第35期順位戦A級 最終節

 観戦記 | 愛澤圭次名翔位自戦記 |  インタビュー |成績表

最終節観戦記:佐藤 文彦(初日)・山本 裕司(2日目)

 最終節の初日ということもあり、名翔位争いは2日目の観戦記に任せることとし、今回は田中現名翔位の降級抜けに焦点を合わせようと思っていた。

 当日対局室に行くと、程よい緊張感に包まれている。その中で成岡が、
「今日は確変引いたるで〜」
と気合のりが良い。ただ前述の通り、田中名翔位に焦点を当てたいので、
「成岡さん、ごめん。」
と心の中で思いつつ観戦することとなる。


◆◆◆ 29回戦B卓 ◆◆◆

〈田中△4・愛澤5昇・村田△5・西尾1昇〉

 田中の当面の目標は4昇差の高島とはいえ、西尾も視野には入っているはず。どのように卓を進めていくのだろうと思っていた。
 緊張感は愛澤と田中からかなり感じられる。村田は気負わないようにしているようだ。西尾は普段通りを心掛けているもよう。

 東1局、西尾が好配牌から、時間はかかったものの12巡目にテンパイをはたす。気配を感じたのか、田中は14巡目にその西尾がを切ると、すかさずポン。手バラであったがしっかりと西尾をおろし流局に持ち込む。

 東2局、愛澤が緊張しているのが見て取れる。心なしか、手も震えているように見える。緊張がなせる業なのだろうが、遠くから見ていて大きな手のテンパイが入っているのかと思えるような雰囲気だ。
 その愛澤が10巡目に78のテンパイを入れる。一手変わりでツモればハネマンとなるペンマチ。他者3人がこのテンパイに気づいたかどうかはともかく、次巡、田中が7・14のツモ。「ふーっ」と一つ息をついた。
 東3局【牌譜1】、ソウズのヤマを引き当てた西尾が手を順調に進めるのだが、
 なぜかここから切り。早めにやめたのかと思ったのだが、と引いて次の形。
 次巡をひいてツモ切りし、田中に鳴かれる。下家の田中に鳴かれないようにテンパイを目指すのだが、結果は田中にドラを引かれて20・40。田中のマンガンツモの原因となってしまったが、この切り、私にはどうにも解せなかった。

 続く東4局、南1局と流局し、南2局【牌譜2】、ここまで手が入らなかった村田に、やっと手が入る。配牌は、
と、サンショクが見えアガれそうに見える、この半荘初めての手であったと思える。後ろから見ていて、村田にも気合が入っているようだ。ツモもそれなりに良いのだが、
このイーシャンテンを取ってからが苦しい。
 5巡目にオヤの愛澤にポンが入ったところで、をツモるとドラを切る。広いイーシャンテンにするのだが、この後ピリッとした牌を引けない。愛澤が3枚切れのを切った次巡、手出しのが入る。明らかにテンパイと村田も思っているのだが、をツモ切ると愛澤から「ロン」の声。申告は「3000」。サンショクのほうで打ってしまったのだが、村田は18放銃のつもりで打っている。私も「3000」と言われて、卓を覗き込んだ。たかだか12の差ではあるが、これが村田には堪えたようだ。落胆の色がはた目からも見えてしまった。

 南2局その2は気をよくした愛澤はあまり前に行かないものの、他3者は手を作りに行くものの手が入らず流局。

 南3局は田中にマンガン手が入るものの、オヤの村田は手が入らず、結局オリに回るしかない。こうなると、愛澤も西尾も田中の相手をしてくれず、この局も流局。田中は、西尾への直撃チャンスがここしかなさそうであったが、展開上仕方なしであった。

 南4局は、村田が西尾との50の差をまくりに行きたいが、どうにも手にならず、トイメンの田中も全くアシストできず、村田はテンパイさえ組めず流局となる。
(◎田中/●村田)



◆◆◆ 29回戦A卓 ◆◆◆

〈高島±0・成岡2昇・小川2昇・平井2昇〉

 B卓の方が進行が速く、外に出た西尾・村田に取材していると、田中が対局室から嫌な顔をして出てきた。理由を聞くと、南4局その1で高島が平井に120を放銃し、平井のアガリ点の申告の時に採譜者に目を合わせられたらしい。にやにやっとされて、いたたまれなくなって対局室を出てきたとのこと。南3局終了時の点差は次の通り。
「小川80→高島77→成岡96→平井」
 成岡は小川マンガン直撃を狙ってリーチを放っており、そのリーチを見た平井がツモ切りリーチ。手詰まりをした高島が、平井に一発で放銃してしまったようだ。点差が
「小川113→平井54→成岡33→高島」
 平井がラスからトップまで、一気に見える位置にこぎつけたが、その2は手が入ったものの、高島がピンフドラ1をリーチしてあっさりツモりラス抜けを果たす。成岡にとってはたまらないラスを引かされてしまった。
(◎小川/●成岡)



◆◆◆ 30回戦A卓 ◆◆◆

〈高島0・愛澤5昇・田中△3・成岡1昇〉

 田中が降級ポジションから抜けるための当面の敵である高島と同卓。差は3。残りは6回戦ということもあり、できれば差を2つ、最低でも1つは詰めたいところである。

 東1局を流局で迎えた東2局、高島のポンの後、すべてツモ切りであるのを見た田中がドラを1つ抱えた役無しドラ表示牌の絡んだリャンメンマチのリーチを打つ。次巡、が変わるツモが来るのだが、一刻の猶予もないと見たのだろう。このラス落ちリーチは功を奏し、さらに2巡後に10・20をツモリあがる。

 東3局流局の後の東4局【牌譜3】、名翔位争いの先頭を軽快に走る愛澤に軽い手が入る。この日は緊張感からか、1回戦から固さが残る摸打を繰り返していた愛澤だが、この局は気持ちが軽くなったのではないか? 配牌こそ、
とそれほど良くはなかったが、ツモが効き、6巡目には、
のイーシャンテンとなる。次巡のツモに少考を入れツモ切りしたが、ここはツモ切り・空切りに関わらずノータイムで切った方が良かったと思う。ワンズが河に相当バラ切りされているが、この少考によってが手牌に関連すると推測されてしまうからだ。
次巡、ネックのを引くと「巷のリーチマージャン店」であればリーチしてもすぐに出そうな待ちとなり、成岡も納得の20放銃となる。
 一旦ラス目に落ちた成岡だが、次局、ツモ牌相を見事に捉え7・14。南2局・南3局は高島ががむしゃらにテンパイに向かい。ピンフ・チンイチとそれぞれテンパイをいれるが周りが相手をせず、流局が続く。

 そして南4局【牌譜4】を迎える。ここまで、「田中35→成岡05→愛澤17→高島」という並び。田中は心の中でホクホクしていただろうが、高島としては最悪の展開となっている。田中としては昇差3を1にする絶好のチャンス。何が何でもトップラスを決めたいところ。高島は最悪のトップラスだけは決められないように打つことが頭にあったであろう。ここでもらった高島の配牌は、
 何とかラスだけでも抜けられればという気持と思われる。ところが、成岡の第1打をなんと愛澤がポン。そしてワンズ以外のホンイチ模様の捨て牌をしてゆく。これを見た高島は、自身のラス抜けよりも田中のトップを阻止することを考える。
 愛澤の手牌に進行が見られないと思ったのであろうか、9巡目超危険牌のをツモると、小考。硬い表情で、意を決してツモ切りする。すると、愛澤がびっくりしたような感じでポン。この時、田中は時折見られる眉間にしわを寄せた苦悶の表情。成岡は苦虫をつぶしていたであろう。愛澤から捨てられた牌はドラの。明らかにテンパイだ。振り込むことができない田中は、現物の。これをオヤの成岡がチーしてテンパイを取る。次巡、成岡が掴んだ牌は。成岡が気持ちを込めて叩きつけるように切ったその牌は、無情にも愛澤のロン牌であった。
 成岡がなぜこのを切ったのかははっきり言って理解できない。しかし、この前の半荘でも、当人としては納得いかないラスを押し付けられたフラストレーションが溜まっていたのではないかと推測される。101という半荘単位の勝負なので、あとで取材したときは当人は当然切る牌だとは言っていたが、前半荘が影響したとしか私には思えなかった。
 を鳴かせた高島としては、自分が書いた絵が、ここまで見事にはまるとは思っていなかったであろう。愛澤がトップを取り田中がトップから滑り落ちたのだ。また、自分のラスも回避されることとなった。高島は、最後は愛澤に放銃することまで考えていただろう。最悪の昇差2詰まるところが、1ですめば御の字と思っていたはずである。そのうえで、場況を見つめ、愛澤が前に出れば田中はそうやすやすとは前に出ることができない、さらにオヤの成岡が前に出ていることを確認したうえで、自身がA級残留するために最高の仕事をしたと思える。
 一方、このアシストが愛澤の名翔位争い一人旅を推し進めたことも間違いない。私はこのようなリーグ戦に出場したことがない。リーグ戦に参加したことのあるプロの方々はこのアシストをどう思うのだろうか? 高島は自分のA級残留のために、愛澤をかなり有利な立場に置いた。そういう打牌をした。いろいろな意見を聞いてみたいものである。

 ともあれ、私の観戦ノートには、
「高島、降級免れる!!」
という文字と
「愛澤、名翔位決定!?」
の2行が書き記されていた。
(◎愛澤/●成岡)



◆◆◆ 31回戦A卓 ◆◆◆

〈小川2昇・村田△6・高島0・田中△3〉

 高島との昇差を1に縮められるチャンスを逃した田中は、さすがにショックかと思われるが、まだ残りが5半荘ある。一つずつでも差を縮めたいところではある。その田中が東1局は7巡目にピンフドラ1をあっさりと小川からアガる。まだいける、という気持ちが瞳からあふれ出ているようにも見える。東2局は逃げる高島がイーペイコードラ2をテンパるも無念の流局。東3局の流局をはさみ、東4局、今度は田中が小川にリーチピンフドラ1を放銃。東場を終える。

 南1局【牌譜5】は、高島が動く。ここまでの高島の気迫がすごい。テンパっていようがいまいが、すべて前に出てきているようで他者にうかつな打牌を許さない。その高島が4巡目の田中のを叩いた。次の手牌からだ。
ポンのあと8巡ほどツモ切りが続くのだが、このポンにより、田中の手牌が殺されてしまった。それだけでも大きな意味のある鳴きであったのだが、チンイチをツモリあがり、さらに優位に立つこととなった。

 手をこまぬいていられない田中は、次局イーペイコードラ2をひいて食い下がる。のだが、続く南3局その1はオヤの高島が一鳴きテンパイをいれ即ツモ。タンヤオサンショクの10オールでさらに引き離す。2人の意地の張り合いに、小川・村田のベテラン勢はなすすべがない。

 田中は70の差を覆すべくその後も手を作りに行くのだが、残り2局も流局に終わり高島との差がさらに開いてしまった。
(◎高島/●村田)



◆◆◆ 31回戦B卓 ◆◆◆

〈成岡0・西尾2昇・平井2昇・愛澤6昇〉

 A卓で観戦していると、やけに愛澤の声が聞こえてくる。やはり先ほどのトップで追い風が吹いているようだ。

 東1局の20・40を皮切りに東2局は16を成岡から。東3局流局後、東4局は成岡が西尾から40。南1局・南2局流局後、成岡が平井から12の出アガリ。南4局は愛澤の5・10のアガリとなり、3者に影を踏まさぬ安定のトップをものにした。
(◎愛澤/●西尾)



◆◆◆ 32回戦A卓 ◆◆◆

〈田中△3・高島1昇・平井2昇・西尾1昇〉

 田中はターゲットとなる2人が同卓。自身のトップはもちろん、どちらかは確実にラスにして2昇差を詰めないと、かなり厳しい状況ではないか。

 しかし、ここにはまだ名翔位をあきらめていない男がいた。平井である。東1局流局後、平井の独壇場となる。東2局に西尾から16を打ち取ると、東3局のオヤ番は連荘が続く。その1は誰が打っても30になるアガリを田中からアガる。田中もテンパイからの放銃である。その2はヤバい雰囲気を感じたのか、西尾がを7巡目にポン、ドラ切りでテンパイをとる。しかし平井はそんなことにはお構いないといった風情で次巡ドラを重ねてテンパイし、さらに次巡ツモって40オール。その3も西尾から42を、体格の差がマージャン力の差だともいわんばかりにもぎ取る。

 田中は30放銃後は、何とかイーシャンテンまではいくものの、手牌の進行がそこまで。オヤ番で平井との278差を逆転する足掛かりを作るべく、タンピンイーペイコーをテンパイするが無情の流局。ここで田中の目から逆転への気持ちが消えてしまったように見えた。ここから先は、高島・西尾のいずれかにラスを引いてもらうしかないと、気持ちを切り替えたようだ。

 南4局はオヤの西尾がラス抜けリーチを打つが、次巡平井に20の放銃。この半荘は4回のアガリが出たが、すべて平井のそれで、名翔位争いにギリギリ踏みとどまった平井であった。

(◎平井/●西尾)

※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※

 この日は最終節33〜35回戦が行われる。
 昨年と違い今年は縦長の成績になっており、下手をすると33回戦で上も下も決まってしまうかも、と言うような状況である。もしそうなったら観戦記はどうしよう…33回戦でおしまい!?とか考えていた。
 33回戦が始まる前の成績は起家から
A卓:高島1昇、西尾±0、村田△8、平井3昇
B卓:小川2昇、愛澤7昇、田中△3、成岡1昇

 残りは3回戦なので名翔位は愛澤がトップを取れば決まり。バーでも平井・小川がトップを取れなければ決まる。
 残留争いは、村田の降級が決まっており、もう1人は田中がラスを引き、西尾がトップになり、高島・成岡がラスにならなければこちらも決まってしまう。

◆◆◆ 33回戦B卓 ◆◆◆

〈小川2昇・愛澤7昇・田中△3・成岡1昇〉

 東1局、愛澤9巡目、
 ここはを絞ってを打つも次巡のツモは。今度はイッツーの目もあるので残し切りでもよさそうであるが、が既に3枚切られていることもあり、のツモ切り。これが成岡へのロン牌だった。私ならまだ始まったばかりの東1局ということもあり、を切りそうな感じではあるが、101のルールなら切りの方がいいのかもしれない難しい場面ではあった(愛澤→成岡16)。

 東2局が流れての東3局【牌譜6】、愛澤5巡目にテンパイ。
 7巡目にツモ切り。9巡目にをツモるがこれはムリだろう。そうこうしているうちに田中が追いつく。11巡目に待望のドラをツモりテンパイ。
 ワンズの上が良さそうなのでマチにしたのだが、無情にも次のツモが!14巡目に愛澤がをツモり3・6。はヤマに2枚残っていたが、顔を出すことはなかった。愛澤としてはわずか200点差とはいえラス抜けをし、ホッとしたことだろう。
 ちなみに愛澤の手牌、
ここになら切りしかないが、をツモったらどうするのだろう。どうせは出ないと思いを切りフリテンに受ける形もありそうだ。

 東4局成岡が3巡目に役なしとはいえテンパイ、
 この後の手順がいい。4巡目にをツモり打としテンパイを外す。この後はとツモりテンパイ復活。
 他家から見ると成岡の捨て牌はとカンチャンを落とし、のトイツ落としまでしている。こうなるとテンパイの可能性が高い。このオヤの捨て牌に対し7巡目の愛澤、
 ここからとリャンメンを落としている。オヤにまだテンパイが入ってないと思っているのかもしれないが、やはりここは安全にのトイツ落としをし、1回様子見でよさそうな感じではある。
 9巡目に成岡はを入れかえたあと10巡目にドラのをツモ切り。愛澤ものシャンポンマチでテンパイするが、2人のロン牌のは小川と田中に流れ流局となった。

 南1局8巡目の小川、
が既に3枚切られていたこともあり、ここはテンパイに取る。次巡にが出るとこれをポンしタンキ。これをツモり6オール。これで微差とはいえトップ目に立った。

 南1局その2も流れ現在の点差は小川08→成岡17→愛澤02→田中。南2局は愛澤、田中とも大物手が入るがアガれず流局。南3局も流局し遂に南4局となった。
 南4局【牌譜7】が始まる前にA卓が先に終わった。A卓から聞こえてくるのはトップが村田、ラスが西尾。さて、A卓が先に終わったことによりB卓に影響が出るのかどうか…
 愛澤の配牌、
 第1ツモは、田中にはアガらせずにラスさえ引かなければOKと言う感じで第1打、2巡目にはツモで打としている。このに田中の仕掛けが入る。
 ここからチーし打とする。A卓で西尾がラスになったので田中としては是が非でもトップを取りたいところ。かなり遠い仕掛けではあるが、取りあえず急所なので鳴いておこう、と言ったところか。
 このチーにより愛澤にが重なりチートイツのイーシャンテン。チートイツならツモか小川からの直撃で名翔位決定となる。しかしここからなかなかテンパイしない。その間に成岡が追いついた。
 成岡が5巡目にイーシャンテン。
これが8巡目にツモ。役無しとはいえ、テンパイとなった。
 この捨て牌のにこの形から田中がポン。
 
 このポンを見て3者は回り始める。成岡はツモのアンコ切り。小川はツモのトイツ落とし。愛澤ものトイツ落としと、ラスの田中には振らないような構えを見せる。こうなると田中がアガるにしろ、アガれないにしろ、この半荘では名翔位は決まらないかな…と思った瞬間、事件が起きた。小川がノータイムでツモ切りしたに田中の「ロン4000」の声が掛かったのだった。確かに小川の手牌に安全牌はない。しかしノータイムでツモ切り出来るような牌でもない。何を捨てればいいかというと、相当悩みそうな牌姿だ。小川としてもこのまま終わってしまうと残り2半荘連続でのトップラスしか名翔位への道はない。これではかなり厳しいので、やはりアガりを見てしまったのだろう。
 私なら何を捨てるだろうと考えると、放銃してもこの牌ならカン待ちの20だと思ってを打つくらいしか思い浮かばない。20なら田中がトップ、愛澤がラスとなり僅かながら名翔位の可能性が残る。しかしこれでは仮に通ったとしてもベタオリになり、やはり2半荘連続でのトップラスしか道はなく、小川はこれを良しとせず選ばなかった。
 終わった瞬間、名翔位となった愛澤も「あれ?決まったのか…」と、いう様な感じだった。
(◎田中/●小川)



◆◆◆ 34回戦B卓 ◆◆◆

〈西尾△1・小川1昇・平井3昇・田中△2〉

 33回戦で名翔位が決定したので、この34回戦の見どころは残留争いとなった。A卓の成岡・高島も1昇でまだ降級の可能性が残っているとはいえ、実質の争いではこのB卓の田中△2、西尾△1の二人に絞られたと思っている。

 東1局が流れ、東2局は平井のツモ・ドラ4の20・40。

 東3局【牌譜8】西尾の配牌、
 役牌のがアンコ、第1ツモがとなり、勝負手になりそうな感じがする。そのあとのツモがときて、6巡目のツモ
 ここまでワンズが伸びてきているので、私ならここは様子見でを捨てたいところ。しかし西尾の打牌は。ペンチャンを払うにしてもツモを考えるとからの方がいいのではないか。この後のツモがときてのシャンポンでテンパイ。しかし次巡のツモが。ホンイチにしていたら…と思うのは私だけなのだろうか。
 これに小川が14巡目に追いつきテンパイ、
これをツモって10・20。

 東4局は西尾が小川に80の放銃となって西尾にとっては辛い時間が続く。

 南1局平井4巡目、
 のどちらかを落とすか微妙なところだがここはを選択。7巡目にツモでテンパイ。このテンパイ打牌のを田中がチーをしてこちらもの先付でテンパイ、
 
 田中としては残留争い相手の西尾のオヤ番をさっさと流したいところ。しかし次巡のツモが。平井のツモ牌を食い取るも自分のアガれない牌。もション牌であることから仕方なくピンズを落としていく。終盤にオヤの西尾がテンパイを入れるも平井がツモり20・40。

 南3局は小川が10・20をツモり迎えた南4局(平井10→小川170→田中110→西尾)。西尾は田中がオヤなのでマンガンツモで田中にラスを押し付けてのラス抜けが出来る。田中としては自分が早くアガれそうならアガりにいくが、平井、小川が早そうなら差し込みをしてまずは西尾にラスを押し付けておくのが良さそうな感じではある。
 6巡目に平井の先制リーチが入る。平井としても田中が差してくれるだろう、との思いもあるはずだ。案の定田中は平井にロンされそうなと並べるも全然当たってくれない。田中としては「どこで待っているんだよ!」と言った心境か。平井の待ちもペン待ちと悪いので仕方がない。15巡目にやっと差せて28。これで田中と西尾の昇が並んだ。

◆◆◆ 35回戦B卓 ◆◆◆

〈平井4昇・成岡2昇・田中△2・村田△7〉

 田中はトップを取れば残留決定。トップ以外はA卓の西尾次第となる。
 東2局、オヤの成岡の配牌、
ダブリーチャンスなのだが101のルールにはダブリーはない。さてどうするのかと思っているとを捨てリーチを選択。は一見良さそうなのだが、ドラ表示牌で既に1枚見えているから思ったよりは良くない。途中でを持って来ているので、トイツの人がいたら出そうになる局面もあったが、王牌に2枚埋まっており顔を見せることはなく流局となった。

 東3局田中の配牌はたいしたことのなさそうな感じではあったのだが、3・4巡目にドラを続けて引き、勝負手となった。
 10巡目にをツモりテンパイ。12巡目にをツモるもピンフには取らずにこのまま役無しテンパイを続行。は分からないががヤマに相当残っていそうなのでドラのを捨てる手もあるが、成岡が仕掛けており、ドラがトイツの可能性もあったので安全にを捨てた。
 これが功を奏し16巡目にドラのをツモり40オール。残留に向けて大きなアガりとなった。
 この後大きなアガりもなく小場で進み南3局【牌譜9】点差は田中144→平井02→村田70→成岡(供託10)。南家の村田が4巡目にここからをチー。
 まだ大物手に育ちそうなのにもったいない気もするが、まずはイッツーを確定させてオヤを流そうという思いか。
 この村田の鳴きを見て平井はピンズを処理していく。
 そして8巡目平井が捨てたを成岡がチー、
 そしてここから捨てたのは何とドラのだった。来期の期首順位もあるので成岡も必死だ。村田はチーの後とツモり、
 
 この捨て牌のを平井がポン。目まぐるしく鳴きが入る展開で誰が本物かよく分からない。
 こんな展開なのに田中はジッとメンゼンで辛抱していた。そして遂にテンパイ一番乗りを果たす。
ワンズ待ちになったので非常にアガれそうな感じがする。これをアガりきれば残留はほぼ決定的だろう。
 この後平井はもチーしテンパイを入れるが、成岡にを押され、村田にもツモでテンパイが入ったのでを押されたため、をツモった時点でのトイツ落としで回ることを余儀なくされた。
 そして田中もを掴ませられ小考する。平井のの手出しが明らかにおかしいのでのトイツ落としかな、と思っていたのだが田中はを抜き完全撤退。次巡もを掴み、さて何を捨てるか。普通ならで何もなさそうだが、安牌が後でなくなるのを恐れたかを選んだ。村田がまだノーテンと思ったのだろうが、チーされてツモられたら被るのはオヤの自分なのだから、チーされる可能性もある牌のピンズだけは選ばない方が良かっただろう。結果は村田から「ロン4000」。田中のトップに黄信号が点灯した。

 南4局オヤは村田。先ほどの40で勢いが付いたか、6オール、40オールとアガり田中を捲ってトップに立った。
 南4局その3【牌譜10】(村田128→田中104→平井72→成岡)、この時点ではA卓で西尾のトップが確定していた。と、なると田中はトップを捲り返すしか残留の道はない。成岡もこのままラスになると期首順位は小川より下になるので大事なところ。平井は順位に関係なく来期の期首順位が2位と確定しているので、アガれそうならアガって終わらせにいくが無理なことはしないでおこう、と言ったところか。
 田中の配牌、
 ハネツモなので狙いはチャンタサンショクかホンイチと言ったところか。どちらも遠い。第1ツモがなので染めにいくを捨てた。しかし染めるにしてもイッツーかチートイツを付けなければいけないのでかなり厳しい。
 成岡2巡目、
 ラス抜けには20・40以上のツモアガりが必要なので何を捨てるか難しいところ。サンアンコ、イッツー、ドラの重なりと狙えるが。ここはサンアンコを見切ってを捨てた。
 成岡はツモと引き、カンマチでのリーチ。
 田中はと引き、ホンイチチートイツのイーシャンテンまでいくも、成岡がをツモりラス抜けで終局。こうして村田・田中の降級が決まった。

愛澤圭次名翔位自戦記

只今、制作中です。

インタビュー:木村 由佳(マージャン101東京支部)

 去る2014年12月14日、愛澤圭次選手が順位戦A級で優勝し、名翔位になりました。愛澤選手の名翔位獲得は、2000年以来14年ぶり2回目です。今回のインタビューは、12月27日、「マージャン101イン東京」の忘年会の場で、周りの皆さんからも愛澤さんに対する質問をいただきながら行いました。
「少しお酒の入った状態の方が舌が滑らかに動きますよ」とおっしゃっていた愛澤さんは、方々から飛んでくる質問に、終始にこやかに答えてくださいました。

―――名翔位獲得、おめでとうございます。順位戦最終節2日目、その日の初戦で勝負が決まったわけですが、決まった時はどのようなお気持ちでしたか?
「その時は、状況をあまり気にしないで打っていました。決まるなら2戦目以降だろうと思っていたので、終わった時に山内さんが写真を撮りに来て少しびっくりしました。その時に、『ああ、そうか。初戦で決まってよかった』と思いましたね。
 この日は、名翔位が決まる日であると同時に、A級からB級に降級する2人が決まる日でもありますから、最終戦にもつれこむと、残留がかかっている人たちの勝負に影響を受けるかもしれません。そうならないことを望んでいたので、初戦で決まって本当によかったと思います」

―――最終節を迎える時点で、愛澤さんが単独5昇でリードしていました。この状態で、最終節にはどのように臨まれましたか?
「2昇の人が3人いて、小川、成岡、平井でしたね。最終節の7戦で自分が昇を減らさなければ勝てるのではないかと思っていました。3人が3人とも昇を伸ばしてくるとは思えなかったので、とにかく、自分から下に行ってボーダーを下げることだけはするまいと思いました。だからとにかくラスを引かないように打つことを心がけましたね。あ、でも、それはいつもそうなんですけどね、もちろん」

―――「この人には負けたくない」という相手はいましたか?
「今回は、小川さんですね。小川さんが11月に八翔位を連覇していましたから、1人にタイトルを2つも持って行かれるのは嫌だな、と思っていました。かつて将棋の羽生善治さんが七冠になったときに、森下卓さんが『恥ずかしいです』と言っていたのを思い出したのです。だから、自分が勝ちたいのはもちろんですが、小川さんだけには負けたくないという思いはありました」

―――順位戦全体をふり返って、印象的なことはありましたか?
「第1節で高島が好スタートを切った時は、高島に注意しないといけないな、と思いました。最初は自分が勝ってスタートしたかったのですが、自分が1昇で、高島が2昇だったので、どこかでつまずかせないといけないと思ってマークしていました。しかし、自分も初日は手が入っていたと思いますし、スタートからよかったとは思っています」

―――今年、愛澤さんはずっとプラスで、昇を重ねて行かれましたね。
「そうですね。終わってみれば、昇が増えなかったのは10月の第4節だけで、昇を減らして帰ったことはなかったです。もちろん、いつもラスを引かないマージャンを目指してはいるのですが、うまくいったなあと思っています」

―――なにが好成績につながったのでしょう? 日ごろ心がけておられることはありますか?
「それが、あまりないんですよ。平日はマージャンをしませんし、今年はイン東京にもあまり参加できなかったと思います。第4節の前には体調を崩して、血圧が高くなって、くらくらしている状態でした。まあ、いつもどおり、自分の麻雀を淡々と打てたのが結局よかったのではないかと思っています」

―――名翔位を意識されたのは、いつごろからですか?
「それはね、もうずっと、意識しているものですよ。毎年、名翔位になろうと思って打っています。『名翔位になりたい』『ラスを引きたくない』もうこればかり考えています。だから、今年もいつも通り打っていたら昇が伸びて、結果につながったんだなー、よかったなーという気持ちです。今年のことであえて言えば、最終節の初日が終わった時ですね。小川さんとせっているつもりだったのですが、自分が7昇になって小川さんとの差が開いたので、やっとそのとき『あ、いつ決まるかな』と思ったりしました」

―――特に印象に残っている局や半荘があれば教えてください。
「30回戦のA卓の戦いですね。もう50%くらい『ダメだ、昇の差が縮まる』と思っていたところから調子を戻して、勝ち切ることができました。南4局、1巡目から仕掛けてのホンイチ小三元。あそこで成岡からタンキをあがってのトップ、成岡ラスが一番印象に残っています。ぐっと上向いたなーと、感じました」

―――最後に、今後の抱負を聞かせてください。
「まず、理事長としての抱負を言いますとね」

―――え、ここでいきなり「理事長として」なんですか?
「ええ、まずそれを言うと、『101をもっと広めていきたい』ということです。これが大事ですから、先に言わなくちゃね」

―――では「名翔位として」の抱負は?

「次も勝ちたい、です。当たり前のことなんですけど、これも大事ですね。そのためにはどうしたらいいかということになると、やっぱり『ラスを引かないように打つ』という、これまた当たり前のことになります。とにかく、自分らしく、いつも通りのことをきちんとやるのが大事なんでしょうね」

―――ありがとうございました。

(了)


第35期順位戦A級 第5節 星取表 (12月13・14日/東京)


選手名
開始前
29回戦
30回戦
31回戦
32回戦
33回戦
34回戦
35回戦
終了時
順位
田中  実
△4
B ◎−
A 
A 
A 
B 
B 
B 
△2 7
小川  隆
2昇
A 
B 
A 
B 
B 
B 
A 
1昇 4
村田 光陽
△5
B 
B 
A 
B 
A 
A 
B 
△6 8
愛澤 圭次
5昇
B 
A 
B 
B 
B 
A 
A 
7昇 1
成岡 明彦
2昇
A 
A 
B 
B 
B 
A 
B 
2昇 3
平井  淳
2昇
A 
B 
B 
A 
A 
B 
B 
3昇 2
高島  努
±0
A 
A 
A 
A 
A 
A 
A 
△1 5
西尾  剛
1昇
B 
B 
B 
A 
A 
B 
A 
△1 6
◆名翔位=愛澤/降級=田中・村田               立会人:堀川 隆司/安田健次郎