第38期八翔位決定戦
観戦記:山田 史佳(初日)/平井 淳(2・3日目)
2021年12月18日、八翔位決定戦の戦いの火蓋が切って落とされた。山内八翔位に挑むのは、奥田直裕・堀井統之・涌田悟の3名。ここで対局者に対して私が抱いているマージャンの印象を記しておこうと思う。
山内八翔位は、順位戦B級などで対局した経験が多く、かなりの守備よりの麻雀だという印象がある。その代わり前に出るときはしっかりと前に出てアガリに結び付けるというマージャンだと思っている。
奥田はマージャン101でよく対局することが多く、山内ほどではないが守備を重視していると感じている。
堀井も奥田と同じくマージャン101で対局することが多い。点差を緻密に計算し、東1局から南4局までゲームメイクを完璧に作り上げる強者である。
涌田とはほとんど対局経験がないが、名翔位を獲得したこともあり猛者であることは間違いない。
そんな4人がどんな対局を繰り広げるのだろうと思うが、初日の観戦記ということもあり、八翔位である山内に張り付いて観戦してみようと思った。
堀井・涌田・山内・奥田
少し意外だなと思ったのは、このがすでに河に2枚放たれているのに山内がドラを切りテンパイを取ったことである。
私の中の印象では受けに回ってドラを抱えてしまうのかな…と思っていたが、きっちりと前にでて涌田のドラトイツの手を潰したのは大きい。もしかして今年の山内は攻め寄りに進めて八翔位を連覇する勢いなのではないかなと、ふと思った。
そんな攻めっ気が裏目に出てしまったのが南2局【牌譜2】。
をポンしてを切っていくのだろうと見ていたが、山内の選択は打。これは山内もにすべきだったと後悔していた。しかしを逃した時の損失が大きいのも分かるので、マージャンは難しいなと感じた。
その後は涌田に火がついてしまったのか連荘の次局にマンガンをツモアガリで一気に点差をつけ、そのままトップでゴールイン。山内は南3局のオヤカブリが響きラスとなってしまった。
滑り出しが良かっただけに残念だと思っていたが、山内はこの嫌なラスの引き方を払拭して次の対局に臨むことができるのか気になっていた。
山内△1・涌田1昇・堀井0・奥田0
東1局から山内は積極的に仕掛けを入れていく【牌譜3】。
オヤということももちろんあると思うが、従来はこの牌姿から鳴いていくイメージがなかったので、やはり連覇に向けて攻めの姿勢を保とうという山内の意思があったのではないかと思いながら観戦していた。
山内は東3局まですべてテンパイを入れるのだが、そのどれもが空振りに終わってしまい悲しい立ち上がり。前に出て攻めようという気持ちとアガリまで噛み合わない牌の来方に観戦している身ながらも葛藤を覚えた。
結末は、奥田が東4局【牌譜4】に涌田の供託リーチ棒もかっさらった26オールが決め手になりトップ。
注目していた山内はというと、振り込むことは一切なかったが、涌田の追い上げがすごかった。
東4局でリーチ棒を失い、南1・3局では堀井に64と30を打ち上げてしまったにも関わらず、南3局その2で13・26、さらには南4局に堀井から32とラスを山内に押し付けた。
観戦していて、ラス目からこんなに連続してアガリをものにできるのはすごいなと感じて見ていた。ラスがどんどん迫ってくる山内は内心穏やかではなかったであろう。
涌田1昇・奥田1昇・山内△2・堀井0
このオヤカブリでせっかく貯めた貯金を一気に吐き出されてしまった山内。さらなる不運は南4局【牌譜7】。
こんな配牌では当然前に出ることはなく、早々に店じまいするのが吉であるが、堀井のあまりにも早い30に捕まってしまう。前に出る時は出て、撤退すべき時に撤退しているのであるが、まるでそれをあざ笑うかのように失点に回ってしまうとても悔しい展開となってしまった。
奥田2昇・山内△3・堀井0・涌田1昇
テンパイしていたとはいえ、この振り込みは4連敗という終末に一歩近づいてしまったなと後ろで見ていて感じた。が、その後山内に急な転機が訪れる【牌譜9】。力強く高目を引き寄せての30・60。このアガリで山内は息を吹き返し、トップ目に躍り出た。その後は持ち前の守備力を活かしてこのトップ目を譲らず、さらには堀井・涌田と協力し2昇持ちの奥田をラスに押し込めて3昇になるのを防いだ。山内はこのトップで一息つけたのではないだろうか。
八翔位戦初日を観戦していて感じたのが、マージャンは最善を尽くしていてもなお負けることがあるのだなということであった。
このあと山内がどのように八翔位防衛に向けて戦うのか楽しみである。
涌田1昇・山内△2・堀井0・奥田1昇
これが7巡目に涌田、11巡目に堀井に追いつかれる。結果は山内が18巡目にドラを引いて流局した。次局も山内はドラなしチートイツを13巡目にテンパイし18巡目にドラを引く。そんな山内のテンパイが実ったのは東3局である【牌譜10】。
3・4巡目に仕掛けその後手出しを2巡入れたオヤ・堀井に対し、涌田はこの手からを切る。
これが前巡を重ねた山内にテンパイとアガリをもたらした(山内12←涌田)。
ようやく手にした12のリードだが、涌田は南1局のオヤ番でアッサリと捲る【牌譜11】。
只々手なりに打てば誰もが手にする20オールである。マチ選択をしくじってもアガリが向こうからやってくる。
今期の八翔位戦を象徴するかのような進行である。単に涌田がツイていたというのではない。東3局に堀井にを鳴かれた奥田もしかり。
決しておかしな選択ではないが、こんな打牌が自らを苦しくする。一方の涌田は自らの力で状況を切り開く。押せるところは押し、引くべきところは引いている。
その奥田はこの後28,000点で3人並んだ南3局(ドラ)にから切り出し4巡手出しを入れたオヤ・堀井にリャンシャンテンからピンフドラ1を献上しラスを引かされた。
涌田2昇・堀井0・奥田0・山内△2
2昇とリードした涌田が、東2局で原点リーチを打つも流局。すると、堀井がその涌田から30(東2局その1)、16(東3局)とアガった後の東4局である。
山内の暴牌はさておき、奥田の4巡目、
責められるべきでないこの切りがこの結果を生んだ。そして涌田の12巡目、
その後奥田が山内から60を加点し三者が僅差で迎えた南4局【牌譜13】。
山内渾身の仕事は堀井への放銃で、今度は堀井と奥田の胸をなでおろす音を聞いた気がした。
山内△3・堀井1昇・奥田0・涌田2昇
ドラ引きなら高め安め無しの40だがの20は許せなかっただろうか。ただしヤマにロン牌はなく流局する。
次局卓上に転がっているリーチ棒を視野に入れた涌田に手なりで7巡目にテンパイが入る。
時間はかかったが13巡目にで仕上げた(20・40)。
あとは涌田の一人旅(10・20、20・40)で、焦点はラス逃れ争いである【牌譜14】。
奥田の苦悩が聞こえてくる。3巡目にを切っていれば・・・最初のテンパイをシャンポンマチにすれば・・・そしてなんぞを止めなければ・・・。否、を堀井が切ってきた以上このドラは切らなければならないし、切れる牌である。まあ、卓外からは涌田の今一度の咆哮を聞かなくて安堵したのだが。
奥田△1・涌田3昇・山内△3・堀井1昇
涌田が1・2巡目に切っていたが再び涌田の手に戻ってきた。堀井のポンが入るが役ありになるが放たれればテンパイも取るだろうしこのもツモ切りしたくなる。涌田もショックだろうが奥田のショックも大きい。5巡目にして、
ここに打ち出されるのがアガれないとである。堀井のをポンしていればアガリの可能性もあるようだが声は出まい。
上位陣が2昇並びで10回戦に近づくのは下位陣にとってつらい。そのため次局7巡目にテンパイの入ったオヤ・山内は躊躇なくリーチとした。
これに対し、タンヤオドラ2イーシャンテンの涌田は山内のアガリは上等と真っ直ぐに手を進めで放銃した(120)。 その2は、奥田が5巡目にイーペーコー出来合いのピンフをヤミテンとして堀井からアガる(20)。涌田との200差がまだ怖いのだろうか。
奥田16←涌田、堀井20←涌田を挟んだ南3局に堀井に大物手が入る。8巡目、
見えているは涌田が切っている1枚のみで下は気にしなくてよいトップ目まで40差の2着目である。堀井はこれをヤミにし奥田からでアガった(80)。これで40差のトップ目である。この時は堀井らしいと思った。ところが堀井は次局リーチ棒を投げる【牌譜16】。
7巡目の4枚目のツモは想定外であったろうが選択が悩ましい。 堀井の選択はテンパイ取らずの打。サンショク目を残し次巡のツモで思惑を叶えたがヤミとはせずリーチを宣言したのだ。山内の条件が7・14から4・8に緩和された。さらに言えば堀井からすれば山内との同点トップは何ら痛痒としないのだからこれには驚いた。30のアガリではリードが足りないと考えたそうだ。それなら前局はリーチでよかったのではないか。
ところがもっと驚いたのは山内の9巡目、
ここで放たれた堀井のをスルーするのである。それで引くのがだがポンテンと条件が変わるのはツモのときのみである。ポンすればを引いてしまうと思ったのかは聞き逃したが、結果は牌譜の通り(5・10+供託10)。涌田を3昇から引きずり下ろしたのだが、ダンラス涌田の思惑(山内トップ)通りの結果となったようだ。
堀井1昇・山内△2・涌田2昇・奥田△1
その堀井に次局11巡目にテンパイが入る。
ピンズの下はとが1枚づつ切られているだけで堀井の選択はヤミテンである。
ツモでもラス抜けできるがツモならリーチをかければ頭まで抜けられる。それがわかっていても堀井のスタイルはヤミなのだろう。それだけに8回戦のオーラスが訝れるのだが。結果は14巡目でのツモで感触がいいのか悪いのか端からはわからない。ただ山内は助かったと思ったであろう。
涌田の10オール(東3局)、山内の12←奥田(東4局)と進んだ南1局(山内16→涌田04→堀井48→奥田)。11巡目の奥田にテンパイが入る。
勿論リーチとしたが流局する。その奥田に次局6巡目もテンパイが入る。
奥田はを縦に置き一度はヤミとするも、次巡の摸牌を横に置いた。
その2巡後のツモはで12巡目にをツモった(7・14)。68差の山内がオヤであっただけにあと2巡の我慢が惜しまれる。
首の皮1枚でトップ目に残った山内が、次局アンコドラ2の手を涌田から出アガり、南4局はラス目に落ちた涌田のドラ雀頭のピンフリーチを受ける。
山内まで89差なのでツモればごぼう抜きでトップである。
だが、先に山内はピンフのテンパイを入れており、
涌田のリーチ後最初のツモ牌を捉えた。
山内連勝、涌田連敗で迎える10回戦では誰も決着権を持たず、延長が決まった。
奥田△1・涌田1昇・山内△1・堀井1昇
次巡をツモると手順でを選んだ。
これを山内にポンされ加カンされた上にドラで仕上げられた(26オール)。
次局、山内は8巡目にリン牌で加点する(20オール)。
奥田のドラ3リーチの空振りを挟んだ南3局5巡目にラス目涌田にテンパイが入る(山内162→奥田22→堀井32→涌田 供託10)。
これを涌田は一旦はヤミとするも次巡ので空切りリーチとし一発でを引き寄せた。(20・40+供託10)。仮にヤミで押していると奥田がをツモ切っていた可能性が高く、涌田はどうしたのだろうか。多分見逃して13・26でラス抜けしたのだろう。
これで山内・涌田は86差となる。南4局は牌譜でお楽しみください【牌譜18】。涌田のヤマにがあれば、あるいは奥田から放たれたがなら涌田の大まくりが決まっていたのだが。
奥田△1・涌田1昇・山内0・堀井0
ドラ3の奥田はソウズのメンツを捕まえてもテンパイ止まりである。一方堀井は高目はないがはヤマに2枚である。アガった時点で、涌田のロン牌であるは、まだ2枚ヤマにいた。仮に堀井が降りていたならどうなっていたのだろうか(80)。
八翔位決定戦は80くらいでは決まらない。もう一発涌田は決めなければならない。
そのためなのか次局涌田は3巡目にを切った【牌譜20】。
ここでを雀頭に決めてをほぐすと只のピンフツモになっていた可能性が高い。サンショクにこだわる手順もあるがかなり窮屈である。それならを落として手を広くしたほうが良いと考えたのであろう。
このアガリを阻止できたのは奥田であるが、4巡目のツモ切りを局後悔やんでいた。これを捉えていたら、或いはマチをにしていれば・・・。兎に角涌田が八翔位に大きく前進した。
次局の山内32+供託10←奥田を挟んだ東3局【牌譜21】。
奥田のツモが凄いのだがチンイチには渡りにくい形である。そのためここはポンの打の選択はなかったのだろうか。そのうえで涌田を狙い撃ちするしかないだろう。涌田からの28で場を進めるのは涌田を利するだけだろう。
その奥田は山内のリーチにで52を振込みオヤ番を迎える【牌譜22】。
後から振り返れば連合軍最後のチャンスであったようだ。しかし堀井には差し込む意思はなかった。涌田・山内の136や涌田・堀井の292がまだ手の届く距離に思えたのだ。
しかしこの後は山内52←奥田、涌田7・14で南4局を迎えてしまう。この段階で涌田・堀井は327差である。マージャンは何が起こるかわからないが、涌田には余裕があった。堀井は苦しい中でも連荘を果たす(24←山内差し込み、26オール、24←奥田差し込み)が、最終局となったその4でテンパイしたのが最終手番ではどうしようもなかった【牌譜23】。
涌田、おめでとう。
第38期八翔位決定戦 成績表
12月18・19日 1月15・16日/東京(16日はスリアロチャンネルによる配信放映)
選手名 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
結果 | |
山内 啓介 | 八翔位 | ● | ● | ● | ◎ | − | ● | − | ◎ | ◎ | ◎ | − | ±0 |
堀井 統之 | 前八 | − | − | − | − | − | ◎ | − | − | − | ● | − | ±0 |
奥田 直裕 | 東京 | − | ◎ | ◎ | ● | ● | − | ● | − | − | − | ● | △2 |
涌田 悟 | 大阪 | ◎ | − | − | − | ◎ | − | ◎ | ● | ● | − | ◎ | 2昇 |
第38期八翔位戦 システム
【出場資格】
・麻将連合推薦、オープン参加選手及び連盟所属選手
・ オープン参加選手は、昨年度のマージャン101における打荘数が24ある者から各支部内で選抜。
・「天鳳予選」優勝者(「オンラインマージャン『天鳳』」にて開催)
【1次予選】
・各卓4戦(1日)を戦う。
・規定回終了時のスコア上位2名を勝ち上がりとする。
・4回戦終了時に上位2名が確定しない場合は、これが確定するまで延長戦を実施する。
【2次予選】
・2次予選シードの連盟所属選手及び1次予選通過者により行う。
・各卓6戦(2日)を戦う。
・規定回終了時のスコア上位2名を勝ち上がりとする。
・6回戦終了時に上位2名が確定しない場合は、これが確定するまで延長戦を実施する。
【準決勝】
・2次予選通過者により行う。
・各卓6戦(2日)を戦う。
・6回戦終了時に単独で2昇以上の首位者が決定戦の出場資格を得る。
・6回戦終了時に単独で2昇以上の首位者が発生しなかった場合は延長戦を実施し、7回戦以降はその回の開始時の首位者のスコア+1昇に単独で到達する者が発生するまで延長戦を実施する。
・「初めて、4者同スコアで決着権がある状態」となった場合は、その一戦の終了時の単独首位では決着としない。
ただし「再度、4者同スコアの状態」となった場合は、同戦終了時の単独首位で決着とする。
【決定戦】
・八翔位及び準決勝通過者により行う。
・10戦(1日4戦)を戦う。
・10回戦終了時に単独で3昇以上の首位者を優勝とする。
・10回戦終了時に単独で3昇以上の首位者が発生しなかった場合は延長戦を実施し、11回戦以降はその回の開始時の首位者のスコア+1昇に単独で到達する者が発生するまで延長戦を実施する。
・「初めて、4者同スコアで決着権がある状態」となった場合は、その一戦の終了時の単独首位では決着としない。
ただし「再度、4者同スコアの状態」となった場合は、同戦終了時の単独首位で決着とする。