第36期順位戦A級 最終節
最終節観戦記:五十嵐 毅(日本プロ麻雀協会代表)
最終節開始前のスコアは次のとおりである。(並びは期首順位順)
愛澤圭次 2昇
平井 淳 2昇
成岡明彦 2昇
小川 隆 4昇
高島 努 △5
西尾 剛 2昇
堀川隆司 △1
山田史佳 △6
高島、山田の降級逃れは相当厳しい。首位・小川を追う2昇組には全員名翔位のチャンスがあるが、小川より期首順位が下の西尾は他よりはやや難しい。堀川は下を見て戦うことになるだろう。
◆◆◆ 29回戦A卓 ◆◆◆
堀川△1・高島△5・成岡2昇・平井2昇
ツモ、打でテンパイ。
ツモ、5・10。直前に堀川から打たれたをチーして打、タンヤオに渡る手もあったか。しかし、東パツからそれでは急ぎ過ぎの感があるし、101的ではない。波風の立たない順当なスタート。
東2局、わずか5・10とはいえ、高島相手にトップラスの形を作られたのは、堀川にとってはよろしくない。ここで堀川、ドラドラでイーシャンテンの配牌をもらう。
第1ツモで打。ここまでは良かったが、次巡がアンコになると打とし、次巡をかぶり捨てることとなってチートイツのテンパイを逃した。北家でなければどうだったか?
結局、をポンして次の形でテンパイできたのは9巡目。
東3局(ドラ)、オヤの成岡、アンカンしてメンゼン役無し待ちテンパイのまま平井に・ピンフドラ1をウチ。平井は待ちだったが、テンパイ直前に3枚目のを打たれており、あまり感触は良くなかっただけにおいしいアガリだっただろう。平井+67・高島△06・堀川△23・成岡△38。
東4局、成岡、ポン、ドラ1のテンパイのシャンポンテンパイ。堀川ウチ28。成岡ラス抜け。
南1局、平井がシャンポンでツモ。7・14。堀川、オヤカブリでさらに差が広がる。平井+95・高島△13・成岡△17・堀川△65。
南2局、成岡チーでテンパイ。ダブの先ヅケという強硬策だが、16巡目、しかもが4枚目では致し方なしか。当然流局。
南3局【牌譜1】、高島のホンイツ仕掛けに平井を鳴かす。ツモ切りでナチュラルな打牌だが、成岡が前に出てこられないようにするためにも見える。成岡、打で高島に52打ち、再びラス目に。平井+95・高島+39・堀川△65・成岡△69。
南4局【牌譜2】、平井がオヤのため10・20でトップの高島、
ツモ打でリーチ。前に出てくるのは成岡だけだが、出ても当然の見逃し。
成岡チーしてペンのイッツーテンパイ。この動きで高島がツモるはずのを喰い流してしまった。平井にとっては最高の流れで終局。
◆◆◆ 29回戦B卓 ◆◆◆
西尾2昇・小川4昇・山田△6・愛澤2昇
東2局、オヤの小川が9巡目にドラ1のマチリーチ。
正直、「こういうリーチするのか……」と意外だった。
先の16の収入があるのでリーチ棒を投げても着順が落ちるわけではない。むしろヤミのままのほうが着順が落ちる危険性が高いかもしれない。田中実ならリーチをしそうだ。成岡も場況によってリーチと行くかもしれない。しかし、小川は101の原則に忠実なタイプとの認識があったので、観戦子には意外に映ったのだ。
または、4節までならヤミだったかもしれない。しかし、第5節と大詰めの認識が小川にリーチを打たせたのかも。しかし、小川は追う立場ではないのだが……。結果は流局。点差が詰まり、千点棒が1本転がった。
東3局、供託棒を狙って(?)山田と西尾が喰い仕掛けるも流局。供託が残ったまま。
東4局【牌譜3】、3人喰い仕掛けるが、愛澤でヤメ。雀頭のを落としていく。実際に西尾がチャンタでが当たりであり、小川にもワンズの上が高かった。小川がツモ。タンヤオドラ2で10・20。愛澤ラス目に落ちる。
南1局、山田が3フーロ。西尾がピンズのメンホン、とマチ。愛澤がアンコでとマチ。そこにを引かされ、じっくり場を見渡してのアンコ落とし。西尾を掴んで(超危険)ツモ切り。山田に28放銃。ラスが入れ替わる。
南2局、流局。
南3局、西尾のリーチ打牌が小川に捕まり、12放銃。
南4局、ラス抜けまで24の西尾、9巡目に、
ツモでテンパイトラズの打とする。ターゲットの3着目・愛澤がラスオヤなのでツモ直条件のリーチもありだと思うのだが……。トップ目・小川とは126離れているのでサンショクにしてのマンツモに意味はない。純チャンサンショクまで伸びればトップが望めるが。
結果は17巡目にを引き入れ残り1回のツモに懸けてフリテンリーチ。そして流局。
◆◆◆ 30回戦A卓 ◆◆◆
平井3昇・高島△5・西尾1昇・山田△6
東2局【牌譜4】(ドラ)、山田がと切った3巡目にリーチ。「トップ目、オヤでもないのに何故?」と覗きに行くと、なるほど、という手。ツモってマンガンで決定打。出たら16だが、このマチならすぐにも出そうで、躱し手の役目を果たす。
しかし、信じられないことが起こった。9巡目に平井がハネマンツモ。
山田、リーチしていなければ平井にハネマンツモられてもまだ10上だったはずなのに、逆に10下になってしまった。前局、マンガンを直った相手にまくられるとは信じられなかっただろう。
平井のツモは凄い。9巡目までにソウズ以外でツモッたのは2牌だけ。次から次へとやって来るソウズに押し出されるようにピンズ、ワンズの無スジを切り飛ばしているが、前局の放銃でラス目に落ちていなければここまで開き直れたかどうか? 現物のが3枚ホウに並んで、このアガリはなかったのではなかろうか。
東3局も平井は早々とピンフドラ1をテンパイし、山田から打ち取る。本当にこの日の平井はよくアガる。101A級最年長のはずだが、ツモはいちばん若い。
東4局、高島がリーチをかける。
西尾すぐに打つ。この28放銃で高島△32、西尾△58。
南1局(ドラ)、オヤ・平井の配牌。
8巡目にこのテンパイ。
南2局、オヤの高島が5巡目リーチ。
これに西尾がで24放銃。
南2局その2は平井の喰いイッツーペン待ちに高島が12放銃。平井+82・山田+08・高島△08・西尾△82。
南3局、オヤの西尾がをポンして攻めるも、ラス目のオヤに向かう者がいるはずもなく流局。
南4局、平井の7巡目、
ここにという鬼ヅモを見せ、4昇に王手と思われたが、先にテンパイしたのは山田だった。
ドラ表との役無しシャンポン。ドラ引きかいずれかを引いてのピンフ手変わり待ちのところに引いたのは。
山田はこれをツモ切った。たしかには望まぬ変化でありが2枚切られているが、ソウズの上は安く、いい感じに見えた。いったんカンにしてさらに手変わり待ちとするのも悪くない。ドラがでなければ山田もそう打っただろう。
するとツモ!「あ〜あ、アガリ逃した」と、意地悪く見ていると。山田はなんとフリテンリーチ!
3メンチャンとはいえ、は自分が切ったのを加えて4枚切れ。かなりの強硬策である。そして、これをあっさりツモり、14オール。平井までまだ届かず18差だが、そのアガリ形を見せつけられた平井の顔は険しかった。
その2【牌譜5】、平井が山田に120放銃。ご覧のとおり、高島から出たを見逃していた。平井はいま通った、山田の3巡目、ノータイムでツモ切られたを見て、いまの内と切ったわけだが、山越しをかけられるたとは思わなかっただろう。
絶好調の平井だが、さすがにこの2度目のマンガン放銃を覆す力はなかった。
◆◆◆ 30回戦B卓 ◆◆◆
堀川△1・小川5昇・成岡1昇・愛澤2昇
東2局、流局。
東3局、成岡リーチをツモアガって26オール。
これで、成岡+65・小川+26・愛澤△39・堀川△52。
東3局その2は、堀川が5・10。
成岡+55 小川+21 堀川△32 愛澤△44。
東4局(ドラ)、オヤの愛澤、8巡目に、
ツモ打としてチートイツに絞る。そのためを2枚ツモる流れをとらえきれず、ダブルイーペーコーのテンパイを逃す。まあ、そうなってもアガれていなかったが。流局。
南1局、オヤの堀川がアンコドラ1のカンツモ、26オールでトップ目に。堀川+46・成岡+29・小川△05・愛澤△70。
南1局その2(ドラ)、北家・愛澤がリーチする。
なんの変哲もないペンマチだが、これがトップ目でオヤの堀川から出る。堀川も勝負手になってたからだ。
しかし、これが成岡の頭ハネ。
堀川にしてみれば、愛澤に28放銃のほうが良かっただろう。
南2、3局と流局し、ラス目の愛澤がオヤのオーラスに。
南4局(ドラ)、成岡まで33差(成岡+59、堀川+26)の堀川がリーチ。
このリーチを受けてオヤの愛澤はポン、カンツモ、タンヤオ6オールで粘る。
南4局その2も、
南4局その3も10オール。
ラス目に落とされた小川は次局フリテンとはいえ、の3メンチャンのピンフリーチといったが、ツモることはできなかった。小川痛恨のラス。一方、成岡は小川相手にトップラスを決められたのだから上々の出来である。
◆◆◆ 31回戦A卓 ◆◆◆
堀川△1・西尾0・平井3昇・小川4昇
東2局、オヤの西尾、ピンフ・ドラ1を小川からアガる。
その2(ドラ)、平井ポン、これを受けて西尾リーチ。喧嘩を買ったというだけでなく、
というテンパイなので、以上にが狙い目になったからだろう。このマチは読み通りが1枚、が2枚も残っていたが、すべて王牌の中だった。流局。平井+28・西尾+13・堀川△14・小川△27 供託10。
東3局、小川、喰いタンで必死の2フーロ。ドラがなので12は見えみえ。これにトップ目の平井が放銃。小川は供託まで拾ってもラス抜けに01たらず。平井は自分でアガるのがもちろんベストだったが、並び変わらずのまま邪魔な供託棒を処理してもらえたのだから次善の結果か。平井+16・西尾+13・堀川△14・小川△15。
東4局、南1局、と流局。
南2局、堀川と小川がともにピンズのホンイチに向かい、両者ともテンパイする。堀川は、
と、メンホン待ち。これでは他の2人は何もできず、流局。
南3局、堀川がメンツモ・ドラ1の5・10。オヤが平井だったため、微差ながら平井がトップ目から落ち、堀川と並ぶ。西尾+8・平井、堀川+6・小川△20。
オーラス【牌譜6】、ラスオヤの小川がアンコ、ドラ1の手をカンで張った。この42に飛び込んだのが平井。前局の並びがこうなった。小川+22・西尾+8・堀川+6・平井△36。
東1局から小川とのトップラスポジションを続けてきた平井。前局で並びが崩れ、この局で完全に裏返った。ドウシテコウナッタノカ?
その2に移る洗牌の際、平井の悪い癖が出ていた。貧乏ゆすりである。平井、ラス抜けどころかトップ返り咲きまであるドラ2をテンパイ。
を切ってリーチかどうかで大長考。結局切りヤミとしたが、どのみち結果は一緒。ツモ筋にももいなかった。
小川◎で5昇、平井●で2昇と、その差は3にも開いた。南2局まではこの半荘で逆転の筋書きができていたはずなのに……。
平井の打った42は本当に重い。このまま小川が名翔位に就くとしたら、この半荘が大きな意味を持つことになるだろう。
◆◆◆ 31回戦B卓 ◆◆◆
高島△5・愛澤2昇・成岡2昇・山田△5
東2局(ドラ)、愛澤ピンフ待ちをヤミテン・ツモ。8オール。
その2(ドラ)、南家の成岡、
が2枚切れということもあって打のシャンポンとしたが流局。
東3局、愛澤が成岡のメンホンにで放銃。
メンホン2翻の101ではなかなかマンガンにならないが、これはきっちりオヤマン。成岡+112・山田、高島△08・愛澤△96、と上と下がちぎれた展開になった。
その2では愛澤がテンパイを逃す。
素直にをツモ切っていればすぐにテンパイ……ではなく、とチーしていた山田が、
東4局は流局。
南1局、愛澤が7・14ツモ。
南2、3局も流れて、成岡+105・山田△15・高島△22・愛澤△68の状況でオーラスに。オヤの山田、
ヤミテンのままツモで14オール。
リーチして26オールでも成岡にまだ16たりないので101ではリーチせずが基本なのはわかる。しかし、それでもリーチして欲しかった。
リーチ棒を出せば3着に落ち、ラス目愛澤のターゲットになる。しかし、愛澤がツモってのラス抜けを考えるならば、どのみちターゲットはオヤの山田なのである。加えてリーチをすれば、終盤に愛澤は差し込みに来る可能性もある。
この半荘を含めて残り5戦で現状△5、もはやラスを怖がる時期ではない。むしろ狙えるトップはすべて逃すわけにいかないという気構えが必要ではなかったか。
その2、愛澤がリーチ。
前局のアガリで山田との差は109と広がっており、ターゲットは高島のみ。山田からが打たれたが見逃すしかなかった。そして山田、今度はリーチ。
ツモで14オール。わずか02差ながら成岡を躱した。
しかし次局、今度は成岡が点棒の壁を今度は成岡が利用する。愛澤がペンでリーチ(ドラ)。
成岡、「どうせ僕からは当たれんでしょ」と打ち。ポンでの先ヅケテンパイを入れ、あっさりとツモッて結局トップは成岡に。
◆◆◆ 32回戦A卓 ◆◆◆
高島△5・堀川△1・山田△5・小川5昇
東2局 小川メンツモ・。7・14。
東3局、流局。
東4局、山田、4巡目にピンフをテンパイ。すぐに小川が放銃。ドラ無しで12。
南1局(ドラ)、オヤの高島が8巡目にリーチすると、それまでヤミテンだった堀川がツモ切り追っ掛け。
3メンチャンで十分勝算アリと思えたが、持ってきたで60を放銃してしまう。
堀川、この60放銃は痛かった。ラス目のままオーラスまで行ってしまう。一方、高島は細かいアガリを二つものにし、トップ目に立っていた(高島+85・山田+70・小川△19・堀川△146 供託10)。
南4局(ドラ)、オヤの小川は7巡目テンパイ。
ドラツモの26オールでトップなので234サンショク手変わりなど待たずにリーチもアリかと思うが、基本に忠実な小川はヤミテン。ほどなく山田からで出アガり、山田+52、小川+09となった。
その2が衝撃的であった【牌譜7】。堀川が13巡目にテンパイ。
打でホンイチチートイツテンパイ。ラス抜けのためには、小川の先ほどのアガリで155差となっている。悲しいかなメンホンでも2翻の101ではヤミテンでは意味がない。小川から直撃してもツモってもヤミでは足りないのだ。
は2枚出ているが、巡目を考えてもここはリーチしかない。たとえ僥倖頼みであっても。
ところが、これがアガれたのである。
小川が次のイーシャンテンから、をアンカン。
むしろ驚いたのが堀川。「ホントかよ!?」と言わんばかりに目を見開き、身を乗り出して叫んだ「ロン!」の声は会場中に響き渡った。
堀川ばかりでなく、観戦子も驚いた。一瞬何があったかわからず、「確かテンパイしていなかったよな」と、小川の手牌を見直しに行ったくらいである。いや、たとえテンパイしていたとしても101ではありえない放銃である。しかも、小川である。なおさら信じられなかった。
ちなみに、堀川のホウは8巡目から余ったワンズが打ちだされていて、ワンズのホンイチに見えにくいとしても、小川の手の中にはと現物が2枚あった。
小川は成岡のような鋭さはないが、101の定石を忠実に守り、ジワジワと昇を伸ばしていくタイプである。我慢強く、その点では愛澤に似ている。
その小川が、オーラスのラス目のリーチに、それも点差を考えれば危険な色は明白なところで放銃。しかも誰かを追う立場ではない。トータルで首位の立場である。
「小川の歯車が狂っている」――メモにはそう書かざるを得なかった。
小川が名翔位を逃すことがあれば、この一局が大きな要因となろう。
一方、高島と山田のターゲットとなっていた堀川が逃げ切り残留を成就できたら、やはりこの一局が大きな意味を持つはずである。
◆◆◆ 32回戦B卓 ◆◆◆
平井2昇・愛澤1昇・成岡3昇・西尾0
東2局、流局。
東3局、平井が成岡から16。平井、7巡目のテンパイは、
というもの。が重ねられればベスト。そうでなくてもかを引いてのテンパイが望ましかっただろう。
2巡後にを引く。ここでか切りのイーシャンテン戻しというシャレた手筋もあるが、それはマンガンアガッたら偉いマージャンでの話。
次巡のツモでカンチャンに受けるかと思ったが、ツモ切り。これにつられるように成岡が止めていたを打ち出してしまった。
東4局(ドラ)は、ピンズのチンイチ、またはホンイチチートイツのイーシャンテンになっていた成岡が、
をツモ切って、チーテンを入れていた西尾の、
その2は、西尾がタンヤオ・ツモの10オールでさらに加点。その3は流局。
南1局はオヤの平井がリーチツモの10オール。
と、ここまでアガリが多発する1戦で、成岡がダンラスになっているが、次局のその2で復活の狼煙。とのシャンポンでリーチをかけ、をツモリあげて10・20のアガリ。これでも愛澤+22・平井+16・西尾+06・成岡△44と、一人へこみのラスだが、だいぶ近づいた。
南2局は流局したが、南3局に成岡がオヤでリーチ。
4巡目という早さもあって、これは感触あっただろう。ツモで20オール。成岡+16・愛澤+02・平井△04・西尾△14と、牛蒡抜きでトップに躍り出た。
その2、ラス目に落とされた西尾が終盤テンパイ。
ラス抜けだけならリーチは不要だが、どうせならトップまでとリーチをかけた。結果は流局。まあ、ヤミでも出るマチではなかったが。
西尾、次局オーラスオヤでのテンパイは早かった。4巡目のポンテン。
明けて全てが決まる最終日を迎えた。
◆◆◆ 33回戦A卓 ◆◆◆
愛澤1昇・高島△4・西尾△1・平井2昇
南2局、をポンしたオヤ・高島がソウズを高くしたところで上家の愛澤がを鳴かす。
しかし、高島がをツモ切ると、切りきれずにそれで待っていた西尾がロン。チートイツ16の移動で西尾と高島が入れ替わり、平井は3着のまま。
南3局でも高島は平井に20を打って傷を深める。平井2着に浮上。愛澤+120 平井△20 西尾△26 高島△74。
オーラス、オヤの平井がリーチ。
ドラのがアンコになって打でテンパイ。当然のヤミテンと思われたが、次巡なぜかツモ切りリーチといった。40オールで愛澤をまくれる。60オールは必要ない。出アガリではリーチでも値段が変わらない。これは相当な疑問手だ。
この1巡で平井のアガリ確率が高まるような場況の変化はない。しいて上げれば、愛澤が平井の目から見て4枚目となるをツモ切ったくらいだが、これは平井の現物であり、愛澤は当の昔から平井の現物しか切っていないのでの山残りを保証するものではない。西尾も平井、高島の動向を見ながら打牌を選んでおり、臭い牌はすべて吸収している。
「気合いが乗ってしまったリーチ」は1巡後テンパイした高島に追い掛けられるが、そのリーチは、
というもの。オヤマン放銃は免れたが同時にアガリがなく、ラスを確定させるリーチとなってしまった。
平井のマチはが1枚残っていたが、誰も掘り起こすことができない王の城に眠っていた。
◆◆◆ 33回戦B卓 ◆◆◆
堀川△1・小川4昇・山田△5・成岡4昇
しかし、18巡目に山田がツモ。
東2局は小川がツモのみ6オール。
その2、東3局は流局。
東4局は成岡が堀川に12放銃。
東パツのオヤかぶりでラスになった堀川が04差でラスを脱出して迎えた南1局のオヤ番では手が入った。ドラでマチピンフ、タンヤオも付くをツモって26オール。
その2では小川がチートイツドラ2のマチテンパイ。
両サイドをトイツにしている上にがすでに2枚場に出ていた。小川、このマチには自信があっただろう。仕掛けを入れてテンパイしていた成岡がツモ切り放銃。
これにより成岡をダンラスにして、山田+48 堀川+44 小川+36 と、3者接戦となったが、南3局にオヤの山田が成岡からピンフの18、リーチ棒付きで28を取り、その2でタンヤオチートイツツモの32オール(このタンキは絶テンだった)で勝負アリ。
その3は成岡が3・6ツモ。
オーラスは成岡が26オールで粘るも、まだ小川と73、堀川と81差。最後はアンコの堀川がマチをあっさりとツモって終了。
◆◆◆ 34回戦A卓 ◆◆◆
成岡3昇・平井2昇・西尾△1・山田△4
東2局ではドラ2の手をもらっての先付けで仕掛け、チュンチャンパイであふれたところでを落としタンヤオに移行。その間、絶対に打つものかとのアンコ落としで回りに回っていた西尾が、本人もびっくりのタンヤオサンショクをテンパイしてツモ。山田にとっては悪夢のような2局。トップラスどころか逆バージョン。それも162差と少なくない点差。山田の降級逃れはほぼ消滅となった。
東4局は平井がメンツモ・ドラ2で10・20をアガるも西尾にまだ08たらず。そこで次局、積極的に仕掛けた。
南1局、平井の仕掛け(ドラ)、
実はのチーでと喰い流しており、のタンピンテンパイを逃しているが、そうなると、テンパイ2巡後にやってくるがおそらく止まらない。これは成岡の、
11巡目から張っていた78に当たりだった。平井、わずか3・6のアガリながらも結果としては大ファインプレー、逆に07差でトップに立った。
南2局は自風アンコでドラ雀頭の成岡がを晒してテンパイ。これにアンコの平井がメンゼンテンパイで押し返す。トップになったとはいえ、点棒状況から成岡が安手のわけはなく、オヤかぶりすれば転落するので当然の応手か。結果は流局。
南3局、山田が高目ツモハネマンの567サンショクをリーチするも、平井が1回もツモらせずにカンツモ。メンゼンツモの3・6。山田、気合いの入ったリーチだっただけにガックリとうなだれた。
オーラス、チートイツをドラマチでテンパイした成岡が13巡目に即リーチ。オヤの山田もドラを1枚持ったままチートイツイ―シャンテンだったが、6個目のトイツができることはなかった。
◆◆◆ 34回戦B卓 ◆◆◆
堀川△1・高島△5・小川4昇・愛澤2昇
その後2局連続流局したが、東4局、高島にとって歓迎せざるアガリが出る【牌譜8】。堀川がドラトイツの配牌。ワンズでイーペーコーも望める好形だったが、1、2巡目でトイツができチートイツイーシャンテンに。7巡目にを重ねてテンパイしたときまでに、ワンズを連打していた高島の捨て牌のおかげでマチに選んだは絶テンになっていた。なにしろ手バラでオリ気味の愛澤が打ってしまうほどなのだから。堀川これで48浮きとなって高島と並びトップ。
さらに南1局オヤ番でメンツモ。ドラ1の14オールで単独首位に。
その2は小川が3フーロで大暴れ。
南2局、ドラが三者に分散する形となって流局。
南3局、オヤの小川は678サンショクにこだわりすぎたか、流局。手なりで打てば、
での8オールはあり得た。
オーラス、オヤの愛澤、名翔位連覇のためにはここでのトップは必須。逆に言えばラス逃れにはあまり意味がない。トップ堀川まで184差だけに60オール、それが無理でも40オールは狙いたい。ドラがポツリ1枚の配牌、最初はワンズのホンイツを構想したと思うが、2巡目にしてソウズが1メンツできたために、以後は真っ直ぐな連荘狙いとなった。
愛澤の2巡目、上図から打とし、9巡目にはこうなった。
ここでドラを手放し目一杯に構える。しかし、これがテンパイしたのは最終手番であった。
最終35回戦が始まる前の星取表は以下のとおり。
小川4昇、平井・成岡3昇、愛澤1昇、堀川0、西尾△1、高島・山田△5
高島・山田は降級確定。愛澤・堀川・西尾は残留確定。名翔位の可能性を残すのは小川・平井・成岡の3名である。
この3人の期首順位は平井―成岡―小川の順である。ひとり4昇持ちの小川はトップを取れば無条件だが、同昇で並ばれた場合には平井、成岡、どちらに対しても下になってしまう。
平井の優勝条件は自分がトップで別卓の小川がトップでないこと。トップが取れなくても小川ラス、成岡がトップでない場合に3人が3昇並びとなって平井が優勝となる。
成岡は自分がトップ、かつ平井がトップでない場合に優勝。トップが取れなかった場合でも平井、小川ともにラスなら優勝である。
◆◆◆ 35回戦A卓 ◆◆◆
平井3昇・堀川0・山田△5・愛澤1昇
ツモる手に力が入ったが流局。
東2局流局。
東3局も平井に手が入り、タンピンテンパイが入ったが流局。
東4局、ついにアガリが出る。堀川が5・10ツモ。オヤが愛澤だったので、このままの着順で終われば来期の期首順位は堀川が愛澤より上になる。
南1局流局。局が進むごとに平井の配牌が悪くなっていくようだ。徐々に平井に焦りの色が見え始める。
そして南2局、平井はオヤの堀川に18放銃してラス目になる。いや、平井にとってラス落ちはあまり関係ないだろう。ただ、トップまで61差と開いてしまった。
南2局その2、愛澤がタンピンツモ・ドラ1の13・26。トップ目が入れ替わり、平井からは78差になる。平井の溜息の回数が増えた。愛澤がラスオヤなのでオーラス13・26で並びトップの道もあるが、いずれにしろ残り2局が正念場。
南3局、西家・平井の配牌。
重い。・チャンタ・ドラ1が本線か。早いうちにピンズが伸びればホンイチもあり得るが、第1ツモがで早々とホンイチを見切って打。
2巡目、をツモッてアンコに。門風のでないのはややトーンダウンだが、重いシャンポン形を処理できたのは大きい。3巡目、ツモ。重いと書いたあの手が順調すぎるほどにアッという間のイーシャンテン。
ドラがということもあるが、3巡目のこの時点でがすでに3枚出ていたので迷うことなくのターツを落とす。
「おいおい、なぜか平井に追い風が吹いているぞ」そう思って見ていた。だいたいこういうときは、ネックとなるドラがすでに3枚くらい持たれていたりするのだが、このときは堀川が1枚手にしているだけで、3枚も残っていた。むしろのほうが2枚残りであった。平井は知る由もないが……。
7巡目、その残り少ないほうのを引き入れた平井、もちろんリーチ。その3巡後、残り3枚が誰の手に行くよりも早く、真っ先に平井の手元に引き寄せられ、順位戦に参加してから28年の思いによって静かにそして重々しく表に叩きつけられた。
このマンガンツモにより、平井+44・愛澤+22・堀川△08・山田△58という状況でオーラスに。山田にはもはやモチベーションはない。堀川は愛澤からマンガン直撃した場合に期首順位が上がるが、それほどシャカリキになって狙うようなものではないだろう。残るはラスオヤの愛澤。平井が勝つにしても、現名翔位としてそう易々と勝たせるわけにはいくまい。
愛澤は最後の壁となるべく、序盤から仕掛け、揺さぶりをかけた。
◆◆◆ 35回戦B卓 ◆◆◆
高島△5・小川4昇・西尾△1・成岡3昇
流局を挟んだ東3局、成岡がリーチピンフツモ。
決定打となり得るの方ではなかったが、成岡+20、小川+17となってわずか03差ながらも王手を掛ける。
東4局、小川が4巡目にをポン(ドラ)。
8巡目、西尾切り。成岡、高島がすかさず合わせる。小川、高島のをチーして打、テンパイを取った。しかし、10巡目に持ってきたが成岡のピンフに当たってしまう。成岡、このカウンターでの直撃には手応えを感じたのではなかろうか。18の直撃でその差39に広がった。
しかし好事魔多し。次局、西尾がドラのをアンカンし、場が凍り付く。トップを取ったとして、来期の期首順位で別卓の堀川、愛澤の上になる可能性がある西尾だが、小川、成岡の勝負に割って入るまでのモチベーションになり得るかは疑問。だから、西尾が出アガリの利く手に持って行っているかは皆、疑心暗儀だったと思う。そんな中で成岡は歯を食いしばって純チャンサンショクイーペーコーをテンパイ。
しかし、マチのペンはカラだった。そして、西尾が14巡目にこんな手を引きアガった。
南2局、今度は成岡。またも純チャンサンショク。ピンフにドラも付けて今度は実らせた。
このバイマンツモで、成岡+151・西尾+11・小川△73・高島△89というスコアになった。成岡、勝負を決めた……と思ったに違いない。
確かに決まった。小川との勝負は。
しかし、この少し後に別卓から、ずっと音沙汰無しだった平井の「28年の思いロン」が静かに聞こえてきたのだった。
しかし、これは集中力を極限にまで高めていた成岡には聞こえていなそうだ。興奮MAXとなったところに冷水を浴びせられた成岡。だがいずれにせよ、相手は別卓。どうすることもできない。
あとは小川である。小川は平井の声が聞こえたという。小川だけは自分がトップになりさえすればいいのだ。しかし、デカすぎるバイマンで224と広げられた差を残り2局で捲るというのはあまりにも無理な相談であった。
ラス前は、ホンイチチートイツ狙いからホンイチトイトイサンアンコ狙いに変化→ポンテンが取れる牌が出ることもなく、イーシャンテン止まり。
オーラスはシーサンヤオチュウを狙うも、まったく手にならず、流局。
平井淳、名翔位初戴冠おめでとう! 筆者とは同い歳だけに感慨深いものがある。海の向こうのイチローとはスケールが違うが「中年の星」として輝いた瞬間だった。
最後まで可能性を残していた小川だったが、やはり32回戦のオーラスに堀川に打ったが後々まで引きずる敗着になった。同昇アタマハネで名翔位を取り逃がした以上、そう言わざるを得ない。
しかし、まさか平井にこんな日が来るとはね……。
「大手の会社員だから長続きしないだろう」と、師匠にも思われていた男が順位戦に居座り続けて28年。気が付けば最年長現役選手として君臨し、名翔位最年長記録を塗り替える存在となった。
筆者自身、褌を絞め直そうという気になったし、順位戦の後輩たちにも希望を与える結果になったのではなかろうか。
あれっ、そう言えばもう一人同い歳がいたな。お〜い山内啓介、何をしてるんだ??
名翔位・平井 淳 記:木村 由佳
第36期名翔位になった、平井淳。平井にとってこの戦いは、成岡明彦との戦いだった。
2014年12月14日、愛澤圭次が名称位になった日、A級最終戦を終えた平井は叫んだ。「やったー! 成岡の上になったぞー!」
101の順位戦は、期首順位が決まっていて、規定打数の35回戦終了時に同昇だった場合。期首順位が上の者が勝つ。平井はここで「成岡と同点ならわしの勝ち。負けなければええんやな」ということを何度も確認していた。
その場(対局室でのビールと乾きものによる打ち上げ)で私は、「おっちゃん、うるさいなあ。みんなが愛澤さんにおめでとう言うてんのが、聞こえへんやん」と文句を言っていたのだが、そのことを1年後にまざまざと思いだすことになった。
2015年12月13日、A級の最終戦(35回戦)を迎えるにあたって、名翔位になる可能性があるのは3人に絞られた。期首順位順に平井3昇、成岡3昇、小川4昇。最終戦の卓組は平井がA卓で、成岡・小川がB卓だ。
小川は自分がトップならば優勝。平井は小川がトップでなければ自分がトップで優勝、成岡は自分がトップかつ平井がトップでなければ優勝となる。他に小川がラスだったら……などいろいろなパターンが考えられるが、とにかく、3人の戦いになった。
B卓の勝負が決まったのは南2局。そのときの点棒状況は東家から小川+07・西尾+06・成岡△9・高島△49。成岡の配牌は、
「ロン!4000・8000!」
この成岡の勝利宣言とも言える申告は、当然、A卓の平井にも聞こえていた。その平井は南3局で、7巡目にこのテンパイ。
点棒状況は東家から山田△18・愛澤+42・平井△36・堀川+12。
10巡目にツモった平井は、卓内にだけ聞こえる声で言った。
「ロン。2000・4000」
B卓は成岡が休憩を要求し、トイレに立った。そのとき、A卓の横を通るので、平井は「成岡は、当然、A卓の状況を見て行ったと思った。だから俺がトップ目にいることはわかっていると思っていた。」
ところが、成岡はそれを見ていなかったという。だから、成岡はトップのままB卓が終わったときに「なぜ、だれも自分に『おめでとう』と言わないのだろうと思った」と後にもらしたそうだ。それを聞いた平井はあきれ顔。「成岡はほんまに、集中したら自分のことしか見えへんねんな。金子さんと一緒や。俺には考えられへん。」
平井がA卓で勝負を決めたときの配牌は、
平井は「1巡目に愛ちゃん(愛澤)が切ったをチーしようかなと思ったけど、せんでよかった。ドラがツモれてよかった」と振り返る。アガリの発声が小さかったことについて、観戦者や記録者からは「成岡に聞こえないようにアガって、こっそりリードしようと思ったのでは?」という憶測も飛んだが、これは下司の勘繰りだったらしい。平井の言うことには「いや、こんなもん(ドラ)がツモれるんや。ちょっと不思議な感覚でロン言うたんや。そのときは成岡のことなんか考えてへんで」。
3人の勝負で、まず自分は必ずトップを取らなくてはならない。しかも敵の動向次第で勝てるかどうかわからない、という状況で、成岡と平井に見えていたもの、聞こえていたものは、周りが「どうせ見えてるでしょ?聞こえてるに決まっているでしょ?」と思ったものとは、かなり違ったようだ。
こうして、平井は成岡に勝ち、名翔位になった。1年目で順位を上にしておき、2年目で同昇で優勝という、2年がかりで獲得した名翔位、20年目にして初の戴冠である。
平井は、そのあとの打ち上げでも、忘年会でも「いやほんまにうれしい。それしかない」と何度も繰り返した。
2月に行われた就位パーティーでは、A級の選手は「平井を名翔位にしてしまったA級戦犯」として整列し、皆さんに反省の弁を述べた。その余興(?)、いやメインイベントは大いに盛り上がり、平井の学友の皆さんも、大いに楽しまれたようだ。 平井は、毎週金曜日に「ガハ研」という研究会を主宰していて、101の選手やアマチュアの愛好家の勉強の場を設けている。「平井さん、本当に頑張ってるんやから報われてよかったね」というのが、みんなの率直な感想の最大公約数ではないだろうか?
101は、選手の人数は少ないが、みんなそれぞれに個性的で、競技マージャンの世界で注目されていることは間違いない。八翔位3連覇の小川隆、戦術本を発表して動画配信への露出も増えてきた成岡明彦、そして良くも悪くもどこに行っても目立ってしまう名翔位の平井淳という主力選手の先導で、今期の101の順位戦がどういう方向に進むのか、またいろいろなタイトル戦への参加で選手たちがどのような評価をされていくのか、ますます目が離せない。
第36期順位戦A級 最終節 星取表 (12月12・13日/東京)
選手名
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開始前
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29回戦
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30回戦
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31回戦
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32回戦
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33回戦
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34回戦
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35回戦
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終了時
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順位
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愛澤 圭次
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2昇 | A − | B − | B ● | B − | A ◎ | B ● | A − | 1昇 | 4 |
平井 淳
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2昇 | A ◎ | A − | A ● | B − | A − | A ◎ | A ◎ | 4昇 | 1 |
成岡 明彦
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2昇 | A ● | B ◎ | B ◎ | B ◎ | B ● | A − | B ◎ | 4昇 | 2 |
小川 隆
|
4昇 | B ◎ | B ● | A ◎ | A ● | B − | B − | B − | 4昇 | 3 |
高島 努
|
△5 | B − | A − | B − | A ◎ | A ● | B − | B ● | △6 | 7 |
西尾 剛
|
2昇 | B ● | A ● | A − | B ● | A − | A − | B − | △1 | 6 |
堀川 隆司
|
△1 | A − | B − | A − | A − | B − | B ◎ | A − | ±0 | 5 |
山田 史佳
|
△6 | B − | A ◎ | B − | A − | B ◎ | A ● | A ● | △6 | 8 |