第35期八翔位決定戦

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観戦記:山田 史佳

 今なお記憶に鮮明に蘇るのは、第8回戦ラスオヤ愛澤が最終手番のを強めに叩きつけた光景だ。
 八翔位になれるのはたった1人だけ。その1人になるために全員が全力を注ぎ覇を競いあうのだが、八翔位が自分以外の誰かに取られそうになった場合は他3人は力を併せ当然それを阻止しにいくものである。
 思えば、八翔位を決めさせまいと特に必死にもがき苦しんでいたのは愛澤だったのではないだろうか。


 最初に、あれと思ったのは4回戦(愛澤0・坂井△2・五十嵐0・村田2)の南3局のことだった【牌譜1】
 愛澤はラス目であることから、9巡目の坂井からのをポンして20のテンパイを取るだろうと思っていたらスルーした。結果的にアガれなかったものの52のテンパイとなるのだが、ラス目なのになぜテンパイを取らなかったのか聞いてみた。
 「ここで20をアガって局を進めたところで、村田がトップを取るのが楽になるだけで、3昇になってしまうと優勝させないためには必ずラスを引かせなければならなくなるから。」と聞かされて、ハッとした。
 優勝を阻止するとなれば、当然3対1になるのだから、ラスなど簡単にひかせられるだろうと考えていたが、よく考えれば誰かをトップに押し上げることよりもはるかに難しいということを再認識した。
 優勝条件を満たされてしまうと相当な協力はもちろん、展開にも恵まれなければその座から引きずり落とすことは難しく、4回戦の段階ですでに村田包囲網を敷く必要があったのだ。
 これが8回戦などであれば、当然そういう意識も強くなるのであろうが、4回戦の段階ですでに愛澤は村田徹底マークの構えを示していた。
 早い段階で阻止できるものは阻止するという徹底したマージャンに驚かされた。結局村田にトップは取られてしまい、優勝条件(3昇)を満たされてしまうのだが、7回戦で3者の協力が実り村田のスコアを2に落とした。

 だが、8回戦(村田2・坂井△1・五十嵐0・愛澤△1)南4局で村田包囲網に大きな亀裂がはいる【牌譜2】
 微差とはいえ絶対にトップを取らしてはいけない村田がトップ目、ここはラスを引き受けてでも村田以外をトップにしなくてはいけない局面であった。当然南4局の愛澤のリーチには五十嵐か坂井のどちらか、否最後は2人ともが差し込みにいくのだろうと思っていた。だが、やはりラスを引き受けて、自分の身を犠牲にするというのは人間だれしも辛いものである。なにせ1度ラスを引いたら2回トップを取らないと昇が伸びないのが101。デカトップなどないのだ。そして簡単にトップを取ることができないということから、五十嵐、坂井共に愛澤のリーチには差し込まずに流局となった。しかもテンパイを崩してまで。八翔位決定戦の8回戦であれば、10回戦で決着がついてしまう可能性を潰し、その後の延長戦で何百回でも打って勝とうという気持ちで村田のトップを阻止するために差し込むのがきっと良かったのではないかと思って見ていた。

 9回戦でラスを引かせられなければ、10回戦でラスを引かせればという気持ちになってしまうのも当然わかるが、3対1で誰かをトップに押し上げるよりも、特定の誰かをラスに押し付けるというのは遥かに難しいものであった。村田は9回戦も悠々と3昇を守り、迎えた10回戦(愛澤△1・五十嵐0・村田3・坂井△2)南4局【牌譜3】
 ラスさえ引かなければ優勝という村田の状況だが、配牌を見るにツモ次第ではアガれるかもしれない手かなと思って見ていた。6巡目のチーは、私には到底真似できない仕掛けただと思ってみていた。アガリたいのだから、当然ブクブクに構えるだろうと思っていたがも抱えず、見事にをアンコにして役アリのリャンメンマチとなった。正直何が起こっているのかわけがわからなかった。ラス目で、どうしてもアガらないといけなくて、でもすごく苦しくてどうせたよりなら、最終手出しがになぜならないのか、魔法のような手順だと思った。そして五十嵐はツモった場合はラスなしになってしまうテンパイを組むのだが、これもまたすごい。当然村田に放銃はできない。手牌が透けて見えているのか?と思えるようなピンズの的確な止め方だった。ワンズだって、通っているわけではないのに、村田のロン牌をとめてテンパイ復活。なんと村田から激薄のロン牌を討ち取ってラスに押し付けた。

 さて、延長戦に持ち込めば10回戦までとは打って変わってやりやすくなる。決着権をもっている人間をラスにしなくとも、自由にトップを取ることができる。しかし圧倒的に村田優位であることは違いなく、村田がドラジャントウのリーチであろうと読み切って、必死に手を潰そうと追いすがる愛澤の決意の現れが11回戦東3局のこのリーチであろう【牌譜4】
 私であれば、ドラジャントウのリーチだと分かっても、相手のマチがであろうと分かろうと、この追いかけリーチはできない。ひとまず五十嵐がトップ目であるし、わざわざ自分が戦おうとは到底思えないであろう。この覚悟の差が、私と愛澤の雀力の差なのであろうか。

 そんな我慢が実ったのだろうか、愛澤は12回戦、13回戦と連続してトップ。決着権こそ手にしなかったものの、1昇まで戻した。

 正直、スコア的にも優勝するのは村田・五十嵐・愛澤の誰かだろうと思っていた。気持ち的には愛澤に優勝してほしいというものがあったが、アシストなどがあるためこの3人の誰が優勝するかは全くわからなかった。
 そんな中、五十嵐の優勝を決定づけるアガリとなったのは、やはり17回戦東4局であろう【牌譜5】
 愛澤、坂井がテンパイであるなしに関わらず、やはりこの局面は五十嵐にだけは放銃しないのが良いのではないのかなと思って見ていた。もちろん、最終的に五十嵐をトップにしないように村田は動くのであろうが、せっかく放銃しなくても済む牌を持っているのだから、ここは静かに流局を待っていても良かったのではないだろうか。
 そして五十嵐のダメ押しと言えるのが南3局のアガリであろう【牌譜6】
 打点はないが、2人の仕掛けを掻い潜り供託も回収しトップ目を維持したまま南4局へ突入させた。当然南4局は五十嵐にトップを取られないように残り三者は頑張ったのだが、健闘むなしく流局。見事五十嵐が優勝を決めた。


 1回戦からすべてを見ていたが、優勝を決定づける何かが起こっていたのかなと思った。うまく表現することはできないが、八翔位を取らせまいという協力体制であるというか、ほんの瞬間でも優勝条件など満たさせないぞという気合で臨まないと危うい展開になってしまうのかなと思った。しかし条件を満たさせないために自分が犠牲になりつづけるのも難しいし、八翔位戦というゲームの真髄がまだまだ理解できていないなと痛感した観戦だった。

 最後になりますが、五十嵐さん優勝おめでとうございます。みごとなアガリを何度も見られて驚かされました。

第35期八翔位決定戦 成績表


11月10・17・18日 12月15日/東京(11月17日はスリアロチャンネル)

選手名
10
11
12
13
14
15
16
17
スコア
坂井 準司 八翔位 △5
愛澤 圭次 A級 1昇
五十嵐 毅 新潟 3昇
村田 光陽 東京 1昇


第35期八翔位戦 システム

【出場資格】
・麻将連合推薦、オープン参加選手及び連盟所属選手
・ オープン参加選手は、昨年度のマージャン101における打荘数が24ある者から各支部内で選抜。
【1次予選】
・各卓4戦(1日)を戦う。
・規定回終了時のスコア上位2名を勝ち上がりとする。
・4回戦終了時に上位2名が確定しない場合は、これが確定するまで延長戦を実施する。
【2次予選】
・2次予選シードの連盟所属選手及び1次予選通過者により行う。
・各卓6戦(2日)を戦う。
・規定回終了時のスコア上位2名を勝ち上がりとする。
・6回戦終了時に上位2名が確定しない場合は、これが確定するまで延長戦を実施する。
【準決勝】
・2次予選通過者により行う。
・各卓6戦(2日)を戦う。
・6回戦終了時に単独で2昇以上の首位者が決定戦の出場資格を得る。
・6回戦終了時に単独で2昇以上の首位者が発生しなかった場合は延長戦を実施し、7回戦以降はその回の開始時の首位者のスコア+1昇に単独で到達する者が発生するまで延長戦を実施する。
・「初めて、4者同スコアで決着権がある状態」となった場合は、その一戦の終了時の単独首位では決着としない。
  ただし「再度、4者同スコアの状態」となった場合は、同戦終了時の単独首位で決着とする。
【決定戦】
・八翔位及び準決勝通過者により行う。
・10戦(1日4戦)を戦う。
・10回戦終了時に単独で3昇以上の首位者を優勝とする。
・10回戦終了時に単独で3昇以上の首位者が発生しなかった場合は延長戦を実施し、11回戦以降はその回の開始時の首位者のスコア+1昇に単独で到達する者が発生するまで延長戦を実施する。
・「初めて、4者同スコアで決着権がある状態」となった場合は、その一戦の終了時の単独首位では決着としない。
  ただし「再度、4者同スコアの状態」となった場合は、同戦終了時の単独首位で決着とする。