第36期順位戦A級 第3節

  観戦記自戦記/成岡 明彦星取表

第3節観戦記:菊池 一隆(マージャン101東京支部)

 昨年の鈴木さんの観戦記(第35期順位戦A級第2節)の言葉を借りるなら、「101とは相対評価の極み」である。素点の多寡に意味は無く、またトップとラスにしか意味を持たせないというシンプルなルールは、選手の動機を概ね「トップを狙う」「誰かにトップをとらせる/とらせない」「ラスを回避する」「誰かにラスを押し付ける/回避させる」に限定する。そこから逆算すると(一般的なマージャンに比べれば)遥かに他家の意図は読みやすく、それ故にそれを踏まえた自身の未来予想図をどれだけ正確に描けるか、それに向けた正解を選び続けることができるか、の勝負であるように筆者は感じる。

 丁度折り返しに当たる第3節、開始前の順位は上から小川5昇・愛澤2昇・堀川2昇・西尾1昇・平井△1・成岡△1・山田△2・高島△6の順。各選手の紹介は前節の伊澤さんの観戦記(第36期順位戦A級第2節)に譲るとして、そろそろ今季の各自の未来予想図を踏まえた上での選択が出てくる頃であろう。対局の模様を東京支部の菊池一隆(ずったか)がお届けする。なお全8対局のうち筆者が観戦した4対局についてのみ記事を纏めている点、予めご了承頂きたい。また文中では筆者が観戦した位置を(筆者)として記している。

 夏の終わりを感じさせる陽気となった8月22日、対局室でやや緊張しながら開始を待っていると、そこに最後に姿を現したのが成岡。自転車用のヘルメットを脱ぐや否やクーラーに手をかざして涼をとる。すると突然「(その恰好が)変な宗教みたいやな」とボソリ。対局室中が一瞬にして和やかな空気に変わる。おそらくそれは、101競技連盟のいつもの光景。

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◆◆◆ 17回戦A卓 ◆◆◆

小川5昇・成岡△1・(筆者)・堀川2昇・西尾1昇

 成岡をして101現役最強と言わしめる男、小川隆。現八翔位にして今季順位戦も気がつけばトーナメントリーダー。そんな小川でも順位戦は特別なようで初戦の東1局は身震いからかヤマがうまく積めない。しかしゆっくり丁寧にヤマを積み終えると、これまたゆっくり丁寧に「お願いします」と人一倍大きな声を対局室中に響き渡らせた。

 東1局その2(小川24→成岡・堀川・西尾)。小川が幸先よく6オールで先制した次局、その小川が5巡目に打。 小川捨牌 。この局も手牌整っているんであがりに向かいますよ宣言。それを受けた西家堀川の手牌が5巡めに、
 を鳴けばイーシャンテンだがスルー。そして同巡ドラ表のをひくとそれをしまい込み小川の現物で河に3枚目の打。その後一切甘い牌は打たなかった。ここでを打つのは、(メンツ手であがれるとしても)ターツを振り替える余裕はない&受けの七対子の若干の可能性、などの理由もあろうが、脇に対する先処理、の意味合いが強いのであろう。堀川がを仕掛ければそれなりに牽制効果は享受できるだろうが、おそらく十分形であろう小川に1枚でも押し返されればこの形と打点では押し返せないのは自明。であれば一歩手前で未来を正確に描き、それにむけた正解というのが堀川にすればスルーの打。とりあえず鳴いてその後の様子で考えるという時期はとっくにすぎているという判断なのであろうし、もしかすると堀川の辞書に"とりあえず"という文字は端から無いのかもしれない。
 受けた堀川に対して、向かっていったのが成岡。 小川がさらにを手出しした後もチャンタや七対子であたる可能性があるを打って手をすすめる。成岡クラス、小川ののきり順でチートイツは否定できているのかもしれないが。12巡目小川がさらにを手出し。
 小川捨牌は、「」。
 前巡の打はさすがに少考した成岡だったが、手出しをみた後のは抑え半歩後退の落とし。 成岡12巡目、
 ちなみにが4枚見ているとはいえは小川にペンであたる可能性もあり、最後まで諦めない成岡の姿勢がここからも見てとれる。その後生牌のをひかされるが15巡目にをひいてテンパイすると打。次巡ドラのもノータイムでツモぎり!成岡曰く「テンパイ打がなら打たないかも」とのこと。打の勢いで打てたということなのだろうか?序盤から小川の圧力が強く、場にでていなかった字牌が。であればそれらは脇が抱えている可能性も高く放銃する可能性は低いとみての打、までは分かるのだがさらにを打つ選手は皆無であろう。ましてや16巡目でタンヤオのみのカンチャン待ち。おそらく成岡でも打たないことの方が多いのであろうが、この必死さが小川のアガリを阻止することがあるのも事実。小川が十分形と知ってなお、その速度とマチをギリギリまで読み、その読みに殉じてギリギリまで踏み込むという成岡の姿勢を見せつけられた一局となった。もちろん成岡のこの姿勢は同じA級で戦う他の選手にすれば既知の情報であろうが、成岡からしてもこの局やこの半荘の損得を超え、その先の未来をも描いた上での打だったのであろう。
 小川の打に端を発した二者二様の対応に見とれていたのだが、結局最終手番で小川からロンの声。それは前局の6オールの時と同様の落ち着いたはりのある声だったのだが、小川の採譜をしていた藤森の苦笑交じりの表情からその打点は窺い知ることができた。

 東1局その3(小川264→成岡・堀川・西尾)。成岡1巡目、
 前局のキー牌となったをあっさりきる。小川がぬけた以上小川のダブという意味合いは薄れ、実質他の役牌と同等の価値。であれば架空の速度を演出できる分だけここでのは捨て得という判断か。また小川がさらにぬけてラスを選べる立場になった場合、ここまでの成績や座順からも成岡にアシストするであろう未来は予想できるため、仮に小川にダブを鳴かれたとしても悪いことではないし、この局だって仮に成岡がやドラのを打って喰いタンで仕掛けた場合、アシストとまではいかずとも他家にあがられるよりはましと考えてくれることは十分に予想できるのだ。ギリギリまで踏み込んだ成岡なりの正解、それが第1打

 東4局(小川252→成岡65→西尾10→堀川)。堀川8巡目、
成岡の捨牌は、「」。ラス目でドラがアンコ。とはいえあがれないものはアガれない。"とりあえず"手を進めるようなことはせずここからと合わせじっと機を待つ。

 南1局(小川252→成岡65→西尾10→堀川)。堀川9巡目、
 関連牌はが生牌。は1枚ぎれ。はドラ表に1枚。小川と西尾にワンズと字牌が高い場況。堀川の選択は両天秤の打。次巡生牌のもうなりながらツモぎり。確かに小川と西尾には持たれていそう(ヤマに薄そう)&小川と西尾は遅そう(鳴かなそう)ではあるのだが、それでもなおチートイツに決め打つ打の方が良いのではないか・・・これが筆者の第一感。結果的にここからとひいてチートイツでアガったことが、だったらツモの時に打だったのではないかという筆者の第一感を半ば神目線的に後押しし、堀川の真意を理解しようとする柔軟性を奪っていた可能性が高い。
 今になって思う。堀川はトップをみていたのではないか。チートイツでラスぬけする可能性を減らしても、スーアンコの可能性をこの時点では消したくなかったのではないか。なぜなら、例え可能性は小さくてもトーナメントリーダーである小川のトップをまくることは1昇以上の価値があるのだから。あの日、打のまま硬直していた筆者の頭では理解できなかった堀川のうなり声や次の言葉が、今ならほんの少しだけ分かる気がする。
 堀川「打の後でがでても鳴かへんよ」

 南2局(小川207→堀川25→成岡65→西尾)。成岡の自戦記(第36期順位戦A級第3節成岡自戦記南2局)に詳しく記載されているため割愛。
 それにしても(毎度のことではあるが)終盤で堀川と同じの亜両面で追いついてから堀川に対して無筋のを押せるあたりが流石である。堀川に放銃した場合の打点やその後の小川からのアシストの期待を含め、トップとラスの確率を冷静に計算した上での押し引きなのであろう。

 南4局(小川207→堀川25→成岡65→西尾)。こちらも成岡の自戦記(第36期順位戦A級第3節成岡自戦記南4局)を参照。7巡目の打の意図を尋ねた際の成岡の第一声は「僕が小川なら西尾より堀川にラスをひいてもらいたい。だから西尾の連荘を1回待っても良いので、この局は成岡にアシストはしない」というもの。結論からいえば小川はアシストする意思があったため成岡の読み違いではあるのだが、同じ成績表を与えられても2昇の堀川と1昇の西尾をどこまで区別するかは人それぞれであり、それをどう読むかによって選択が変わることがあるのだということを思い知らされた。
(◎小川/●西尾)



◆◆◆ 18回戦B卓 ◆◆◆

山小川6昇・西尾0・愛澤2昇・(筆者)・平井0

 東1局。愛澤6巡目、
 234が見えたとはいえ3シャンテンで生牌のを愛澤がきるわけもなく打。この打ち方ではあがり逃しは日常茶飯事であろうが、それでもをしぼり、鳴かせず、またあがりに向かう人に生牌をきるという踏み絵をふませ局面を分かりやすくするというのが愛澤流。最終的な素点の多寡に意味が無い以上あがり逃しは必ずしも悪では無く、むしろ「小場になれば愛澤ペース」という程の自信を感じさせる。次巡を重ねて打。次々巡をひいて直前に平井がきったを合わせ打ち、8巡目に無臭のイーシャンテンに。愛澤8巡目、
のところで打としていても形は同じだろうが意味合いが全く違う。平井が攻めているという情報を周知させ、かつ自分は目立っていないためにキー牌が鳴けたりあるいはすっとテンパイすれば出アガれることもあるだろう。そこまで考えれば先打ちによるあがり逃しはいくらか相殺され、生牌をしぼれるというメリットがそれを上回るという愛澤の声無き主張も大いに頷ける。
 一方、踏み絵を踏まされた平井は以下の形。 平井7巡目、
 字牌が重い場で三元牌とは生牌。であれば皆で抑えあっているだけの可能性も高くドラ2の平井にすれば当然の生牌ぎり。仮にこれが愛澤だったら・・・何をきるのか非常に興味深い。 イーシャンテンから愛澤はツモぎりが続き、小川と西尾におり気配がでた14巡目。平井14巡目、
 まっすぐに打。いかにも攻撃的な平井らしい。ちなみには生牌で選べないしも愛澤には通っていない。であれば勝負手のここはまっすぐといったところか。仮に愛澤ののきり順が逆であっても平井ならお構いなしにをきりそうな気もするが、それで痛い目を見ることもこれまた日常茶飯事であろう。対する愛澤もそしてと踏み絵を踏み続けた平井に敬意を表してか、ここはをスルーしてポンテンをとらず、次巡からを河に並べておりを選択。攻めているのが平井だけと分かっていても平井に無筋のの部分をを打たれる前に処理できなかった以上、ここは無理をする必要がないという判断か。愛澤曰く「最終形が両面ならポンしていた」とのこと。その辺りのバランスは非常に繊細な部分なのだろうが、イーシャンテンでをきった平井とそのポンテンをとらなかった愛澤というコントラストが印象に残る一局となった。

 東2局。珍しい4人テンパイの図。
 愛澤がをつかみ平井に80。

 東4局(平井80→小川・西尾80→愛澤)。80というビハインドをどう捉えるか。愛澤7巡目、
 ここにがでるがポンをせず次巡をひいて落とし。道中で生牌のをひいた12巡目、上家の西尾がラス牌のをツモぎるがこれもスルー。次巡西尾がをツモぎり愛澤がアガリを逃したかにみえたが、ラス目の上家で高いドラ色のピンズを連打しているということは・・・。もちろん西尾にはこんなテンパイが入っていた。
 愛澤がつくった声無き流局譜。

 南2局その2(西尾108→平井80→小川108→愛澤)。西尾が40オールでぬけた次局。愛澤3巡目、
 関連牌はが1枚ぎれだがさして迷わず打。愛澤曰く「この段階ではチートイツは消さない」とのこと。順位戦選手のチートイツへの意識の高さが窺い知れる。またをきる場合に比べ余剰牌を1枚多く持てるのも受け型の愛澤にとってはメリットか。結果はこのままとひきこみ即平井のツモぎりをとらえた。

 南3局(西尾160→平井28→小川56→愛澤)。愛澤の懐深い戦いっぷりについラス目であることを忘れてしまいそうになるのだが未だラス目。そして最後の親番を向かえる。
 愛澤の配牌が、
 ここにきて氷解する、手数の少ない愛澤がA級で互角を遥かに超えた戦いができている訳を。を鳴かなかった姿がフラッシュバックし、そこから続く一筋の光を放つ物語を見せられているような感覚に陥る。 愛澤が、捨牌「」でリーチ。このきり順だからこそ愛澤なのだ。強い愛澤がまたラスぬけを果たした。愛澤9巡目、
(◎西尾/●小川)



◆◆◆ 19回戦A卓 ◆◆◆

愛澤2昇・堀川2昇・成岡△1・(筆者)・高島△5

 東1局。愛澤捨牌「」。何てことないきりだしなのだが、オタ風とはいえ愛澤がをきった瞬間「既に南が押し出される形になっている」と意識させられてしまった(筆者は対面から観戦)。
 後で牌譜を確認すると、 愛澤2巡目、
概ね想像通りの手恰好であった。

 東1局・東2局を流局で迎えた東3局。その愛澤が第1打に。これはもう緊急事態であるがやはり向かっていったのは成岡、いや今回は向かうべき手だったというべきか。
 成岡12巡目、
成岡の捨牌が、  
高島の捨牌が、  
愛澤の捨牌が、  
堀川の捨牌が、  
 所謂メンツ手とチートイツの分岐点。チートイツの重要度が高い101において、ここでの決断力は生命線であろう。成岡の選択は両天秤のツモぎり。が、その後とひき結果的にあがりを逃す。チートイツに決めるなら一歩手前で決めていそうな成岡だからこそ、ここは逆に未練をたって打として欲しかった。分岐点(あるいはその遥か手前で)チートイツに決め打てる天才が、必ずしも分岐点でメンツ手に決め打てる天才とは限らないということを知る。 ちなみに愛澤の第1打はここから。
 成岡のテンパイ打にもひるまず愛澤も無筋を打って応戦したが流局。

 南1局、原点のまま南入。高島5巡目、
 ここから打とした次巡のツモがは1枚きれており、ドラのは生牌。678の渡りもみてツモぎりかと思ってみていると打。その後ラス牌のをひいてテンパイし、タンヤオのテンパイが入った愛澤からを打ちとる。その間はひいていないので最速のあがりということにはなるのだが・・・。
 どうしても気になって対局後高島に聞いてみた。
「もしすぐにがアンコになってテンパイしていたらどちらの待ちにするつもりでしたか?」
「・・・多分に受けていたと思います・・・。」
 今後高島がA級で揉まれ引き出しを増やさざるをえなくなった時、おそらく今のまっすぐな強さもろとも吹き飛ばされる時期が来るであろう、そんな未来を予見させた。

 南2局(高島52→堀川・成岡52→愛澤)。高島が6巡目にをポンして打。高島が捨牌「はツモぎり)」。 捨牌からも状況からも遠い仕掛けには見えない。なおポンテンにソバテンなしという言葉があるが、101ではリーチ不要の手組が好まれる傾向にあるため、例えばからはを打つことが多く、ポンテンのソバテンになることも多い。したがって筆者ならこの時点で一番きりたくないのがのまたぎ(ドラ雀頭が最悪)である。
 直後を鳴かせたラス目愛澤がツモぎり。堀川7巡目、
 ラス目愛澤の速度は打牌からは読みづらいが、高島はポンテンの可能性があるため愛澤に合わせて打。成岡7巡目、
 さすがの成岡もこの手恰好では即おりを決断。後で脇にきりにくいから処理。すると同巡高島がを手出しし、愛澤はツモぎり。
 堀川8巡目、
 高島がターツ外しならイーシャンテンの可能性が大、ということで勝負。成岡8巡目、
 高島のターツ外し(おそらくイーシャンテン)を受けての堀川の打は必ずしもテンパイ打とは限らない。ということで愛澤には今なら通るを先処理、が堀川に24の放銃。

 南4局(高島28→堀川24→成岡52→愛澤)。堀川がまっすぐ打ち進めた9巡目のが御用となった。7・14で逆転トップという点差が逆に仇となったか。成岡4巡目のは筆者には打てなそうだが下よりも上を見た一打なのであろう。それにしても強い愛澤、ここでもラスぬけ。
(◎高島/●堀川)



◆◆◆ 20回戦A卓 ◆◆◆

山田△3・堀川1昇・(筆者東場)・西尾0・愛澤2昇・(筆者南場)

 東1局。7巡目に堀川がリャンメンでチーした形が、
 
 また、堀川の捨牌が、「」。受ける側からするとが薄くない以上、やはりサンショクやイッツーあるいはの二度受けが読みに入ってくるだろう。
 西尾13巡目、
ここは手役からも打としたが仮に456のサンショクだった場合は何をきったのか興味深い。をひいて5・10。

 東2局(西尾25→堀川・愛澤05→山田)。堀川の捨牌が、「の2枚目はツモぎり)」。
 また、西尾5巡目、
 ここで堀川の現物を消費したのだが、その先の未来は描けていたのだろうか?結局堀川が13巡めにツモあがり。

 南1局(堀川138→西尾12→山田10→愛澤)。山田の配牌が、
 心躍る配牌であるが、3巡目にでたもスルー。山田曰く「他の形が苦しくドラと役牌のシャンポンもネックとなるため鳴いてもあがりに近づかない」とのこと。
 ほとんどのルールでこのをスルーすることは稀であろうがA級を戦う若武者なりの未来予想図とそれに基づく確固たるスルーをみて嬉しさに似た感情が込み上げた。その後自分でをひきこみのトイツ落としをした次巡にテンパイ。
 はごっそり残っていたし攻めている西尾からはこぼれただろうが、マージャンは枚数ではないんだよ、と言わんばかりに西尾が14巡目に残り2枚のをツモりあげた。
 

 南3局その1(堀川113→西尾50→山田77→愛澤)。堀川が5巡目にをカンチャンでチーして打。堀川の捨牌が「」。対面からみていたがマチはカンだと直観した。チーテンではあるのだろうが、それ故に危ういとも思った。その後ツモぎりが続くと河も弱くなるし、そもそもマチが読まれやすいためそれ以外の牌を他家がきってもアガリに向かっているのかどうかが分かりづらい。そんな状況を自分で作ってしまったのではないか。また仮に安くても差し込んでくれる協力者がいないのもマイナス要素である。
 西尾のツモぎりあたりで頭をよぎり、ドラのをひかされたあたりでは5回ほど脳内で点滅していたであろうブレーキランプは、そのままト・マ・リ・マ・スのサインだったのではなかろうか。なお、対局後堀川に尋ねたところ「は絶対鳴く」と力強く回答をもらったが、「の前のあたりでやめても良かったかも・・・」とのこと。
 西尾が13巡目に、

 南4局(西尾53→堀川93→山田103→愛澤)。今回は愛澤がどのようにラスぬけをするのか、とつい注目してしまう。愛澤8巡目、
 あっさりアレとアレをひいてしまうのではないかと妄想したが、同巡山田からリーチ。
 ヤマ読みも完璧では3枚ヤマ。一撃でトップをさらいにいったが愛澤がをつかみ横移動でジ・エンド。山田のリーチ後、堀川と西尾が山田の現物のを合わせ打ち、その3枚目のを愛澤が仕掛けていれば山田ののツモあがりであったがそれは結果論。トップを狙いにいった山田、さばきにいかなかった愛澤、それぞれの雄姿と、勝手なたらればの妄想を楽しみつつ、清々しい気持ちで観戦を終えた。
(◎西尾/●愛澤)

※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※

 終わってみれば△6だった高島が3つ星を戻した第3節。小川が未だ頭一つぬけた状態ではあるが、今後も上から下まで目が離せない展開が予想される。いや、少しでもそうなるように、高島や山田といった若武者が、臆せず、返り討ちに合うことを恐れず、101の既成概念をぶち壊す、という意気込みで自分が本心から信じるマージャンをぶつけてくれることを期待する。



第3節自戦記(17回戦A卓:成岡 明彦)

 第3節を迎え、順位戦も中盤にさしかかった。ここらで名翔位取得と降級逃れとのどちらに比重をかけるか、よく考えねばならなくなってくる。勿論「この辺りではあまり深く考えずに打っておき、最終節の位置で考えればいいや」という考えもあるとは思う。が、僕はそれは少し損な思考な気がしている。
 で、どうするか。通常は「タイトル獲得のチャンスなんてそうあるものではない、だから名翔位獲得に比重を置くのが当たり前」なのだが。
 実は第2節が8戦中バー1回の大暴れ(第36期順位戦(2015年))。どうにもならずに△2となった第1節の成績を抱えたところから3連勝。4連勝目前で調子に乗ったらラス。そしてバー1回を間に入れた3ラスで元に戻る。最終戦にほうほうの体でトップをとって△1、となってこの第3節である。
 正直、「4連勝を賭けたオーラスが勝負どころやと思っていた。そこで失敗してズルズル。もう無理しない方がいい気がする。ただ、諦めるわけではない。」といった感じ。あれ?中途半端で損な考え方やないの?(文中敬称略)


No.1【東1局その1】
 なんだ小川の配牌は。ズルいぞ。そして2巡目テンパイ。4巡目にはドラを引いて待ち変え…してないぞ。あれ?よう覚えてへんな。これ、記録あっている?なんしか6巡目に6オールのツモアガリ。


No.2【東1局その2】
 前局の彼我の差に「ここで止めなければまた『強い小川』にやられるぞ」てな嫌な予感しかしない。そしてここでこの半荘の大勢を決めてしまう「ハートの揺れ」が出てしまう。
 タンヤオに向かって4巡目。


  もう、ここでね、ピンズのリャンカンが重すぎる。
 「リャンカンはリャンメンと受け入れ同じ?何を言っているんだ?いろいろ差はあるが最大の欠点は2枚形ではなく3枚形ということや」が出たところ。ピンズに3枚も使っているため、何も考えずにを手に置くことができない。こんな重いピンズのリャンカン、いつまでも持っているくらいなから場合によっては全部切っていってもいいと思う。他に、もあるとは思うが僕の基本ではない。
 すぐにをカブり、心が揺れる。「メイチ」で行きたい局面やのに堀川・西尾のケアで次のツモ切りもできない。
 が、まだ道はあった。7巡目小川がをツモ切り。これはチーの一手。もう、「ラッキーでピンズが出来なきゃアガリはない」くらいの状況。
 だのにこれをチーせずに引いたのが、さらに次巡小川のツモ切りは。もうお笑い。

 
か、悪くとも
 
になってなあかん。
 挙げ句、小川はっきり雰囲気出た後に、「一旦退いたけどテンパイが入ったんでぶつけます、ドラもツモ切ります。ここでアガリ逃して小川にアガられたくないです」とかもう無茶苦茶。
 ピンズを外してメンゼンでいった場合の
なら、「リーチをかけてもいいと思っているテンパイ(しないけどね)」なので攻めて放銃しても悔いはないけど、これじゃあ、ブレーキの壊れた軽自動車。
 60オールを引かれたところでようやく我に返り、「1人で被らずにある意味ラッキーではあるが、もうこれで今回はほぼ小川のトップ、少なくとも僕はないな」と思ったね。

No.3【東1局その3】
 もう、配牌見た瞬間から不幸な事が起こる気しかしない。そこでまずから切り出し。異論はあると思うがこれは僕の今のスタイル。
 が、もう他三者との差を見せつけるかのように小川7巡目にゆうゆうタンヤオピンフのツモアガリ。


No.4【東1局その4】
 もう子方3人はゲンナリ。が、こうなるとラスにならないために必死にならざるを得ない。先行は堀川。2巡目のドラ切り、3巡目の切りが実に「らしい」。  そして同巡僕が遠い所からカンチーから対抗。うん、これも「らしい」でしょ?  そしてお互いに「貴方、安いでしょ?」と思いあっている「同テン全ツッパ合戦」。  最終ツモで8枚目に巡り合えたのはかなりツいた。


No.5【東2局】
 迎えた親番。
「30,000点くらいオヤでたたけばどうってことない、ここは稼ぐぜ」なんて思えなかった。
 が、配牌3枚のを見て「ん?終盤オり易いな。いけるとこまでいけってか?」と手なり前進を選択。すぐにイーシャンテンまで進み、「フフ、これはいけるかも」とか思ったところで手が進まなくなった。
 「では退くか」と思ったところでちょっと困った。堀川の手は「チートイツかなぁ」て感じ。西尾のが傍テン打牌である可能性と堀川がチートイツかつ待ちの可能性との比較もろもろでを3枚切っていくことにしたがそれでよかったのだろうか。


No.6【東3局】
 ここで急に軽い手。しかし4巡目が悩ましかった。こんな子方では高い手は別に要らない。でも、なんか小川が切りそうな感じで。チーテン取れるようにもうここでドラ切りたいなぁ、と。
 7巡目の引きは、引いての待ちが良さそうかな、と思ったのもあってさして迷わず。
 でも実際に引いた12巡目では、 「の方が圧倒的にいいよなぁ」と思った。まあ特に問題なし。


No.7【東4局】
 2巡目に引いた瞬間「狙いはスーアンコ」。しかし、次に牌がタテに来たのは10巡目の。「ドラ絡めたタンヤオもアリ」とも考えていたためにかなり不味い手牌に。一応皆の退却から「フリテンチーして拾えるアガリとかないか」と最後まで。まあ流局。切ってりゃタンヤオドラ1のツモアガリあったのかなぁ。


No.8【南1局】
 まあ、小川はあんまり連荘したくないはず。こちらはドラ周りがなんともならず、退き気味に。無事流局… と思ったのになぁ。


No.9【南2局】
 東場の親番同様、それほどアガりたいとも思っていない。なので早そうな堀川メインに子方を見ながらの打牌。6巡目のもそういう意識が良く出ている。案の定すぐにを打たれて「高い手には放銃しない」方針。しかし12巡目は間違えた。


  諦めの気持ちが強過ぎて、安易に「堀川の現物のドラ」切りとしてしまったわけだが、ここはツモ切りとすべきところ。無理する必要はなくとも「ギリギリまでアガリを狙う」が出来なくなっていた。もう自分からは絶対に筒子は打たないのだから切ってのイーシャンテンはイマイチ。16巡目ので40オール引けていた可能性が大。


No.10【南3局】
 テーマの薄い局。(西尾アガるなぁ)の念派を発するのみwで無事流局。


No.11【南4局】
 オヤのツモアガリでも堀川との差は25、十分次局チャンスはある。最悪はオヤの高い手に放銃すること。
 一番いいのは勿論親にアガらせないこと。ドラが重なったところで、「そのために僕がアガリに行く」と決意。いい具合に子方3人「完全連合軍」の形。
 一つしかけてツモの7巡目。西尾がオリるわけないこの局面、1巡差が大きくなるかも知れない。
  のうち、より危険と感じたから切ったがこれは微妙。
 「協力者」の小川が、 の両方切る時、から切りやすいように、から切った方がいいのではとRMUアスリートの菊地さんから指摘を受けた。
 西尾がジリジリ来ている感じを出し、プレッシャーから安全度から選んでしまったが確かに指摘の通りかもしれない。
 本譜では小川はを持っていなかったので結果は同じだった模様。
 ついに予想通り来た西尾のリーチに必死で勝負して、なんとか引き勝ちホッとした。


 第4節を終わって△1の6位。下を気にせねばならず、かつ優勝を諦めることもない位置となった。ここからどういう作戦にするか。それは次節開始時に僕のハートがどうなっているか次第と言えるだろう。


第35期順位戦A級 第3節 星取表 (8月22日/東京)

選手名
開始前
17回戦
18回戦
19回戦
20回戦
終了時
順位
愛澤 圭次
2昇
B 
B 
A 
A 
1昇
2
平井  淳
△1
B 
B 
B 
B 
±0
5
成岡 明彦
△1
A 
A 
A 
B 
△1
6
小川  隆
5昇
A 
B 
B 
B 
4昇
1
高島  努
△6
B 
A 
A 
B 
△3
7
西尾  剛
1昇
A 
B 
B 
A 
1昇
3
堀川 隆司
2昇
A 
A 
A 
A 
1昇
4
山田 史佳
△2
B 
A 
B 
B 
△3
8