
第39期順位戦A級 第2節
第2節観戦記:平井 淳
順位戦A級は全35戦の短期戦である。スタートダッシュを決められればその年の戦いは非常に楽になる。反面、スタートを拗(こじ)らせれとその年の戦いは厳しいものにならざるを得ない。その昔A級順位戦が10人制の頃に小川がマイナス4、マイナス5にしても戻していたが、8人制では更に厳しいのが現実である。昨年の私も1節にマイナス5と出遅れ、何とかマイナス1まで戻したがそこで力尽き降級してしまった。
今年の出足では、西尾が躓いている。昨年も出来は良いものでなかったが、私という安牌があり、また期首順位1位を活かし最終節で残留を決めている。
第2節は、西尾にとっての正念場である。次の●の前に少なくとも一つの◎、あわよくば複数の◎を獲得しなければ次節以降が非常に苦しいものとなってしまう。第2節初日は西尾を中心に見ていくこととする。
◆◆◆ 9回戦A卓 ◆◆◆
〈(起家から以下同)亀井0・田中4昇・小川1昇・藤森0〉
東1局に田中がドラ2の手をカン




◆◆◆ 9回戦B卓 ◆◆◆
〈西尾△4・成岡0・愛澤△1・山田1昇〉
チョーマが動いたの東3局【牌譜1】。西尾は11巡目に4枚目の


しかし、南1局はそんな西尾に一抹の不安を抱かせた【牌譜2】。なぜ成岡はあんな不安定なイーシャンテンでドラの







流局を挟んだ南3局、並びは西尾134→成岡07→山田13→愛澤となっている。2着目との差が100あればオーラスはラス目への協力も考えられる。そんな中成岡に10巡目にテンパイが入る。


















縦に長くなったオーラス【牌譜3】。現場で見ていると山田の第1打が













◆◆◆ 10回戦A卓 ◆◆◆
〈愛澤△2・小川0・山田1昇・田中5昇〉
南2局その2で山田がオヤの小川から






















◆◆◆ 10回戦B卓 ◆◆◆
〈藤森0・亀井0・成岡1昇・西尾△4〉
アガリが出たのは2回だけである。東2局その1でオヤ番亀井が丁寧な打ち回しでトイツほぐしから進めた手をチートイツに仕上げた【牌譜4】。このあたりが亀井の良さであろう。西尾の



そしてもう一局が東3局【牌譜5】。亀井が2巡目に初牌の




◆◆◆ 11回戦A卓 ◆◆◆
〈山田0・藤森0・西尾△5・田中5昇〉
10回戦で苦いラスを引かされた西尾であったが、11回戦は東1局で13巡目に、




















迎えた東3局・西尾のオヤ番である【牌譜6】。西尾のテンパイは4巡目。即リーチもあるかとみていたが、西尾はヤミテンとした。がテンパイ打牌






流局を挟んだ南1局に田中は12巡目にリーチを打つ。
















こうなると田中ペースかとみていると次局3巡目に田中がリーチ棒を投げた。役なしドラ2くらいを予想したが、これがなんとイーペイコウ出来合いのピンフリーチである。田中は少し調子に乗りすぎのようである。これにヤミテンなら振り込んでいた山田が縦引きを捕まえ田中の待ちを4枚使ったタンヤオチートイツで追いかけた。田中が山田に振り込めとの西尾の願いも空しく山田の待ちは王牌に2枚仕舞われ流局した。
南3局の並びは西尾10→田中78→藤森138→山田(供託20)。僅かなリードの西尾は、オヤで田中の上家、さらに供託が2本ドラが



















































その4も田中にツモアガリの手順があったが、そこは遠慮したのか手を崩し流局させた。続いていれば西尾のラスまであったのではないだろうか。
◆◆◆ 11回戦B卓 ◆◆◆
〈成岡1昇・愛澤△2・亀井1昇・小川1昇〉
10回戦では快勝した亀井であったが、11回戦では目が出なかった。愛澤と小川にツモアガリが出、それぞれのオヤカブリは亀井と成岡。愛澤はチートイツをドラの

◆◆◆ 12回戦A卓 ◆◆◆
〈成岡1昇・山田△1・小川1昇・藤森0〉
成岡の起家1巡目リーチで始まった。これをツモリ(ピンフ)、その2ではピンフを高め(サンショク)でツモアガりほぼトップを決め、ラスはアガリのなかった山田に押し付けられた。
◆◆◆ 12回戦B卓 ◆◆◆
〈亀井0・田中6昇・西尾△5・愛澤△1〉
東1局【牌譜7】、11回戦オーラスとは異なり、田中が珍しく引いてアガリを逃している。亀井の














先行した亀井を捕まえるべく西尾が次局山越しのチートイツをオヤで亀井から直撃するが亀井は、東4局(チートイツ)、南1局(ピンフドラ1)と連続してツモアガリ後続を引き離した。
が、それまで大人しくしていた田中が、南2局のオヤ番で7巡目に

上より下を気にせずにいられなくなった西尾だが、南3局にピンフを引きアガリ連荘すると大チャンスが訪れた【牌譜8】。
なんとも悲しい流局である。
すると次局がこれだ【牌譜9】。





また、いつものように次局田中が13・26でも引くかと思われたが、さすがにこの半荘はこのまま終わった。
昇を持ち奔放に振る舞う田中、マイナスに苦しみ道を細くする西尾。貧すれば鈍することが多いのがマージャンであるなら、今後も田中は昇を伸ばし、西尾はさらに苦しくなるであろう。ただ、愛澤が△3、山田が△2であるなら、西尾はあまり自分で道を細くする必要はない。苦しいだろうが、心に余裕をもって対局に臨んでもらいたい。
第2節2日目観戦記「A級1年生藤森と番長田中」:鈴木 聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
【A級1年生 藤森弘希】
システムエンジニアとして会社勤めをしながら順位戦に参加する45歳は、順位戦4年目を迎えた。
見た目には45歳には見えない若さがある。好きな芸能人も、新垣結衣、石原さとみ、吉岡里帆(敬称略)と、話題の女優を押さえているところを見ると、やはり若い。
ところが、「この舞台で打たせてもらえるのがうれしい」「来年もA級で打てるようにがんばります」となかなかに謙虚で、1年生独特のギラギラ感がないことに驚く。私なら「ふふ、そろそろ世代交代ですね、まあ見ててください」と、物語序盤であっけなくやられてしまう脇役じみた大口の1つでも叩いてしまうところだ。
ずいぶん丸い1年生が入ってきたものである。この男、果たして主役か脇役か。
◆◆◆ 13回戦A卓 ◆◆◆
〈藤森0・山田△2・亀井1昇・西尾△5〉
【斬られ役藤森】
東1局(ドラ
















しかし、亀井が10巡目にポンテンを入れると、西尾からすぐに出て12。















ところが、そんな心配をよそに、山田30→亀井19→西尾・藤森の同点3着で迎えた南2局(ドラ

































すると、オーラス(山田30→亀井03→西尾32→藤森)には、それを見ていたA級2回目の1年生山田が信じられない凡ミス。


















山田はピンズを





かくして、トップ争いも3着争いも、上級生が制していった。
◆◆◆ 13回戦B卓 ◆◆◆
〈愛澤△2・成岡2昇・小川1昇・田中6昇〉
【止まらない田中】
開幕からロケットスタートを決めた田中、ここでもその波が途切れない。東3局(ドラ

















そして、圧巻はオーラス【牌譜11】。流局トップの田中は、字牌からまっすぐに打ち進めた。他家から見ると、役牌ポンなどで軽い場になることを狙いつつ、まっすぐ打っているようにも見え、かといって圧をかけることメインで手が入っていないことがあっても全然不思議ではないという点数状況だから、非常に厄介だ。
しかし、11巡目にツモ切られた生牌の



さらに、14巡目の

そして、逆転のテンパイを入れている小川が16巡目に掴んだ

◆◆◆ 14回戦A卓 ◆◆◆
〈愛澤△2・西尾△5・田中7昇・藤森△1〉
【藤森の失投と攻撃番長田中のシンプルな攻撃】
田中は、どんな球にでも器用に手を出して出塁してくる。そんな超攻撃的な1番バッターだ。打点はそこまで高くない代わりに、とにかくどんなところからでもアガリを取ってしまう。そういう打ち手である。
2着目で迎えた南1局【牌譜12】。田中は8巡目に



















しかし、次巡に裏目のツモ






田中の思考はおそらくかなりシンプルに整理されており、例えば、「タンヤオになるなら


だから強い。マージャンという複雑なゲームを複雑に捉えようとする順位戦選手の中にあって、田中は(もちろん様々な要素を考慮した上でだが)極力シンプルに局面を捉え、それを淡々と続けてくる。どんな競技でも当てはまると思うが、長くやるのなら、最も怖いのはシンプルに淡々と攻撃してくる相手ではないだろうか。
そんな攻撃番長田中の攻めに、藤森の失投が捕まった。
























1年生藤森が痛い連敗を喫した。
◆◆◆ 14回戦B卓 ◆◆◆
〈山田△2・亀井2昇・成岡2昇・小川0〉
【4人テンパイを制したのは!?】
南2局ドラ














山田が、








































◆◆◆ 15回戦A卓 ◆◆◆
〈藤森△2・亀井1昇・成岡2昇・愛澤△2〉
【A級2年生亀井の洗練と甘さ】
私が今期のA級を見て、ものすごく洗練されたと感じた打ち手がいる。A級2年生の亀井だ。昨年のA級では、オリのタイミングがなかなか合っていなかったように見えたのだが、1年間A級を経験したことで、とにかくオリのタイミングに関する精度が洗練されたように見えた。
例えば、オール流局で迎えた東3局【牌譜13】。8巡目、南家愛澤がテンパイする直前に亀井が手を崩し、


私のこの感覚に、長年A級にいる成岡も同調した。「そう。それはぼくもそう思う。やっぱりA級にいるってことはすごく大事よね」。
「ただ、あの局はいけなかった」と成岡が語るのは、南1局【牌譜14】。亀井は11巡目にチーテンを組む。
































確かにこのとき、亀井は「当たる」という顔で

成岡の言うように、この半荘はこれ以降アガリが一度も出ず、亀井にラスがついた。やはり上級生は、このフィールドをよく知っている。
そういえば・・・藤森、いたか?
◆◆◆ 15回戦B卓 ◆◆◆
〈西尾△5・山田△1・小川0・田中8昇〉
【田中、本日3連勝目】
東4局(小川30→田中70→山田50→西尾)、オヤの田中がトップ目小川から78。

















◆◆◆ 16回戦A卓 ◆◆◆
〈藤森△2・愛澤△2・成岡3昇・山田△2〉
【我慢の男・藤森の勝負時】
藤森は登場回数が少ない。フーロもアガリも少ないのである。聞けば、ネットマージャンでも同様にフーロ率とアガリ率が低いのだそう。ある意味では我慢が利く打ち手である。一方で、それは消極的と紙一重でもある。
東3局(ドラ




その一部が見えたのは南1局その2【牌譜16】、その1で藤森が13オールを引いた直後である。















オーラスでも同じだ【牌譜17】。点数状況的にトップを目指して前に出るしかない藤森は、早々にチーテンを入れてツモ切りを続けた。その圧が、成岡との挟み撃ちを演出すると、トップ目山田に成岡のロン牌を打たせ、藤森がアガらずのトップをもぎ取った。
◆◆◆ 16回戦B卓 ◆◆◆
〈小川0・田中9昇・亀井0・西尾△5〉
【田中、本日全勝】
一方の攻撃番長田中。東2局その1の30でトップ目に立つと、その2では5巡目になんとも珍しいトップ目からのリーチ。


















対局後、藤森と話した。
藤森は、学生だった22年前、マージャン101が両国で行われていたときに通っていたと言う。ではなぜそのときに101選手を始めなかったのか。大学卒業とともに東京を離れてしまったためである。そんな藤森が、4年ほど前に東京に帰ってくると、また101に通い始める。押し時だけは逃さない男である。勝負所と見極め、意を決して順位戦の門を叩いた。
藤森は、順位戦選手では珍しく、ネットマージャン「天鳳」もやる。家にいるときには食事か天鳳かという生活だ。ラスに大きなマイナスがつく天鳳のルールは、我慢の男にお似合いだ。
45歳の遅れてきたルーキーは、こうして色々なところから吸収していく。そうやって、じわりじわりと先輩たちに近づいていく。本当に少しずつの歩みだが、粘りの男にとってはその歩みがたまらなく楽しい。
A級新1年生は、怯えながらも着実に歩を進める。
第2節自戦記(13回戦B卓:田中 実)
第2節2日目の1回戦め。1日目は◎−◎−。ここまでの今期成績が6昇と上々なのだが、なぜか昇を伸ばせば伸ばすほど焦ってしまい、昨日の最終戦(12回戦)では南4局でオヤの仕掛けに放銃しトップめから転落。追う立場からしたら、勝手にコケてくれるほどありがたいことはないだろうから、それだけはないように、と誓った朝だった。
No.1【東1局】
北家スタートです。いわゆるラスオヤ、これを嫌がる人も多いですが、私はあまり気になりませんね。嫌がる人たちは、南4局のオヤカブリでラス、もともとラスめでそのまま抑え込まれる、ことに囚われすぎなんじゃないでしょうか。そうならないように、いくらでもやり口はあるはずなのに。
成岡の仕掛けで、流局へまっしぐら。悪くない出だし。
No.2【東2局】
ワンズのリャンカン、だけ外し残した
に
がくっつき8巡目のツモ
でサンショクイーシャンテン。だが
を打ち出してまでアガリに向かう気はなく、さらに
も余ったとなれば完全に手じまい。なんでも突っ込んでると思われてるけど、そうでもないのよ。
No.3【東3局】
流局が続き、ラスオヤなのでこの辺で点数の動きが欲しい。もちろん自分のアガリで。そして配牌はアガってくださいと言わんばかり。ところが引いたソウズがで安くなるわ形も悪いわ、で諦めかけた。ダメ押しで
が3枚も打たれ、ドラタンキへの変化だけを期待していたが、タンヤオに変わり、さらに10・20回避も確認した上でのマンガン!成岡のアガリ逃しで、高くアガらせてもらって、これは足を向けて寝られませんな。
No.4【東4局】
さてリードも得たので、ここは無難にやり過ごしたい。まっすぐアガリに向かっていれば簡単だったが失点なく局が進めばまあ良し。
No.5【南1局】
サンショクにもイーペーコーにもならず、安め安めと引いての3・6だが、気分のよいアガリ。14オールで連荘より、1分ちょいで1局進んでゴールが近づくほうが追加点としての価値が高いでしょ。
No.6【南2局】
途中までは、この局もアガリを目指して進めていたがツモで和平を目指しました。一国だけ核を保有してるような状態になったので三者とも無抵抗主義者に。ツモられなくてよかった。
終盤お祈りしながら、もっとかっぱいでおけばよかったと思ってるんだから、人間とは勝手なもんだ。
No.7【南3局その1】
待ちのチートイツになってしまった。早めに
を離してアガり切れることってあるんだろうか。小川の
のターツ外し、
が重なったところが、唯一あり得たかもしれないが、ここでチートイツに決めるのはやっぱり無理かしら。
小川のポジションならばリーチもありそうだが、ツモれた場合はひとまずラス抜けで十分、愛澤からの万が一があると思っていたのかな。
No.8【南3局その2】
いきなりが3枚になり、小川の追撃を自力で阻めそうだ。東4局の打ち方をするような人間なら
には手をかけず、迷わず
を落としていく手に見える。が、成岡が
を並べたことにより将来的にペン
が良い待ちになることもかなりありそうだ。ツモ
ですぐ
を離しツモ
でドラも引っ張らずアガリを一直線に目指した。思惑通り、ペン
のテンパイを組めた。
からの
のメンツが先にできたときは、しまったか!とは思ったもののまだ手じまいするわけにはいかない。
成岡の道中、サンショク絡みのスライド選択が面白い。最後は対小川までを考えて愛澤の現物ではないを選んで放銃となった。南1局のオヤカブリの影響でラスめ愛澤は、無理めの仕掛けでラス抜け、ノー和了でもなかなかラスにならないのはこういう仕掛けに秘密があるのか。
No.9【南4局その1】
前局うまくアガリを拾えたとはいえ、小川との点差は小さい。ラス抜け争いも熾烈なので、どちらかがアガってくれることを期待したいが、ボンヤリしているうちに小川にツモられてもかなわないので強く出る姿勢は崩したくない。うまくを合わせられたので、その後は無理せずアガリを目指すことに専念できた。待ちの選択でアガリを逃している小川だが、逆転の手なので最後までがんばった結果一気にラスめまで転落。ヤミの20オールを悔いている?
No.10【南4局その2】
トップはかなり堅くなり、ラスを選ぶ余裕もありそうだ。しかし、このとき成岡・小川は1昇、愛澤△1では誰のラスが良いかは明確ではない。意図的に助けた人に後で追いつかれると気分が悪いので、ここはラス抜け争いを静観することに。
この4人での対局は、昨年最終節の時と同じ結果になった。じつは今期のA級は、A級の先輩はこの3人だけなので、挑む気持ちが一際大きい組み合わせだった。四半世紀以上やってる大先輩方を相手にしての連勝は格別にうれしい。
(文中敬称略)
第39期順位戦A級 第2節 星取表 (6月23・24日/東京)
選手名
|
開始前
|
9回戦
|
10回戦
|
11回戦
|
12回戦
|
13回戦
|
14回戦
|
15回戦
|
16回戦
|
終了時
|
順位
|
田中 実
|
4昇 | A ◎ | A − | A ◎ | B − | B ◎ | A ◎ | B ◎ | B ◎ | 10昇 | 1 |
愛澤 圭次
|
△1 | B ● | A − | B ◎ | B ● | B − | A − | A − | A ● | △3 | 7 |
成岡 明彦
|
±0 | B ◎ | B − | B − | A ◎ | B − | B − | A ◎ | A − | 3昇 | 2 |
亀井 敬史
|
±0 | A − | B ◎ | B ● | B ◎ | A ◎ | B ● | A ● | B − | ±0 | 3 |
西尾 剛
|
△4 | B − | B ● | A − | B − | A − | A − | B − | B ● | △6 | 8 |
小川 隆
|
1昇 | A ● | A ◎ | B − | A − | B ● | B − | B − | B − | ±0 | 4 |
藤森 弘希
|
±0 | A − | B − | A − | A − | A ● | A ● | A − | A ◎ | △1 | 5 |
山田 史佳
|
1昇 | B − | A ● | A ● | A ● | A − | B ◎ | B ● | A − | △2 | 6 |