第39期順位戦A級 第2節

 観戦記/初日観戦記/2日目自戦記/田中 実星取表

第2節観戦記:平井 淳

 順位戦A級は全35戦の短期戦である。スタートダッシュを決められればその年の戦いは非常に楽になる。反面、スタートを拗(こじ)らせれとその年の戦いは厳しいものにならざるを得ない。その昔A級順位戦が10人制の頃に小川がマイナス4、マイナス5にしても戻していたが、8人制では更に厳しいのが現実である。昨年の私も1節にマイナス5と出遅れ、何とかマイナス1まで戻したがそこで力尽き降級してしまった。
 今年の出足では、西尾が躓いている。昨年も出来は良いものでなかったが、私という安牌があり、また期首順位1位を活かし最終節で残留を決めている。
 第2節は、西尾にとっての正念場である。次の●の前に少なくとも一つの◎、あわよくば複数の◎を獲得しなければ次節以降が非常に苦しいものとなってしまう。第2節初日は西尾を中心に見ていくこととする。

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◆◆◆ 9回戦A卓 ◆◆◆

〈(起家から以下同)亀井0・田中4昇・小川1昇・藤森0〉

 東1局に田中がドラ2の手をカンからカンに受け変えと引きピンフツモを逃し流局させるが、そのあとは田中の独壇場。東2局のオヤ番を20オールで3レンチャンし3者に溜息をつかせた。オーラスもラス目小川が4面待ちのツモ直リーチを打つが、田中は、真っ直ぐに打ち抜きリーチを掛けたうえ小川から80を仕留め5昇目を上げた。


◆◆◆ 9回戦B卓 ◆◆◆

〈西尾△4・成岡0・愛澤△1・山田1昇〉

 チョーマが動いたの東3局【牌譜1】。西尾は11巡目に4枚目のを引き戻すとイーシャンテンにも関わらず打と振り替えた。これが功を奏しラスト2巡で有効牌を引き寄せ20・40とした。マイナス4がなければ素直にツモ切っていたのではないだろうか。大きなアドバンテージを得た西尾は次局も7巡目にテンパイ即ツモでピンフドラ1をアガり良い感触を得られたのではないか。

 しかし、南1局はそんな西尾に一抹の不安を抱かせた【牌譜2】。なぜ成岡はあんな不安定なイーシャンテンでドラのを切ったのか。はさておき、これが鳴けた西尾は最低でも無傷でオヤを流せそうで無理やりアガリを目指す必要はないであろう。それでも鳴いてイーシャンテン。あとはメンツ選択である。即でを引き当てたところでアガリへの欲が出る。が14巡に渡るツモ切の末流局となる。の切り出しがを残させたのだろうが、ハイテイ牌のがなければこれも1局であろうが現実にはアガリの逃しとなってしまった。

 流局を挟んだ南3局、並びは西尾134→成岡07→山田13→愛澤となっている。2着目との差が100あればオーラスはラス目への協力も考えられる。そんな中成岡に10巡目にテンパイが入る。
このままのは出アガリは28で西尾との差は100以内には詰められない。次巡オヤのラス目愛澤にタンキのチートイツテンパイが入ると成岡はを引き入れ高めタンピンに手変わりする。は愛澤がテンパイ前巡に切っており高めは残り1枚であったが、その1枚を愛澤が即で掴んでしまう。これで西尾→成岡は95となった。

 縦に長くなったオーラス【牌譜3】。現場で見ていると山田の第1打がで西尾がこれに合わせなかったことが傷に見えたが、牌譜を検証すると西尾のに成岡が反応すれば結果は同じである。と引き入れを重ねての待ちをで仕上げることになる。ただ成岡が1巡目の形で西尾に声がでるかどうかはわからない。それでも西尾にはを合わせて貰いたかった。少なくともを鳴かれた後のは握り潰してもらいたい。結局マイナス4にプレッシャーが西尾をアガリに向かわせたのであろう。そしてこの期に及び南1局のハイテイ牌が恨めしくなってくるのである。


◆◆◆ 10回戦A卓 ◆◆◆

〈愛澤△2・小川0・山田1昇・田中5昇〉

 南2局その2で山田がオヤの小川からを鳴いてタンヤオのテンパイにとるが、小川の初牌に切りに河を見渡し手牌にもう1枚あったを抜くと田中からロンがかかった。田中の河にはが置かれており思わず山田の口から「え〜」の声が漏れた。カン待ちのタンヤオサンショクドラ1の80である。この後愛澤がオヤで出来あいのイッツーをツモり一旦田中をかわすが、田中はラス目山田の投じたリーチ棒2本をナキタンで浚いオーラスをトップ目で迎えた。田中28→愛澤60→小川108→山田。ここで意地を見せたのは小川。9巡目にリーチと出た。
 これに対し愛澤も13巡目にタンピンのテンパイを入れ条件を満たすが、小川は愛澤のツモを許さずこの半荘を〆た。


◆◆◆ 10回戦B卓 ◆◆◆

〈藤森0・亀井0・成岡1昇・西尾△4〉

 アガリが出たのは2回だけである。東2局その1でオヤ番亀井が丁寧な打ち回しでトイツほぐしから進めた手をチートイツに仕上げた【牌譜4】。このあたりが亀井の良さであろう。西尾の切りがなければは手残りしていない可能性もある。手なりにみえるが牌の残し方に技を感じる。

 そしてもう一局が東3局【牌譜5】。亀井が2巡目に初牌のを手出ししている。更にのトイツ落としが入り、ダメ押しはドラ切りである。西尾の不幸はイーシャンテンが安牌切りで取れた上に片アガリとは言え役ありテンパイが入ったことであろうか。それでも亀井がトイツ落としでを選んでいると西尾はを切れずに放銃を避けられたかもしれない。このあたりも亀井の丁寧さがみられる。トップが取れるはずの9回戦。僅か28に泣く10回戦。普段ならこれも一局といってられるかもしれないがマイナス者にとっては深いダメージとなってしまった。


◆◆◆ 11回戦A卓 ◆◆◆

〈山田0・藤森0・西尾△5・田中5昇〉

 10回戦で苦いラスを引かされた西尾であったが、11回戦は東1局で13巡目に、
のテンパイが入る。次巡更にドラを引きと振り替えた。16巡目に西尾と同巡にチートイツのテンパイを入れていたオヤの山田が4枚使いのをツモ切り80の放銃となってしまった。少なくとも西尾のはドラとの振り替わりで最低で20、40や80も充分考えられるだけに巡目を考え引くべきであったのではないか。結果西尾にとっては気分が晴れる思いであろう。続く局も西尾がピンフを引きアガる(4・8)。

 迎えた東3局・西尾のオヤ番である【牌譜6】。西尾のテンパイは4巡目。即リーチもあるかとみていたが、西尾はヤミテンとした。がテンパイ打牌を田中に鳴かれてしまう。田中のだけにドラを持ちながらのやや遠い仕掛けも想定されるが、西尾は山田のを見逃すのである。そしてこの隙にテンパイを入れた藤森が田中のを頼りにのトイツを落とした山田から16をアガった。点棒的には大きなものではないが、9回戦南1局を思い出させる展開である。いや逆に9回戦の展開が頭に残る故に西尾は引きでのアガリを意識せざるを得なかったのだろう。

 流局を挟んだ南1局に田中は12巡目にリーチを打つ。
 なんとも人を食ったリーチであるがラス目山田と96差と、6昇が打たせたものであろう。田中にとっては流局上等、山田のオヤが流れればそれで良しという気持ちであったろうが、やっぱりというべきなのか2巡後にこれをあっさり引きあがって西尾に並んでしまう。

 こうなると田中ペースかとみていると次局3巡目に田中がリーチ棒を投げた。役なしドラ2くらいを予想したが、これがなんとイーペイコウ出来合いのピンフリーチである。田中は少し調子に乗りすぎのようである。これにヤミテンなら振り込んでいた山田が縦引きを捕まえ田中の待ちを4枚使ったタンヤオチートイツで追いかけた。田中が山田に振り込めとの西尾の願いも空しく山田の待ちは王牌に2枚仕舞われ流局した。

 南3局の並びは西尾10→田中78→藤森138→山田(供託20)。僅かなリードの西尾は、オヤで田中の上家、さらに供託が2本ドラがとなかなか難しい局面である。が、手にならないまま局が進むと16巡目に山田が田中の4枚目のにチーをかけドラを切った。この鳴きによりドラタンキのチートイツをテンパイした田中が山田に12を献上する???山田は、供託を守りに行ったのか?それでも万一の藤森からの直撃を狙いヤマ越しを掛けないのだろうか。いずれにせよ西尾にとっては有難い進行である。

 さて上記3つのイーシャンテンでそれぞれ何を引いてテンパイしたいであろうか。田中はオーラスのオヤでそれぞれを引いて西尾、山田、西尾から出アガった。

 その4も田中にツモアガリの手順があったが、そこは遠慮したのか手を崩し流局させた。続いていれば西尾のラスまであったのではないだろうか。


◆◆◆ 11回戦B卓 ◆◆◆

〈成岡1昇・愛澤△2・亀井1昇・小川1昇〉

 10回戦では快勝した亀井であったが、11回戦では目が出なかった。愛澤と小川にツモアガリが出、それぞれのオヤカブリは亀井と成岡。愛澤はチートイツをドラのでツモり、小川はメンゼンで役なしテンパイのツモアガリ。その後小川16(←愛澤)があったがアガリはこれまで。亀井は折角の1昇をすぐに返してしまった。


◆◆◆ 12回戦A卓 ◆◆◆

〈成岡1昇・山田△1・小川1昇・藤森0〉

 成岡の起家1巡目リーチで始まった。これをツモリ(ピンフ)、その2ではピンフを高め(サンショク)でツモアガりほぼトップを決め、ラスはアガリのなかった山田に押し付けられた。


◆◆◆ 12回戦B卓 ◆◆◆

〈亀井0・田中6昇・西尾△5・愛澤△1〉

 東1局【牌譜7】、11回戦オーラスとは異なり、田中が珍しく引いてアガリを逃している。亀井のアンカンに対し初牌は打ち切れなかったのであろう。またドラ表カンチャンではアガリに期待も持てなかったのであろう。また、その前に愛澤がドラ3のリャンメン待ちながらドラ筋ので降りている。河に4枚では強くはいけなかったようだ。亀井がリーチでも掛けてくれれば愛澤も追いかけられたであろうに。そしてこれが伏線なのか、次局愛澤にドラタンキのチートイツテンパイが入り、ドラ表示牌のを持ってくるとこれをツモ切った。愛澤の河は、
でやむを得ないところであろうか。しかし、これが亀井のタンピンサンショクドラ1の高めにつかまる。

 先行した亀井を捕まえるべく西尾が次局山越しのチートイツをオヤで亀井から直撃するが亀井は、東4局(チートイツ)、南1局(ピンフドラ1)と連続してツモアガリ後続を引き離した。

 が、それまで大人しくしていた田中が、南2局のオヤ番で7巡目にをポンした。配牌4トイツであったのが7巡にして2アンコ3トイツになっていたのだ。時間はかかったが田中は、これを引きアガリ152差を一捲りした。また田中の季節なのだろうか。

 上より下を気にせずにいられなくなった西尾だが、南3局にピンフを引きアガリ連荘すると大チャンスが訪れた【牌譜8】
 なんとも悲しい流局である。

 すると次局がこれだ【牌譜9】までは理解できるが切り、を持っての押し。これは何なんだろう。ピンズのホンイチにまだ染まり切っていないと見たのか。愛澤のロンの声を聴いたときに田中以上に寒い思いをしたのは西尾である。60止まりで胸をなでおろしたことだろう。
 また、いつものように次局田中が13・26でも引くかと思われたが、さすがにこの半荘はこのまま終わった。

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 昇を持ち奔放に振る舞う田中、マイナスに苦しみ道を細くする西尾。貧すれば鈍することが多いのがマージャンであるなら、今後も田中は昇を伸ばし、西尾はさらに苦しくなるであろう。ただ、愛澤が△3、山田が△2であるなら、西尾はあまり自分で道を細くする必要はない。苦しいだろうが、心に余裕をもって対局に臨んでもらいたい。


第2節2日目観戦記「A級1年生藤森と番長田中」:鈴木 聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)

【A級1年生 藤森弘希】
 システムエンジニアとして会社勤めをしながら順位戦に参加する45歳は、順位戦4年目を迎えた。
 見た目には45歳には見えない若さがある。好きな芸能人も、新垣結衣、石原さとみ、吉岡里帆(敬称略)と、話題の女優を押さえているところを見ると、やはり若い。
 ところが、「この舞台で打たせてもらえるのがうれしい」「来年もA級で打てるようにがんばります」となかなかに謙虚で、1年生独特のギラギラ感がないことに驚く。私なら「ふふ、そろそろ世代交代ですね、まあ見ててください」と、物語序盤であっけなくやられてしまう脇役じみた大口の1つでも叩いてしまうところだ。
 ずいぶん丸い1年生が入ってきたものである。この男、果たして主役か脇役か。

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◆◆◆ 13回戦A卓 ◆◆◆

〈藤森0・山田△2・亀井1昇・西尾△5〉

【斬られ役藤森】
 東1局(ドラ)、その藤森にいきなり大物手のテンパイが入る。
 8巡目にしてが2枚河に切れているのだから、かなりの好感触である。安目でも先制点としては十分だ。
 しかし、亀井が10巡目にポンテンを入れると、西尾からすぐに出て12。
 
 あっという間にかわされた藤森はといえば、「落ち込んでいた」とのこと。早くも脇役フラグが立つ。

 ところが、そんな心配をよそに、山田30→亀井19→西尾・藤森の同点3着で迎えた南2局(ドラ)、藤森がチートイツイーシャンテンの配牌を手にする。
 打とすると、これが見事にはまって3巡目にを引いてテンパイ。今度こそアガれそうだと思ったが、なんとテンパイ打牌のに西尾がロン。
 同じチートイツで痛すぎる16。殺陣の流れの中でギリギリうまく斬られる殺陣師のようで、そのあまりにきれいな斬られぶりに、少しばかり見とれてしまった。新1年生に上級生の厳しい洗礼である。

 すると、オーラス(山田30→亀井03→西尾32→藤森)には、それを見ていたA級2回目の1年生山田が信じられない凡ミス。
トップ目の山田がここからをポンしてテンパイを組むのだが、を早々に切っていてフリテン。にわかに嫌な予感がよぎったのも束の間、数巡後にロンの声をかけてしまう。
山田はピンズをの形だと誤認していたのである。そして、理牌までの間に気づき、アガリ放棄。その隙に40をアガった亀井がトップを逆転していった。

 かくして、トップ争いも3着争いも、上級生が制していった。
(◎亀井/●藤森)



◆◆◆ 13回戦B卓 ◆◆◆

〈愛澤△2・成岡2昇・小川1昇・田中6昇〉

【止まらない田中】
 開幕からロケットスタートを決めた田中、ここでもその波が途切れない。東3局(ドラ)、
 こんなドラタンキに受けると、が入れ替わってタンヤオがついてからラス牌のドラをツモアガリ【牌譜10】。思わず成岡もため息交じりに苦笑いを浮かべる。

 そして、圧巻はオーラス【牌譜11】。流局トップの田中は、字牌からまっすぐに打ち進めた。他家から見ると、役牌ポンなどで軽い場になることを狙いつつ、まっすぐ打っているようにも見え、かといって圧をかけることメインで手が入っていないことがあっても全然不思議ではないという点数状況だから、非常に厄介だ。
 しかし、11巡目にツモ切られた生牌の。これが場に強い牌であることがすぐに判明する。下家の愛澤がすぐに併せ打ちでトイツ落としを始めたからだ。そして、次巡にさらにをツモ切り。これで、田中が単に生牌のをツモ切ったことがわかり、まずいという空気が流れる。
 さらに、14巡目の手出し。これはもう本当にまずい。終盤にきての2着目小川に高いピンズ切りは、ほぼ入ってしまっている。
 そして、逆転のテンパイを入れている小川が16巡目に掴んだを置くと、田中からロンの声がかかるのだからたまらない。安牌が極端に少なく、字牌が安い河である。小川も目を見開いたが、しばし牌姿を確認すると、ラスを覚悟した。
(◎田中/●小川)



◆◆◆ 14回戦A卓 ◆◆◆

〈愛澤△2・西尾△5・田中7昇・藤森△1〉

【藤森の失投と攻撃番長田中のシンプルな攻撃】
 田中は、どんな球にでも器用に手を出して出塁してくる。そんな超攻撃的な1番バッターだ。打点はそこまで高くない代わりに、とにかくどんなところからでもアガリを取ってしまう。そういう打ち手である。

 2着目で迎えた南1局【牌譜12】。田中は8巡目にを引いた。
 の良さは重々承知しているが、それよりはをいったん手に留めて打とすることで、仮にを打ち出して鳴かれたときに押し返せるよう、タンヤオとチートイツに狙いを絞って打点バランスを取りにいった。
 しかし、次巡に裏目のツモ。ここで田中はノータイムでを打ち出す。A級選手の中で、このをノータイムで打ち出せる選手は意外に少ないように思う。を失敗した形になっているし、いったん抑えた形のである。を打ち出すとしても、思考を切り替えるまでに相応の時間は必要になりそうなところだ。それを田中は迷いなく打ち出す。
 田中の思考はおそらくかなりシンプルに整理されており、例えば、「タンヤオになるならを切る」「はチートイツでも狙い目」という2つぐらいの攻撃的指針を主軸とし、後のことはあえて枝葉の話として隅に片づけているように見える。
 だから強い。マージャンという複雑なゲームを複雑に捉えようとする順位戦選手の中にあって、田中は(もちろん様々な要素を考慮した上でだが)極力シンプルに局面を捉え、それを淡々と続けてくる。どんな競技でも当てはまると思うが、長くやるのなら、最も怖いのはシンプルに淡々と攻撃してくる相手ではないだろうか。

 そんな攻撃番長田中の攻めに、藤森の失投が捕まった。
10巡目、藤森はここからを残してを打ち出す。「ターツに不満があり、を残してしまった」とのことだが、が4枚切れており、のフォローが利いていることを考えると、確かにここでを打ってもよかったように見える。その後、を引くもツモ切り、次巡にで田中に28の放銃となった。少し甘く入ったぐらいの球なのだろうが、田中に対しては十分な失投。
 1年生藤森が痛い連敗を喫した。
(◎田中/●藤森)



◆◆◆ 14回戦B卓 ◆◆◆

〈山田△2・亀井2昇・成岡2昇・小川0〉

【4人テンパイを制したのは!?】
 南2局ドラ(山田02→成岡25→亀井・小川)、事件が起きる。まずは成岡が動いて5巡目に早くもテンパイを組む。
  
 すると、他家も次々とテンパイを果たす。
 山田が、
 小川が、
 亀井が、
 
 実に珍しい全員テンパイになると、しばしのツモ切りの後、山田が役満をツモったかのように3・6のを引き寄せた。
(◎山田/●亀井)



◆◆◆ 15回戦A卓 ◆◆◆

〈藤森△2・亀井1昇・成岡2昇・愛澤△2〉

【A級2年生亀井の洗練と甘さ】
 私が今期のA級を見て、ものすごく洗練されたと感じた打ち手がいる。A級2年生の亀井だ。昨年のA級では、オリのタイミングがなかなか合っていなかったように見えたのだが、1年間A級を経験したことで、とにかくオリのタイミングに関する精度が洗練されたように見えた。

 例えば、オール流局で迎えた東3局【牌譜13】。8巡目、南家愛澤がテンパイする直前に亀井が手を崩し、に併せてを抜いている。全員がイーシャンテンになり、テンパイする直前に撤退していく。特に守りが顕著だが、昨年より攻めも守りも格段に鋭くなってきている。
 私のこの感覚に、長年A級にいる成岡も同調した。「そう。それはぼくもそう思う。やっぱりA級にいるってことはすごく大事よね」。

 「ただ、あの局はいけなかった」と成岡が語るのは、南1局【牌譜14】。亀井は11巡目にチーテンを組む。
 
そして、13巡目にを掴むと、ツモ切ってしまった。
成岡は言う。「あのは打ちすぎ。こういうのを打つときっちりラスになるのがA級。(テンパイが)入ってなきゃ(愛澤は)打たんよ。(亀井は)自分がラス目でもないんだから、ああいうのは打っちゃいかんよね」。
 確かにこのとき、亀井は「当たる」という顔でを打っていたように思う。そんな牌を打ち出してはいけないということなのだろう。かなり鋭くなってきた亀井の押し引き判断だが、逆に言えばこういうところが伸びしろとして残っているということなのかもしれない。

 成岡の言うように、この半荘はこれ以降アガリが一度も出ず、亀井にラスがついた。やはり上級生は、このフィールドをよく知っている。
 そういえば・・・藤森、いたか?
(◎成岡/●亀井)



◆◆◆ 15回戦B卓 ◆◆◆

〈西尾△5・山田△1・小川0・田中8昇〉

【田中、本日3連勝目】
 東4局(小川30→田中70→山田50→西尾)、オヤの田中がトップ目小川から78。
 これで田中は本日3連勝目。呆れるほどの強さである。
(◎田中/●山田)



◆◆◆ 16回戦A卓 ◆◆◆

〈藤森△2・愛澤△2・成岡3昇・山田△2〉

【我慢の男・藤森の勝負時】
 藤森は登場回数が少ない。フーロもアガリも少ないのである。聞けば、ネットマージャンでも同様にフーロ率とアガリ率が低いのだそう。ある意味では我慢が利く打ち手である。一方で、それは消極的と紙一重でもある。

 東3局(ドラ)、藤森は第1打のをポンせず、10巡目のポンテンも取らずにオリていった【牌譜15】。確かに10巡目では煮詰まっており、6枚切れのテンパイで場に高いワンズを打ち出すのは見合わないと判断するのもわからなくはない。しかし、1巡目の方ではポンしてもいいのではないだろうか。これを見ると、守備が堅いを通り越して消極的なようにも映る。逆に、どうやってトップを取っているのかなと興味が沸いた。

 その一部が見えたのは南1局その2【牌譜16】、その1で藤森が13オールを引いた直後である。
 藤森は、7巡目に打としたところからずっとツモ切りを続けた。周りが完全に自分に対して受けている。それならばと、最後の1巡までアガリを見てツモ切りを続けた。なるほど、こういう戦い方もあるのだな。先ほどの藤森からは想像できないほど思い切った強気の選択である。勝負所で、自分に有利な状況だとわかると、とことんまで押せる。だから藤森はA級にいられるのだろうなと直感した。守備寄りバランスの打ち手が、こういう思い切った攻めを同居させるのは意外に難しいのである。

 オーラスでも同じだ【牌譜17】。点数状況的にトップを目指して前に出るしかない藤森は、早々にチーテンを入れてツモ切りを続けた。その圧が、成岡との挟み撃ちを演出すると、トップ目山田に成岡のロン牌を打たせ、藤森がアガらずのトップをもぎ取った。
(◎藤森/●愛澤)



◆◆◆ 16回戦B卓 ◆◆◆

〈小川0・田中9昇・亀井0・西尾△5〉

【田中、本日全勝】
 一方の攻撃番長田中。東2局その1の30でトップ目に立つと、その2では5巡目になんとも珍しいトップ目からのリーチ。
 他家が恐れ戦きベタオリする間も与えずに一発でを引き寄せ、26オール。本日4戦をすべてトップで早くも昇を2桁に乗せた。
(◎田中/●西尾)

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 対局後、藤森と話した。
 藤森は、学生だった22年前、マージャン101が両国で行われていたときに通っていたと言う。ではなぜそのときに101選手を始めなかったのか。大学卒業とともに東京を離れてしまったためである。そんな藤森が、4年ほど前に東京に帰ってくると、また101に通い始める。押し時だけは逃さない男である。勝負所と見極め、意を決して順位戦の門を叩いた。
 藤森は、順位戦選手では珍しく、ネットマージャン「天鳳」もやる。家にいるときには食事か天鳳かという生活だ。ラスに大きなマイナスがつく天鳳のルールは、我慢の男にお似合いだ。
 45歳の遅れてきたルーキーは、こうして色々なところから吸収していく。そうやって、じわりじわりと先輩たちに近づいていく。本当に少しずつの歩みだが、粘りの男にとってはその歩みがたまらなく楽しい。
 A級新1年生は、怯えながらも着実に歩を進める。

第2節自戦記(13回戦B卓:田中 実)

 第2節2日目の1回戦め。1日目は◎−◎−。ここまでの今期成績が6昇と上々なのだが、なぜか昇を伸ばせば伸ばすほど焦ってしまい、昨日の最終戦(12回戦)では南4局でオヤの仕掛けに放銃しトップめから転落。追う立場からしたら、勝手にコケてくれるほどありがたいことはないだろうから、それだけはないように、と誓った朝だった。


No.1【東1局】
 北家スタートです。いわゆるラスオヤ、これを嫌がる人も多いですが、私はあまり気になりませんね。嫌がる人たちは、南4局のオヤカブリでラス、もともとラスめでそのまま抑え込まれる、ことに囚われすぎなんじゃないでしょうか。そうならないように、いくらでもやり口はあるはずなのに。

 成岡の仕掛けで、流局へまっしぐら。悪くない出だし。


No.2【東2局】
 ワンズのリャンカン、だけ外し残したがくっつき8巡目のツモでサンショクイーシャンテン。だがを打ち出してまでアガリに向かう気はなく、さらにも余ったとなれば完全に手じまい。なんでも突っ込んでると思われてるけど、そうでもないのよ。


No.3【東3局】
 流局が続き、ラスオヤなのでこの辺で点数の動きが欲しい。もちろん自分のアガリで。そして配牌はアガってくださいと言わんばかり。ところが引いたソウズがで安くなるわ形も悪いわ、で諦めかけた。ダメ押しでが3枚も打たれ、ドラタンキへの変化だけを期待していたが、タンヤオに変わり、さらに10・20回避も確認した上でのマンガン!成岡のアガリ逃しで、高くアガらせてもらって、これは足を向けて寝られませんな。


No.4【東4局】
 さてリードも得たので、ここは無難にやり過ごしたい。まっすぐアガリに向かっていれば簡単だったが失点なく局が進めばまあ良し。


No.5【南1局】
 サンショクにもイーペーコーにもならず、安め安めと引いての3・6だが、気分のよいアガリ。14オールで連荘より、1分ちょいで1局進んでゴールが近づくほうが追加点としての価値が高いでしょ。


No.6【南2局】
 途中までは、この局もアガリを目指して進めていたがツモで和平を目指しました。一国だけ核を保有してるような状態になったので三者とも無抵抗主義者に。ツモられなくてよかった。
 終盤お祈りしながら、もっとかっぱいでおけばよかったと思ってるんだから、人間とは勝手なもんだ。


No.7【南3局その1】
 待ちのチートイツになってしまった。早めにを離してアガり切れることってあるんだろうか。小川ののターツ外し、が重なったところが、唯一あり得たかもしれないが、ここでチートイツに決めるのはやっぱり無理かしら。
小川のポジションならばリーチもありそうだが、ツモれた場合はひとまずラス抜けで十分、愛澤からの万が一があると思っていたのかな。


No.8【南3局その2】
 いきなりが3枚になり、小川の追撃を自力で阻めそうだ。東4局の打ち方をするような人間ならには手をかけず、迷わずを落としていく手に見える。が、成岡がを並べたことにより将来的にペンが良い待ちになることもかなりありそうだ。ツモですぐを離しツモでドラも引っ張らずアガリを一直線に目指した。思惑通り、ペンのテンパイを組めた。からののメンツが先にできたときは、しまったか!とは思ったもののまだ手じまいするわけにはいかない。
 成岡の道中、サンショク絡みのスライド選択が面白い。最後は対小川までを考えて愛澤の現物ではないを選んで放銃となった。南1局のオヤカブリの影響でラスめ愛澤は、無理めの仕掛けでラス抜け、ノー和了でもなかなかラスにならないのはこういう仕掛けに秘密があるのか。


No.9【南4局その1】
 前局うまくアガリを拾えたとはいえ、小川との点差は小さい。ラス抜け争いも熾烈なので、どちらかがアガってくれることを期待したいが、ボンヤリしているうちに小川にツモられてもかなわないので強く出る姿勢は崩したくない。うまくを合わせられたので、その後は無理せずアガリを目指すことに専念できた。待ちの選択でアガリを逃している小川だが、逆転の手なので最後までがんばった結果一気にラスめまで転落。ヤミの20オールを悔いている?


No.10【南4局その2】
 トップはかなり堅くなり、ラスを選ぶ余裕もありそうだ。しかし、このとき成岡・小川は1昇、愛澤△1では誰のラスが良いかは明確ではない。意図的に助けた人に後で追いつかれると気分が悪いので、ここはラス抜け争いを静観することに。


 この4人での対局は、昨年最終節の時と同じ結果になった。じつは今期のA級は、A級の先輩はこの3人だけなので、挑む気持ちが一際大きい組み合わせだった。四半世紀以上やってる大先輩方を相手にしての連勝は格別にうれしい。

(文中敬称略)


第39期順位戦A級 第2節 星取表 (6月23・24日/東京)

選手名
開始前
9回戦
10回戦
11回戦
12回戦
13回戦
14回戦
15回戦
16回戦
終了時
順位
田中  実
4昇 A  A  A  B  B  A  B  B  10昇 1
愛澤 圭次
△1 B  A  B  B  B  A  A  A  △3 7
成岡 明彦
±0 B  B  B  A  B  B  A  A  3昇 2
亀井 敬史
±0 A  B  B  B  A  B  A  B  ±0 3
西尾  剛
△4 B  B  A  B  A  A  B  B  △6 8
小川  隆
1昇 A  A  B  A  B  B  B  B  ±0 4
藤森 弘希
±0 A  B  A  A  A  A  A  A  △1 5
山田 史佳
1昇 B  A  A  A  A  B  B  A  △2 6
立会人:山内 啓介