1局では捲りようがないほどの差を堀川との間に作ってしまった』がイチ鳴きの本当の理由か。どれが正解か確かめるのも観戦子の仕事であることは承知しているが、機会を逸してしまったので答えは皆さんの想像に委ねたい。そんなことを考えながら読むのも牌譜の楽しみ方の一つですよ、と巧みに責任を逃れようとする観戦子(笑)。
 この牌譜のもう一つの見処は田中の押しっぷり。持ち点の部分を隠してこの牌譜を見せられたら、きっと田中がラスめなのだと思うだろう。肚がやたらに据わっているのか、それともただやんちゃなのか。とにかく新A級なのに腕が縮んでないのは確かで、この打ち方がA級戦でも通用するかどうか楽しみではある。
 そしてさらなる見ものは一打ごとに窺い知れる、堀川の葛藤。下家の村田に1牌喰われたら致命的と知りつつも、小川と田中の両者から村田の無スジがブンブン飛んでくるこの状況では安全牌をムダ遣いするわけにもいかないジレンマ。手出しの村田にはドラがアンコになった可能性もある。牌を合わせるたび、血がにじむような思いだったに違いない。
いかがだろう、「1枚の牌譜も読みようによってはこんなに楽しめる」ことのいいサンプルと思われないだろうか。
 かくして迎えた南4局7巡目、村田にあっさりとテンパイが入った。
 絶好のツモのように見えるが堀川との点差は70、このままでは足りないのでリーチをかけることもできない。場をグッとにらみ打とする村田、しかしこれが打であっても逆転のコースは存在しなかった。この局の結果は、小川にテンパイが入る寸前にそのロン牌を処理した田中の14オールひきアガリ。
 南4局その2、田中の手が7巡目にこうなった。
この直後に上家の小川から2枚目のが出るも田中は動かず、さらに次巡小川がまたツモ切ったも見送った。鳴いた場合のマチとなるカンはそう悪くなかったが、『点差詰めで仕掛けてもあまりいいコトはない』と思ったか。どん欲なまでにトップを狙うのが一番のウリと思っていただけに、この後すんなりと撤退を決めたのも観戦子にはやや意外。「度胸だけでA級まで上がってきたわけじゃありませんよ」と牌で語り、田中余裕のバー確保。
 かくして前日の好調者と不調者の対戦は裏返しの結果となり、馬群がぐっと詰まってきた。やはり面白いA級戦、第1節も残すはあと2戦。

(◎堀川 ●小川)

◆◆◆ 7回戦A卓 ◆◆◆

成岡△1・堀川△2・安田△1・田中0

 田中の0が卓内リーダーという顔合わせ。ここで黒星を喫すると当分冷やメシを食わされそうで、もし観戦子がこの立場ならラスをひかないことに重きを置きそうだが、さてどうなるか。
 スタートは見た目平穏、2局続けての流局。ただし水面下で丁々発止のやり合いが繰り広げられているのはいつものことで、開局には成岡対堀川の、東2局には堀川対安田のともに役ありの激突があった。アガリを欲する者と流局を願う者、ともに相当な疲労感を覚えたに違いない。
 つまりどんよりした空模様のような立ち上がりだったわけだが、東3局の成岡には突然雲間から日が差し、わずか2巡目に光速のテンパイが。と切っただけのピンフに誰が飛び込んでもおかしくなかったが、不幸の神は安田の肩をポンと叩いて12の放銃に。これがアガリ乱発の一戦ならば何ほどのこともないが、すでに重い空気が支配しつつある中ではこんなボディブローはあとからジワリと効いてくるはず。『たかが12』とは到底思えないだろう。
 東4局、オヤの田中に惜しいシーンがあった。6巡目、

 場にはが2枚、も2枚。田中はサンショクに向かい打とすると、すぐに上家の安田からが出てチーテンに。うまくいったかに思えたが、実はこのチーで流れたのが、そしてその先にはまで。「どっちに向かってもアガっていた」などというケースは(特に101においては)そうあるものではなく、ここもやはり流れた。
 南1局もトップめ成岡の期待通りに流局となり、迎えた南2局・堀川のオヤ番で田中に7巡目テンパイが入った。
 劈頭にのメンツが並んでいる上にテンパイ打はドラ、さらに直前に3枚のロン牌を打たれたばかり。かてて加えてこの重苦しい雰囲気ではそうアテにしていなかったに違いないが、13巡目にリン牌のをハッシとひいた。価千金の、いやピンフツモゆえ価千六百金のアガリ。
 続くラス前は安田のオヤ番、観戦子のポジションはその安田の正面。局面は粛々と進んで捨て牌も三段目に入った頃、ふと見た安田の表情と所作が極めて穏やかなのに気づいて驚かされた。どこからどう見ても断崖絶壁の展開で、こうも落ち着いていられるものだろうか。それとも何か秘策でも?そんなバカな。
『人間力の問題か?』などとしばらくは不思議に思っていたわけだが、後日牌譜を見て疑問が氷解した気がする。注目は安田の5巡目、運命の分かれ道。
 全員の捨て牌を見てもヤオチュー牌ばかり、全くのノーヒント。指運に任せて(あるいは安田なりの理由があったのかもしれないが、その場合は観戦子には推測不能)ピンズを切り出した安田だが、8巡目のツモは無情にもだった。ソーズに手をかけることができれば13巡目にはのひきアガリとなっていたはずで、その時に『ああ、これでラス確定だな』と達観したのではないか。ちなみにこの局の結果は当然(?)の流局。役なしのマチからドラのをアンコにしても、「アガリが何通りもあるはずがない」の原理原則を撃ち破ることはできなかった。
 そして好漢・安田のラスがほぼ決まりの南4局が【牌譜5】
「話が違うじゃないか!」との読者諸兄のお叱りは承知の上で掲載するが、成岡にリャンメンのチーが入った時点で安田も観戦子と同じように思ったはず。まさかこんな形でラス抜けがなるとは。
 田中8巡目のは『まだを切らないとしてもなぜの方じゃないの?』と思いたくなる牌で、こんなところにも安田の幸運が。
 こうして自らラスを引き受けてしまった堀川だが、普段の堀川を知る者にはちょっと考えられない放銃。じゃあ何を切ればいいんだと問われても答えを持たないが、こんな局面ではアタらない牌を選び続けられるのが堀川の持ち味だったはず。前日の3ラスといい、何か不調の原因でもあるのだろうか。早い復調が待たれる。
 一方待望の初トップの成岡。3巡目のツモがキー牌だったのは確かだが、配牌13枚目のを盲牌した時には背筋がグッと伸びたように見えた。外から見ても手応え十分だったのだから、打ち手が得たのはさぞ大きい感触だったのだろう。

(◎成岡 ●堀川)

◆◆◆ 7回戦B卓 ◆◆◆

平井1昇・小川1昇・愛澤2昇・村田1昇

 A卓とうってかわり、こちらは昇持ち4人の対戦。トップが望ましいのは確かだが、ラスは2歩の後退に相当するかもしれない。
 チョーマが動いたのは東2局、中盤すぎに平井が1枚出のを切ると村田から声がかかった。

 大きな大きな64の先制点。
 平井がラスめになったからには激しいやりとりが予想されるところだが、次局の平井のアガリ手はイーペイコーのみの16。5巡目テンパイのタンキが即小川から出たものだが、内心は『ツモりやすいマチにしてからリーチしたかった』だったかも。
 3局続けて流れた南3局その1、オヤの愛澤が小川の打牌にロンをかけた。振り込んだ小川のみならず平井も気になったであろう愛澤のアガリ点はピンフのみの18、まだ平井の方がラスめ。
 その2は流局となって村田がオヤの南4局、並びは村田46→愛澤52→小川14→平井。まずテンパイを果たしたのは9巡目の小川、
 その直後、平井にもチーテンが入る。
 
 ドラを切ってのツモ直限定だが、背に腹は代えられない。その後小川はをひいていったんは打とブレーキを踏むも、次にをひくや今度は平井に無スジのを押してピンフのマチに。
 しかし「フリテン3メンチャン(小川の河にはがある)に受けておけば」というタラレバのをひかされ、今度は本格的にダウン。『平井のマチはピンズの上と決めているんだな』と思っていたが、これは観戦子お得意のやぶにらみ。小川の真意は「愛澤もいるから打てない」であって、その読み通りに愛澤はアンコ・ドラ1枚使いのという形。ただしこちらもツモ直条件で、シャンポンに変えた平井からのも見送った。むろんヤマ越しに捕まるような手抜かりが村田にあるはずもなく流局となり、結局は東2局の結果をそのまま受けた決着に。

(◎村田 ●平井)

◆◆◆ 8回戦B卓 ◆◆◆

愛澤2昇・安田△1・小川1昇・平井0

 立ち上がりからアガリ多発のレースとなった。羅列してみると
  東1局その1 安田→愛澤18
  東3局その1 安田7・14
  東4局その1 平井20オール
  東4局その2 安田→愛澤40
  南1局その1 平井→安田16
 これでどうなったかというと、南2局を迎えた時点の並びは平井06→愛澤65→小川・安田。
安田にしては珍しく、収支ともに出番が多い。こういう出入りの激しさはどちらかというと平井の十八番だが、7回戦の奇跡的なラス抜けで気が大きくなりすぎたか。むろんそれは冗談で、安田がササるからには相応の手が入っているのは確か。それでも雀風に合わないマージャンは疲れるもので、どうやら終盤用に蓄えておいたエネルギーにまで手をつけてしまったようだ。ましてややっとのことで同点3着めに持ち込んだ立場となれば、しばらくは自分を落ち着かせたいところだろう。また小川の場合は一晩たったら低調になっていたこともあり、『昨日の貯金を一日で全部はたくわけにはいかない』と考えて不思議ではないところ。両者にそんな思いがあってかなくてか、ともあれ東場の乱戦ぶりがウソのように突然息苦しい展開となり、南2・南3と流局が続いて南4局を迎えた。
 小川と安田はこの局もテンから往かずの構え。こうなると注目すべきは愛澤がアガリをとれるかどうかのただ一点だが、13巡目のリーチまではどうにかたどり着いたものの、アガリを導くまでには至らなかった。

 
 アガりさえすればいい愛澤、『ドラのカンツなんかより役牌のトイツがほしい』と思っていたに違いない。
 終わってみれば決定打となった平井の20オールはリャンシャンテンからの仕掛け。しかもカンチャンとリャンカン残しだっただけに、ダメモトの気持ちが強かったはず。これが思いのほかあっさりと仕上がり、さらに思いがけないことにこれだけでトップが転がり込んで呵呵大笑。いや、平井の場合はガハハ大笑か。平井以外の三者ともに、疲労の色が濃く見えた一戦。

(◎平井 ●なし)

◆◆◆ 8回戦A卓 ◆◆◆

村田2昇・成岡0・堀川△3・田中0

 流局後の東2局、南家の堀川にポンテンがかかったのが4巡目。

 
 いかに早かろうとマチがドラ表では自信を持てたはずもないが、10巡目にドラをひいて是が非でもアガりたい手になった。しかしお目当てでもある1枚出のはすでに村田の金庫の中。そしてこんな時に限って田中からは1枚しか出ていないや無スジのが、そして成岡からも初物のが飛んでくるのだから、堀川は内心苦り切っていたに違いない。もしも二人の手の内が愚形の役なしドラ1だと知ったなら、『サガっちゃ怖いや』と心中でつぶやいたことだろう。あるいは『あんまりナメるな』か。結果は無事(?)に流局となったが、誰よりもエネルギーを消耗したのは堀川だったように思えてならない。
 それでもオヤとなった東3局、7巡目の堀川に期待できる手が入った。
 1枚出のをそっと切り、あとは気配が出ないうちにテンパイしさえすれば…。ところが字牌を5種類並べ、6巡目にを手出ししただけの村田にはすでにこんなヤミテンが入っていた。
 アガれる時は簡単にアガれるもので、マチカエしようがない3巡経過の後にこのをひょっこりツモってしまう村田。ノド手ので、しかも「なぜそのマチに?」と言いたくなるようなマンガンをオヤカブリした堀川の心境やいかに。
 村田は次局も同じでタンピンドラ1をひくのだが、堀川に残った手がこれ。
 
 手中4枚のを見下ろす堀川、彼我の状態の差を見せつけられた気分だろう。
 村田オヤ番の南1局、成岡の嗅覚が冴えた。
 この5巡目に打とするが、2巡後にド裏目のをひいて打。すると8巡目がツモで、あらためてピンズとソーズのターツ選択。村田の河にがあるのでソーズを残すかと思いきや成岡はわりとあっさりとを切り、そして次巡見事にをひき込んだ。さらには即座にフリテンのまでひいて13・26、村田との差165を一気に87として挑戦権獲得。
 これも余談だが、この局イーシャンテンとなった堀川が8巡目に切り出したのがで、次巡ものひき放り。つまり成岡が5巡目にソーズを払った場合には、あるいは実戦と同じ進行で9巡目にフリテンの方を先にひいた場合には堀川の放銃となっていた可能性が高いわけで、「うまくすり抜けた」というよりはむしろ非常に危なげに見えてしまう。
 こんな経緯で迎えた南2局は、不調を極め今回もシバ差ラスめの堀川が徳俵いっぱいで踏みとどまった局【牌譜6】
 堀川のイーシャンテンは9巡目。
 流れや勢いなどといった考え方から離れるならば形的には悪くない、どちらかといえばチャンス手。ところがそこにポンと斬り込んでくる田中、どうにも展開が堀川に向かない。
 しかもオヤの成岡からは田中の裏スジがブンッ、堀川が喰い流されたのツモ切りを挟んでこれも強烈ながドスン。出番がなくなったかに見えた堀川にが帰ってきたのがこの直後だが、悩むでもなくテンパイを崩した。堀川に限ってあるはずもないが、もしも△3のスコアを言い訳に牌の誘いに乗っていれば、成岡に強烈な一撃を食らっていたところ。堀川本来の我慢、対価はオヤマン相当。
それでも意地の悪い観戦子は念のため(?)に「でもサンショク含みのツモだったら行きたくなってたでしょ?」と対局後に水を向けてみたが、「どんな手だろうと行けるはずないですよ」と一蹴された。うん、それでこそ堀川隆司。
 一方役なしの手が1巡でツモハネに変化した成岡、田中のマチがリャンメンであるならば3スジくらいしか残っていない内の一つを掴み、さすがに手が止まる。それでもこまでの往き方に殉じてそのを河に置き、覚悟の上でロンの声を聞いた。
 そして南3局、3着めまでの点差が45と開いてしまった堀川の大事なオヤ番が【牌譜7】。2巡目にドラを重ね、3巡目には早やイーシャンテン。
『しかしここからが長いんだ』と思ったのは観戦子ばかりではないはず。そして案の定と言うべきか次巡から始まった苦闘の連続、あたかもマージャンに試されているかのよう。
そして堀川を試したのは麻雀ばかりでなく、成岡6巡目のドラ切りもまた堀川への試練。もしこれが観戦子なら、のトイツを取りこぼした直後だけに一も二もなく叩いてリャンメン+リャンカンのイーシャンテンに直すところ。『打点を見せて退がってもらい、時間を稼がないと間に合わない』と。そうした場合は成岡のツモが流れてくるわけで、ツモ筋のにまず目がいった人は『アガリまである』と思われるかもしれないが、これは大間違い。なんとなればドラを放った成岡の手格好は
だが、ここに来るツモが、それ以外は安全な字牌とのみ。テンパイ打のが現物である上に役牌が売り切れ(は堀川がツモ切ることになる)なのだから、これはアガリまで一直線。
と思ったら、実はこれもまた大きな誤解だった。堀川がドラを鳴いた場合は村田のこの構え。
というツモが来るわけで、「村田が10巡目に5・10をひきアガる」が正解。
 最善と思った動きで敵に塩を送ってしまうのは麻雀にはよくあることだが、この局のワナはまるで絵に描いたように美しい。これほどよくできた牌の連なりはなかなか見られるものではなく、感動的でさえある。
 ところがここがB級とA級との差か、堀川はドラの出に視線ひとつ揺らすことなく、イバラの道でもあるツモ山に手を伸ばした。するとさっそくの7巡目、ツモという難問。『切りかな?』外れ。9巡目のツモには『これは打だな』また大外れ。予想がヘタだ。まあこのどちらかでを切りさえしなければ最終形は誰が打っても同じになるわけだが、それはあとからわかること。一打を選ぶごとに、観ている側まで息が詰まりそうに思える。そして結果はご覧の通り、堀川の手元にが躍った時には鳥肌が立った。
 後刻「1巡まわしのリーチの意味は?」の問いに「と並べられたらね、もう出ないだろうから」と言葉少なに答えた堀川。局中ははるかに多くのことを考えていたに違いないが、饒舌になるにはあまりに疲れた一局だったのだろう。
 結局この一戦は堀川のトップで終わるのだが、そこに行き着くにはまだ最後の関門があった。しかしこの8回戦A卓は、新A級の田中実が自戦記を書くことになっているらしい。多くのことがありすぎたこの一戦、自分で書きながらも「とりとめがない」と感じていることもあり、南3局その2以降の闘いの模様はそちらの全局牌譜つき自戦記でご堪能いただくことにしよう。

(◎堀川 ●成岡)

 出遅れた堀川がひとつ星を戻し、首位のスコアも2昇となって第2節以降がいちだんと楽しみになってきた順位戦A級。従来の冊子版よりずっと早くお届けできるようになったウェブ版101マガジンで、戦士たちの熱き闘いをフィナーレまで追っていただけますように。
拙い上にただただやたらと長い文章に最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。

(文中敬称略)

 自戦記(3回戦B卓:安田健次郎) 

 今期A級で戦うことになったのだが、別段気負いはなかった。緊張していた程度からいえば、B級1組に昇級したときの初戦のほうが数段上であったと思う。初顔となる選手もいないこと、そしてすべて東京での開催ということもあるのかもしれない。
 とはいえ、いざ対局に臨んでみると言いようのない不安感や、他家に対する猜疑心が起きてきたのも事実。フラフラになった中途半端なオリが作り出す、見ると吐き気をもよおすような無様な牌譜も多数あるだろう。そのなかでもこの3回戦B卓は、流局も少なく、終始まっすぐ攻めていたため、まだ鑑賞に耐えられるかと考えて選んだ次第。ご笑覧いただければ幸いです。


No.1【東1局】
 ドラのない手牌であったため自然に手作りができたのだが、9巡目で手が止まった。ワンズを払うのであれば、タンヤオや引きなども考えてから打つべきだったと今は思うのだが、対局中は村田の現物を残しておくほうが良いだろうというチキンな考えからのほうから切り出した。ちなみにが薄いと早合点していたわけではなく、マンガンの可能性が残るイーシャンテン取りにしてみたかったというのと、が堀川に打ちにくかったというのがピンフに受けなかった理由。やっすいポンテンでいつまでも胸を張っているわけにもいかなかったが、即ツモであったのでホッとした。きっとドヤ顔をしていたと思う。ともあれ、5・10の先制は大きい。



No.2【東2局】
 タンピン含みの好配牌から、11巡目にイーシャンテン。ここで少考してダブを打ち出したのだが、もちろんが4枚見えているのは承知のうえ。前局とは真逆の切り出しになったが、今局はどちらの受けが残っても堀川が河に置いてくれそうな感じだったのでこう選択した。16巡目になってようやくチーテンの取れるが出てきたのだが、残り巡目とドラで放銃したときのリスクを考えて自重した。ちなみにワタクシ、こういうチーテンとらず→引きアガられ、といったケースはしばらくは気にするほうです。結局忘れるんですが。



No.3【東3局】
 ごく手なりの普通の1局。イーシャンテンになるまでは(まだ白板打たないで、打たないで)などと考えているのに、いざなったらそれ打て、やれ打てとなるのは現金かしらん。さて記録を見て(自分で打っておきながら)驚いたのは5巡目の打牌がなぜかであること。そのまま上家の村田に合わせておいて何の問題もない。ましてと引いてきた日には目も当てられない。堀川の現物であること、それと微かに見えるチャンタへの誘惑など、打った理由はあるのだが大きな傷にならずに済んで良かった。



No.4【東4局】
 4巡目のイーシャンテンでこれはアガリが十分見込めると吉田照美状態。古いか。すぐにでもテンパイが入るかとしていたのだが、5巡目の九万だけはこの手格好で唯一テンパイを採らない牌。イーシャンテンの時間が非常に長く感じられ、ようやくテンパイしたのが12巡目。村田から仕掛けが入ってもオリる気はさらさらなかったが、村田に合わせました感を匂わす狡いカラ切りは余計だった。わざわざマチに絡むところを手出ししてどうするんだ俺。
 17巡目にツモでピンズからの可能性が絶対ないとはいえないと考えて、最終ツモを放棄した。ヌルいと反省している、今は。その最終ツモは前巡までのロン牌ではなくちょっと安堵したのだが(東2局でも書いたのですが気にするのです、結局忘れる)、仮に私がオリていなければ、村田がまず間違いなくを打っていてくれていたはず。対局途中はツモ番のないところから放銃するということを考えもしないのだが、こんなこともあるものだなあ。



No.5【南1局その1】
 まばゆく輝くドラのが2枚。3巡目には重い手牌が横に広がり、この局もかなりアガリへの期待をもっていたが、8巡目に村田からリーチの声が、そして現物は1枚もない。仕方ないので腹をくくってまっすぐいくことにした。を泣きながらツモ切り、次巡テンパイ。マチ取りは一応安全そうなを打ったが、このタンキでどこまで押せるのかと考えているうちに、村田がヒョコッとひきアガった。
 その村田、実は7巡目に手が止まっている。手を開けられてなるほど、と合点したが、確かにはヤマに残っていると推察しても、あるいはに見切りをつけても全くおかしくない。普通にリャンメンリーチをかけたとしてもトップめが一発で打ってくれるのだけれども、いい選択だったと思う。


No.6【南1局その2】
 配牌はホンイチがちょっと見込める程度の凡庸なもの、というわけでそのように打ち出していったが、さすがに堀川からドラが打ち出されては白旗をあげるしかなかった。というか、ヤメるタイミングを作ってもらってうれしいぐらい。6巡目の打牌にやや時間を使ったが、それは「今打てる」か、「後から脇に打ちにくくなる」か、の2択であって、決してをツモ切ろうとしたわけではありません、ホントですよ。あっさりケリがついて再びトップ目浮上、よく見たら『fragile』って書いてあるけど。


No.7【南2局】
 数牌に一枚だけ字牌があれば、まあそれからですわな、とばかりにから打ち出したが、これがアヤになったかもしれない。私がおとなしく以外のものを選んでいれば、堀川が2巡目にを重ねる可能性が高く、この12巡目のアガリはなかったかも(もっと高くなっていた可能性もあり)。私が完全イーシャンテンを望んだがためにピンズをと河に並べ、それが堀川にシャンポンテンパイを入れさせてしまう理由になったようだ。



No.8【南3局】
 逸機、やらかしてしまった。まず3巡目だが、焦らずにソウズのペンターを払う選択をしていれば、素直に7巡目に王手飛車のテンパイが入り、愛澤のリーチが入った同巡に、「ごっつあんです」とばかりにおいしい7・14のアガリをモノにすることができた。そして、もう1つ、本局のように進行したときに愛澤のリーチに対してをツモ切って追いかけリーチを宣言することがなぜできなかったか。愛澤がリーチ後のツモでを引き放るのを見て、(これで何とか危険牌引いてもオリられるわあ)などと考えているようでは選手失格で、愛澤の引きアガリでラス目に落とされるのはまずもって自分なのだから、ここは火中の栗を死ぬ気で拾いにいかなければならなかった。初戦に運よくチートイツドラ2の20・40で1昇を得たのを守りにいこうとひよったのがそもそも間違いで、リーグ戦の戦い方ではなかったと思う。



No.9【南4局】
 奇跡が起きた。これまで、南4局に他家の放銃でラス抜けしたことなどほとんど記憶になく(自分がラスに落ちることは多々)、村田のポンテンが入っても自分のアガリ最優先とばかりに危険牌のをツモ切っている。これが村田に4・8以上アリ、と踏めば回し打つ選択肢もあるのだろうが、第1打がドラではその可能性も低く、場に1枚切れという理由でを打った。もちろんもツモ切っていたと思う。ちなみには村田にいかに通りそうだったとしても打たない。なにしろ自分でアガることしか考えていなかったのだから、いちばん重なりそうな、あるいはマチ取りに選ぶ候補として、2枚見えるまでは残すつもりでいた。堀川は、自分の手格好もさることながら、12を放銃してもラスにはならないという安心感があったのだろう。堀川にしては比較的アッサリとを河に置いた。
 対局終了後、村田が「1回ぐらい見逃すべきだったか」なんて言っていたけど、絶対ウソだと思う。幸運なラス抜けをしたけれども、次戦は結局ラスだったという、どっとはらい。


 順位戦選手の中ではまだ真ん中より下の年齢だろうが、1日4戦対局することがかなり堪えるようになってきた。残りの対局も事前から体調管理に気を配り、自分なりに精一杯取り組んでいくことができるよう努めていきたい。

(文中敬称略)

 

 自戦記(8回戦A卓:田中 実) 

 101マガジンが紙のころの読者層はマニアだけでしたがwebになってライトな層にも読んでもらう機会です。もちろん、ゆくゆくはマニアとして育つことを期待していますが。そこで、深い考察などは2節以降に登場する諸先輩方に任せて、今回は対局中に思ったことと、点差によって何を狙っているのかが伝わればよいな、と思って書いてみます。

No.1【東1局】
 配牌はリャンメンターツが4つあるので、ピンフサンショクを狙ってるフリをして第1打はとしてみるが、あくまでフリだけ。どうせ、こういう配牌は素直に手が進まないでしょ。5巡目までにトイツが3つできて、「やっぱりね」と思ったのも一瞬、次巡いきなりがかぶってチートイツでがんばろうという気もそれほどなく、8巡目にイーシャンテンになるもどこまで維持したらいいものやら。アガれそうな幻想に囚われて自爆するお得意のパターンが恐いが、10巡目に打ち辛いを持ってきたので心置きなく流局を願える心境に至る。
 順調に手を進めていた村田だったが10巡目に2枚目のドラをひくとシフトチェンジ、気がつけば1巡目打で「アガりませんよ」とした堀川のあとを追って、全員が似たような進行を見せて流局。

No.2【東2局】
 2巡目にイーシャンテン、ピンズのイッツーかドラ表のに期待して前進あるのみと打ツモ切りとすると堀川にポンされてテンパイ。あっという間に追い越されてしまいました。しかし、そんなことはお構いなしと5巡目のツモでは、役なしカンのテンパイなんていらないぜとツモ切り、7巡目のツモではイッツーかイーペイコーだなと打。暢気なものです。堀川の待ちが苦しいカンだったから無事だったものの、打は20や28の放銃で淡白な一局となってもおかしくない。とはいえ、この先安全に凌げる見込みもないため、ここまではこう打つのもアリかなとは思っているのだが。
 しかし9巡目のツモ以降は牌譜を見返していると目が腐ってきます。1枚捨てているを残したかと思えば、ドラを引くや否や放り出す。しかも堀川の手出しのあとに!ツモ切りのほうが100倍マシですね。ツモでは「オヤの成岡も恐い、もうやめよう」、ところがツモで「ドラ1のテンパイだぞ、どうだ!」と打。この人は頭がイカレていますね。いったいなにをしたいんだ。この局で考えていたことで現実とマッチしているのは、「はまだヤマに1枚はあるやろ」という1点のみ。確かに、この腐れテンパイで押し続けて5・10引くこともあるだろうが、それがなんぼのもんなのか?むしろ、アガって蔑みの目で見られるほうがマイナスじゃないか。それよりも問題なのは、下家の村田にラクをさせていることです。序盤にポンテンが入った局で流局まで何の苦労もなく過ごしています。アガリや放銃に関しては人それぞれ良し悪しがあるとしても、こんな風に他人を助けるためだけの打ち方をするA級選手はいないわなぁ。力の差が明らかになる牌譜を残してしまったが、これを成長につなげることができれば元を取ってお釣りもくるよな、とムリヤリ前向きにとらえておこう。猛省。

No.3【東3局】

 村田がマンガンをツモった。が、「打たなくてよかった」というのが正直なところ。
8巡目のツモったところでほぼギブアップ。それでも打としているのは、ここでソウズに手をかけるのは早すぎるという思いと、役あり好形になればアガリを目指そうかという部分がまだチョットだけあるんですね。こういう中途半端がほんと良くない。良くないと思いつつやっちゃうのがまた良くない。10巡目のツモでさすがの私も妄想を断ち切りました。しかし店仕舞いするとしても、あと何巡かはソウズで時間稼ぎできても、そのあとが手詰まりで困るよなと思いながらを打った直後に局が終わりホッとしました。
 仮に、ここで局が終わらず2巡後くらいに堀川がテンパイしてドラ打ち、構わずツモ切る村田、待ちが不明な成岡なんて状況になったら私はどうしたらいいんでしょうね。その場合は成岡のテンパイに気づかない(気づけない?)のが最も無事にやり過ごせそうなんだが、それもなんとも情けない話なのです。

No.4【東4局】

 田中28,000・村田38,000・成岡28,000・堀川26,000
 前局の村田のアガリで各自の持ち点は上のようになっています。大会マージャンのリポートであれば、持ち点が大きな意味を持ちますが、順位のみにしか興味を見出さない101においては持ち点よりも点差を表記するほうが適当なので、この場合、
 村田100→成岡・田中20→堀川
と100点単位でシンプルな表記がよく使われるので、ライトな方は早く慣れてくださいね。

 オヤ番です。当然ですが南4局もオヤ番です。現在、成岡とは同点ですが、このまま進むと最後に堀川が「ラス抜けです」とツモるとラスになるのは私の役目。このあと逆転のトップが狙える展開になれば良いのですが、それが叶わないときは最後に少々のオヤカブリでもラスにならないポジションにいることが目標になります。すると、この局の位置づけはまずは18や24でいいから一度アガりたい局になります。マンガンが必要な局なら「ワンズで3メンツ」と心中してもよいのですが、とにかく絵を合わせたい思いで配牌を見るとドラがということとワンズの形がイマイチしっくりきませんね。贅沢を言ってもはじまらないので、ここは素直に手を進めてみますが。7巡目にドラをひいてイーシャンテンとなったが最初の懸念どおり、テンパイしたところで出アガリが望めない形のままです。それでも撤退に備えて3枚のが心強いので、「行けるとこまで行ってやれ」とすると10巡目にひいたのがで、ワンズの二度受けから解放されサンアンコで40オールと淡い期待を抱くもそこまで。村田が13・26で加点し、私はラスめとわずか07差とより寒いポジションに転落してしまいました。これでこの半荘は村田のトップは堅く、南場は3人でラスの押しつけ合いになるかと思いきや意外な展開をみせることになる。

No.5【南1局】
 村田165→成岡13→田中07→堀川。
 下位はわずかながらも3者に点差ができました。堀川はラス抜けのためのアガリ点に制約がなくなり、成岡は2着めとはいえ放銃はできない立場です。わたしはトップめに大きく引き離され、ラスの心配をするばかりの状態。
 この局は出番なし。10巡目に成岡が本人もちょっとびっくりな様子でフリテンのをツモって13・26。牌譜で進行を確認してみると、5巡目にが重なってターツ選択、

 マンガンでトップめに立てるわけでもなく7・14か下位の2人から20直撃でかなりの安全圏になるので、当然の打とするも、2巡後のツモが。ここでも慌てず騒がず打。さらに次巡をツモると、さらっと打
 次巡、あっさりをひいてテンパイしたわけですが、これってのターツを残そうと思ったとき迷わずソウズとピンズのどちらを払うか判断がつくものなの? わかる方はこっそり教えてください。お便りお待ちしてます。
 成岡が「ロン」と言ってから理牌している間考えていたのは、打でテンパイだったのか?あるいはもっと前?、打でテンパイってことはないだろうから、それじゃあ5巡目の打か、でも直後に堀川がを打ってるなあ、etc。いずれにせよ開けられた手牌にはソウズメンツは1つあるだろうと思っていたのだが、ご覧のとおりソウズは1枚もなし。これには第1節の2日間で一番衝撃を受けた。よく理解できないけど衝撃的だった。

No.6【南2局】

 村田87→成岡78→田中07→堀川。
 成岡がトップを狙える立場になったとはいえ、このオヤ番で捲れなくとも少しは差を詰めておきたいところだろう。そうなると私困ります。例えば、成岡のトップ条件が10・20、堀川との差がこのままで南4局を迎えたら、生きた心地がしません。願いは、上も下も競った状態にならず、マンガンオヤカブリにも耐えられますように。

 お祈りしているばかりではいけない、まずは自分にできることをしなければ。6巡目にワンズがと伸びたところでリャンシャンテン戻し(気持ちは前進してるけど)、すぐにドラのをひきイーシャンテンを取るときの打牌が

 ダイレクトのだけは痛いが、ソウズが鳴けてテンパイ打がになるのは冴えないので並べておこう。をひいたところで打とすると村田の協力が得られをポンしてテンパイ。成岡から40。成岡に弩級のテンパイが入っているとはいえ、先ほどまでの3人が20差にひしめく状態なら絶対に放銃しないわけで、まさに禍福は糾える縄の如し。

No.7【南3局その1】

 村田125→田中02→成岡45→堀川。
 2着めになったとはいえオヤ番が残っていることを考えれば依然寒いことに変わりはない。しかし、ここで安くてもいいからアガることができれば、南4局は放銃しなければ助かる点差になるのでなんとしてもアガりたいと思って取った配牌がドラ1枚の3トイツ。1巡目に4トイツで行く先はチートイツしかなさそう。1枚のドラが大きなお荷物なのだが、成岡が6巡目にドラを打ってくれたおかげで手放す絶好の機会を得た。にもかかわらず、なぜション牌のを打ってしまうのか。これはドラが重なったときにアガるための思考ならわかるが(それにしても中途半端よね)、16をアガることに意味を求めているのだから最低の選択といっていいでしょう。堀川の「リーチ」から「ロン」までの間は、自らのひどさに流局を願う気持ちすら起こらず、特に堀川のを見たときには「ドラさえ打っとけばアガれてる、あぁ」と今局のA級戦犯の烙印を自分の額に押したい気分に(実際はを打てるかわからないので、単純なアガリ逃しとは言えないのかな)。しかし60オールとは思わなかった。

No.8【南3局その2】

 堀川68→村田125→田中02→成岡。
 一気に堀川に抜き去られた村田が、堀川の第1打に喰いつく。その動きで私もダブが重なったので、負けじと仕掛ける。と引いてあれよあれよとイーシャンテンに。さらに村田からをポンしてテンパイ、そして華麗なホンイチ成就! ではないんですね。村田が成岡のを見逃しています。なぜだ?
 村田の南4局ツモアガリ条件は、この点差のままなら16・32、成岡から12をアガっても13・26、チートイツの分が緩和される程度の効果しかありません。しかし、堀川直撃かツモなら条件が10・20。さらに私の20・40ツモでも堀川と20詰まるので10・20に。牌が来る順番に制約が多い13・26と10・20との差は誰しも感じたことがあるでしょう、「リャンメンから埋まんなよ、キィー」って。
 しかし、ポンの段階では10・20圏内を目指していたわけではないはず、私がダブをポンしている、ことを考えると見逃したうえ120までありうるを打つなんて、損得や良し悪しの問題はともかくなかなかできることじゃない。平然とこんなことをしてくるのでホントに恐ろしい人です。村田マージャンのファンはこの牌譜もニヤニヤしながら楽しむのでしょうか。良い子はマネしないほうがいいと思うけど。

No.9【南4局】

 堀川113→田中35→村田47→成岡。
 村田から施しを受けて、なかなか安泰な2着めで南4局を迎えることができました。わずかなオヤカブリでもラスに転落ポジションから脱して、気分は「このままトップも取ったるぞー」といきたいとこですが・・・。
 一撃では決められないにせよ、そこそこの配牌をもらった割には7巡目にドラをツモったところで早々に諦めています。普段の私を知っている人なら、2着めのオヤならド終盤まで気が狂ったようにトップ目指してるやろ!(そしてササってラスになるやろ)と思うでしょう。しかし、52さえ打たなければラスにならない点差にしてもらったにもかかわらずラスになったら、この先1年ずっとお客さん扱いだろうなと思うと、こんな風に打つのが精いっぱいでした。最悪の結果を避けるためだけの打ち方でも15巡目の打からは手詰まりで、相当危うい。このあたりに東2局とは逆方向のダメさが出ています。
 点数の推移だけを見れば、トップが狙えない半荘を無難にバーでまとめたと見えなくもないのですが、内容では3者に凄みを痛感させられるばかりの半荘でした。来年も自戦記を書くために、そしてその時もっといい牌譜を見せられるように2節以降、悔いのないマージャンを打ちたいです。

(文中敬称略)

第34期順位戦A級 第1節 星取表 (5月25・26日/東京)

選手名
開始前
1回戦
2回戦
3回戦
4回戦
5回戦
6回戦
7回戦
8回戦
終了時
順位
成岡 明彦
S-0
A 
A 
A 
A 
A 
A 
A 
A 
△1
6
小川  隆
S-0
A 
B 
A 
A 
B 
B 
B 
B 
1昇
3
平井  淳
S-0
B 
B 
A 
B 
A 
A 
B 
B 
1昇
4
村田 光陽
S-0
B 
A 
B 
A 
A 
B 
B 
A 
2昇
1
堀川 隆司
S-0
B 
B 
B 
A 
A 
B 
A 
A 
△2
8
田中  実
S-0
B 
A 
A 
B 
B 
B 
A 
A 
±0
5
安田健次郎
S-0
A 
B 
B 
B 
B 
A 
A 
B 
△1
7
愛澤 圭次
S-0
A 
A 
B 
B 
B 
A 
B 
B 
2昇
2