
第36期順位戦A級 第3節
第3節観戦記:菊池 一隆(マージャン101東京支部)
昨年の鈴木さんの観戦記(第35期順位戦A級第2節)の言葉を借りるなら、「101とは相対評価の極み」である。素点の多寡に意味は無く、またトップとラスにしか意味を持たせないというシンプルなルールは、選手の動機を概ね「トップを狙う」「誰かにトップをとらせる/とらせない」「ラスを回避する」「誰かにラスを押し付ける/回避させる」に限定する。そこから逆算すると(一般的なマージャンに比べれば)遥かに他家の意図は読みやすく、それ故にそれを踏まえた自身の未来予想図をどれだけ正確に描けるか、それに向けた正解を選び続けることができるか、の勝負であるように筆者は感じる。
丁度折り返しに当たる第3節、開始前の順位は上から小川5昇・愛澤2昇・堀川2昇・西尾1昇・平井△1・成岡△1・山田△2・高島△6の順。各選手の紹介は前節の伊澤さんの観戦記(第36期順位戦A級第2節)に譲るとして、そろそろ今季の各自の未来予想図を踏まえた上での選択が出てくる頃であろう。対局の模様を東京支部の菊池一隆(ずったか)がお届けする。なお全8対局のうち筆者が観戦した4対局についてのみ記事を纏めている点、予めご了承頂きたい。また文中では筆者が観戦した位置を(筆者)として記している。
夏の終わりを感じさせる陽気となった8月22日、対局室でやや緊張しながら開始を待っていると、そこに最後に姿を現したのが成岡。自転車用のヘルメットを脱ぐや否やクーラーに手をかざして涼をとる。すると突然「(その恰好が)変な宗教みたいやな」とボソリ。対局室中が一瞬にして和やかな空気に変わる。おそらくそれは、101競技連盟のいつもの光景。
◆◆◆ 17回戦A卓 ◆◆◆
小川5昇・成岡△1・(筆者)・堀川2昇・西尾1昇
東1局その2(小川24→成岡・堀川・西尾)。小川が幸先よく6オールで先制した次局、その小川が5巡目に打




























受けた堀川に対して、向かっていったのが成岡。 小川がさらに






小川捨牌は、「












前巡の打






































小川の打


















東1局その3(小川264→成岡・堀川・西尾)。成岡1巡目、























東4局(小川252→成岡65→西尾10→堀川)。堀川8巡目、



























南1局(小川252→成岡65→西尾10→堀川)。堀川9巡目、

































今になって思う。堀川はトップをみていたのではないか。チートイツでラスぬけする可能性を減らしても、スーアンコの可能性をこの時点では消したくなかったのではないか。なぜなら、例え可能性は小さくてもトーナメントリーダーである小川のトップをまくることは1昇以上の価値があるのだから。あの日、打

堀川「打


南2局(小川207→堀川25→成岡65→西尾)。成岡の自戦記(第36期順位戦A級第3節成岡自戦記南2局)に詳しく記載されているため割愛。
それにしても(毎度のことではあるが)終盤で堀川と同じ




南4局(小川207→堀川25→成岡65→西尾)。こちらも成岡の自戦記(第36期順位戦A級第3節成岡自戦記南4局)を参照。7巡目の打

◆◆◆ 18回戦B卓 ◆◆◆
山小川6昇・西尾0・愛澤2昇・(筆者)・平井0









































一方、踏み絵を踏まされた平井は以下の形。 平井7巡目、



















































東2局。珍しい4人テンパイの図。

























































東4局(平井80→小川・西尾80→愛澤)。80というビハインドをどう捉えるか。愛澤7巡目、





































南2局その2(西尾108→平井80→小川108→愛澤)。西尾が40オールでぬけた次局。愛澤3巡目、






















南3局(西尾160→平井28→小川56→愛澤)。愛澤の懐深い戦いっぷりについラス目であることを忘れてしまいそうになるのだが未だラス目。そして最後の親番を向かえる。
愛澤の配牌が、






































◆◆◆ 19回戦A卓 ◆◆◆
愛澤2昇・堀川2昇・成岡△1・(筆者)・高島△5



後で牌譜を確認すると、 愛澤2巡目、
















東1局・東2局を流局で迎えた東3局。その愛澤が第1打に

成岡12巡目、



























高島の捨牌が、











愛澤の捨牌が、











堀川の捨牌が、











所謂メンツ手とチートイツの分岐点。チートイツの重要度が高い101において、ここでの決断力は生命線であろう。成岡の選択は両天秤の






















南1局、原点のまま南入。高島5巡目、



























どうしても気になって対局後高島に聞いてみた。
「もしすぐに

「・・・多分


今後高島がA級で揉まれ引き出しを増やさざるをえなくなった時、おそらく今のまっすぐな強さもろとも吹き飛ばされる時期が来るであろう、そんな未来を予見させた。
南2局(高島52→堀川・成岡52→愛澤)。高島が6巡目に




















直後






































堀川8巡目、































南4局(高島28→堀川24→成岡52→愛澤)。堀川がまっすぐ打ち進めた9巡目の



















◆◆◆ 20回戦A卓 ◆◆◆
山田△3・堀川1昇・(筆者東場)・西尾0・愛澤2昇・(筆者南場)



























西尾13巡目、
















東2局(西尾25→堀川・愛澤05→山田)。堀川の捨牌が、「






また、西尾5巡目、

































南1局(堀川138→西尾12→山田10→愛澤)。山田の配牌が、


















ほとんどのルールでこの




































南3局その1(堀川113→西尾50→山田77→愛澤)。堀川が5巡目に








西尾の





西尾が13巡目に、

















南4局(西尾53→堀川93→山田103→愛澤)。今回は愛澤がどのようにラスぬけをするのか、とつい注目してしまう。愛澤8巡目、



































終わってみれば△6だった高島が3つ星を戻した第3節。小川が未だ頭一つぬけた状態ではあるが、今後も上から下まで目が離せない展開が予想される。いや、少しでもそうなるように、高島や山田といった若武者が、臆せず、返り討ちに合うことを恐れず、101の既成概念をぶち壊す、という意気込みで自分が本心から信じるマージャンをぶつけてくれることを期待する。
第3節自戦記(17回戦A卓:成岡 明彦)
第3節を迎え、順位戦も中盤にさしかかった。ここらで名翔位取得と降級逃れとのどちらに比重をかけるか、よく考えねばならなくなってくる。勿論「この辺りではあまり深く考えずに打っておき、最終節の位置で考えればいいや」という考えもあるとは思う。が、僕はそれは少し損な思考な気がしている。
で、どうするか。通常は「タイトル獲得のチャンスなんてそうあるものではない、だから名翔位獲得に比重を置くのが当たり前」なのだが。
実は第2節が8戦中バー1回の大暴れ(第36期順位戦(2015年))。どうにもならずに△2となった第1節の成績を抱えたところから3連勝。4連勝目前で調子に乗ったらラス。そしてバー1回を間に入れた3ラスで元に戻る。最終戦にほうほうの体でトップをとって△1、となってこの第3節である。
正直、「4連勝を賭けたオーラスが勝負どころやと思っていた。そこで失敗してズルズル。もう無理しない方がいい気がする。ただ、諦めるわけではない。」といった感じ。あれ?中途半端で損な考え方やないの?(文中敬称略)
No.1【東1局その1】
なんだ小川の配牌は。ズルいぞ。そして2巡目テンパイ。4巡目にはドラを引いて待ち変え…してないぞ。あれ?よう覚えてへんな。これ、記録あっている?なんしか6巡目に6オールのツモアガリ。
No.2【東1局その2】
前局の彼我の差に「ここで止めなければまた『強い小川』にやられるぞ」てな嫌な予感しかしない。そしてここでこの半荘の大勢を決めてしまう「ハートの揺れ」が出てしまう。
タンヤオに向かって4巡目。
もう、ここでね、ピンズのリャンカンが重すぎる。
「リャンカンはリャンメンと受け入れ同じ?何を言っているんだ?いろいろ差はあるが最大の欠点は2枚形ではなく3枚形ということや」が出たところ。ピンズに3枚も使っているため、何も考えずにを手に置くことができない。こんな重いピンズのリャンカン、いつまでも持っているくらいな
から場合によっては全部切っていってもいいと思う。他に、
もあるとは思うが僕の基本ではない。
すぐにをカブり、心が揺れる。「メイチ」で行きたい局面やのに堀川・西尾の
ケアで次の
ツモ切りもできない。
が、まだ道はあった。7巡目小川がをツモ切り。これはチーの一手。もう、「ラッキーでピンズが出来なきゃアガリはない」くらいの状況。
だのにこれをチーせずに引いたのが、さらに次巡小川のツモ切りは
。もうお笑い。


























挙げ句、小川はっきり雰囲気出た後に、「一旦退いたけどテンパイが入ったんで

ピンズを外してメンゼンでいった場合の













60オールを引かれたところでようやく我に返り、「1人で被らずにある意味ラッキーではあるが、もうこれで今回はほぼ小川のトップ、少なくとも僕はないな」と思ったね。
No.3【東1局その3】
もう、配牌見た瞬間から不幸な事が起こる気しかしない。そこでまず

が、もう他三者との差を見せつけるかのように小川7巡目にゆうゆうタンヤオピンフのツモアガリ。
No.4【東1局その4】
もう子方3人はゲンナリ。が、こうなるとラスにならないために必死にならざるを得ない。先行は堀川。2巡目のドラ切り、3巡目の


No.5【東2局】
迎えた親番。
「30,000点くらいオヤでたたけばどうってことない、ここは稼ぐぜ」なんて思えなかった。
が、配牌3枚の

「では退くか」と思ったところでちょっと困った。堀川の手は「チートイツかなぁ」て感じ。西尾の



No.6【東3局】
ここで急に軽い手。しかし4巡目が悩ましかった。こんな子方では高い手は別に要らない。でも、なんか小川が

7巡目の







でも実際に



No.7【東4局】
2巡目に



No.8【南1局】
まあ、小川はあんまり連荘したくないはず。こちらはドラ周りがなんともならず、退き気味に。無事流局… と思ったのになぁ。
No.9【南2局】
東場の親番同様、それほどアガりたいとも思っていない。なので早そうな堀川メインに子方を見ながらの打牌。6巡目の



諦めの気持ちが強過ぎて、安易に「堀川の現物のドラ」切りとしてしまったわけだが、ここは



No.10【南3局】
テーマの薄い局。(西尾アガるなぁ)の念派を発するのみwで無事流局。
No.11【南4局】
オヤのツモアガリでも堀川との差は25、十分次局チャンスはある。最悪はオヤの高い手に放銃すること。
一番いいのは勿論親にアガらせないこと。ドラが重なったところで、「そのために僕がアガリに行く」と決意。いい具合に子方3人「完全連合軍」の形。
一つしかけてツモ




「協力者」の小川が、







西尾がジリジリ来ている感じを出し、プレッシャーから安全度から選んでしまったが確かに指摘の通りかもしれない。
本譜では小川は


ついに予想通り来た西尾のリーチに必死で勝負して、なんとか引き勝ちホッとした。
第4節を終わって△1の6位。下を気にせねばならず、かつ優勝を諦めることもない位置となった。ここからどういう作戦にするか。それは次節開始時に僕のハートがどうなっているか次第と言えるだろう。
第35期順位戦A級 第3節 星取表 (8月22日/東京)
選手名
|
開始前
|
17回戦
|
18回戦
|
19回戦
|
20回戦
|
終了時
|
順位
|
愛澤 圭次
|
2昇
|
B −
|
B −
|
A −
|
A ●
|
1昇
|
2
|
平井 淳
|
△1
|
B ◎
|
B −
|
B −
|
B −
|
±0
|
5
|
成岡 明彦
|
△1
|
A −
|
A −
|
A −
|
B −
|
△1
|
6
|
小川 隆
|
5昇
|
A ◎
|
B ●
|
B −
|
B ●
|
4昇
|
1
|
高島 努
|
△6
|
B −
|
A ◎
|
A ◎
|
B ◎
|
△3
|
7
|
西尾 剛
|
1昇
|
A ●
|
B ◎
|
B ●
|
A ◎
|
1昇
|
3
|
堀川 隆司
|
2昇
|
A −
|
A −
|
A ●
|
A −
|
1昇
|
4
|
山田 史佳
|
△2
|
B ●
|
A ●
|
B ◎
|
B −
|
△3
|
8
|